エミナーに言われた通り、僕は憎らしい三人の顔を頭に浮かべた。そして、「地獄に落ちろ」と強く念じる。
すると、その数秒後、僕の頭からどす黒く太い影が出てきた。得体の知れないそれは、エミナーの方へと飛んでいく。
「はい、ありがとうございます。貴方の憎悪の塊を、取り出す事に成功しました。……貴方の闇は、海の様に深く大きなモノの様です」
エミナーの言葉に、僕は納得する。そうかこれは、僕の黒い部分なんだな。まるで、影は生きている様に、彼女の綺麗な手の中で激しく動いている。
「お次に、貴方の髪の毛一本と、一滴の血液を頂きますね」
「あ、あの……採血をするんですか ?」
「いえ、その必要はございません。もう、貴方の体内から、勝手に頂きましたので。髪の毛の抜き取りも終わりましたよ」
エミナーは僕にそう答え、宙に浮く小さな血の塊と一本の髪の毛を僕に見せた。凄いを通り過ぎて、恐怖さえ感じるよ。魔女って、何でもありだな。
僕の血液と髪の毛を、エミナーは影の中へ入れた。
「はい、これで完成です。これから、この貴方の怨念を分割し、三人へ送ります。そうする事で、呪いが始まります」
僕が深く頷くと、エミナーは影を空中へ舞い上げ、呪文を唱える。
「エマタイロノヲラレカ……エマタイロノヲラレカ」
そうすると、影は小さく三つに分かれた。そして、勢いよく動いて壁をすり抜け、外へと出ていく。
「ちなみに、呪いはいつ発動するのか分かりません。……お二人とも、この度は魔法相談所をご利用頂き、誠にありがとうございました」
「エミナーちゃん、こちらこそありがとう。……飛華流君には、少しがっかりしちゃった。もう、そろそろ帰るね」
凛はどこか悲しげな瞳で僕を見つめ、スッと席を立った。どうして、凛は僕の気持ちを理解してくれないんだよ。僕がいじめられているのを知っているはずなのに……そんな凛に、僕の方ががっかりだ。
ふと窓の向こう側を見ると、辺りはすっかり暗くなっており、天気も荒れていた。おい、嘘だろ。この激しい雨風の中、あの危険な道を通って、帰らなければならないのか ?
「夜道は危険ですので、私が貴方達を家までワープ致しましょう。目を閉じ、頭の中に自分のご自宅を浮かべて下さい」
エミナーの親切な対応に、僕らは救われた。
「エミナーちゃん、本当にありがとう。……飛華流君も、言われた通りにしてね」
凛に頷き、僕は彼女と共に脳内でそれぞれのマイホームをイメージする。
それから、数秒後……。
「はい、目を開けて下さい。ご自宅に到着しましたよ。魔法相談の料金は、後程請求させて頂きますので、宜しくお願い致します」
落ち着いたエミナーの優しい声で瞼を上げると、僕はずぶ濡れで家の前に居た。そんな事も出来るなんて、驚きだ。まるで、夢でも見ていた気分だ。
だが、どうしよう。お金を取られるなんて、知らなかったよ。まあ、あいつら三人が不幸になるのなら、いくらかかっても良いや。僕のお年玉、全額でもくれてやるさ。
それにしても、どうしてこんな町に魔女なんかが居るんだ ? そして何故、魔女は森で暮らしているのだろう……。そんな、いくつかの疑問を、いつかエミナーに聞いてみたいな。
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