乃恵留と言う人は恐らく、子供をほったらかしにて遊びに出かけた、この前に会ったあの菊谷の妻の事だろう。また、子供を置いて、どこかへ出かけたのか。そして、菊谷は我が子の世話を、メンバーに押し付けているんだな。全く、イナズマ組の人間は自由人が多いな。
二人の後に続き、僕は薄暗い穴の中へ足を踏み入れていく。そこには、大量の落ち葉の山と、入り口で菊谷が作っていた石のタワーがあった。
「こんな所で住んでいるのかって、驚かれるかも知れないが、不自由な事は何一つないのさ。この葉っぱの布団に潜れば、寒い冬だってしのげる。それに、暇な時は石を投げたり、積み重ねたりしていると、気づけば時は流れているもんなんだ」
菊谷は愉快に笑って、そう言った。いやいや、もう子供じゃないんだし、危ないから石を投げて遊ぶなよ ! ……と言うか、サバイバル生活かよ ! この人達も、いろいろと大変なんだな。
「あー、乃恵留の奴……また何か盗んできたな。あれ程、不必要な物は盗まない様にと言っているのに……困るなー」
高級そうな服や鞄、アクセサリー等が置かれたスペースに目をやり、菊谷は苦笑いする。それはさ、こんな過酷な生活をしていれば、物の一つや二つ、盗みたくなるだろう。
服や鞄が置いてあるスペースには、他にもカイロや布団等の日用品もある。まあ多分、全ては乃恵留の物なのだろうけれど。少しくらい、夫や子供に分けてやれば良いのに。
「さて、この辺りに座るかー」
菊谷の言葉で、僕達は硬い地面に腰を下ろす。
すると、菊谷は真剣な表情をして口を開いた。
「飛華流君……本来のここのルールに従えば、君を殺さないといけなくなる。俺達の秘密を見た者は誰でも殺せ……と、俺はメンバーに伝えているからな。だけど、君の話はよく、永戸や優から聞かされていてな……そのうちに、俺達は君に対して、情が湧き始めている。こんな、繊細な良い子を守ってやりたいなって、思い始めているんだ」
「あ、あの……菊谷さん、許してくれませんかね……」
「んん……それを今、蓮と考えていたんだよ」
「菊谷……あの条件を、飛華流君が守ってくれるなら、特別にそれでも良いんじゃないか ?」
「んん…………」
蓮の言葉に、菊谷は頭を悩ませ、しばらく黙り込んだ。そして、少ししてから、再び口を開いた。
「よし、分かった……。飛華流君、君は俺達との約束を守れるかな ? 」
「あっ……はい。守ります……守りますから、許して下さい」
「うんうん……信用できそうな顔つきだ。まず、一つ目だが……この事を、絶対に誰にも話さないでくれ。例え、家族や友達にもな。もしも、君が誰かに話してしまえば、俺達は君の事を殺さなければならなくなる。その時は、死んで償ってもらいたい。でも、それは君を嫌いになるからではなく、俺達の命を守る為なんだ……理解してほしい。……なんだか、脅しみたいになるから、こんな言い方はしたくなかったが……怖がらず、受け入れてくれ。約束さえ守ってくれれば、君を傷つけたりしないからな」
僕は身体中の震えを必死に抑え、菊谷に何度も深く頷いた。それを見て、菊谷は言葉を続ける。
「よしよし……次に、二つ目の条件だ。君には、イナズマ組に加入してもらう。こうなる前から、誘うつもりでいたんだ。俺達の秘密を細かく教える代わりに、全てを知った君にはメンバーになってもらう。強制的ですまないが、これは絶対だからな。……さて、どうしたい ? これは、君自身で決めるんだ」
「え、えっと……その条件を守ります」
僕は自分の命を守る為、そう返事をするしかなかった。ヤンキーグループに所属するのも、ヤバい事件に関わるのも嫌だったが、こうするしかなかった。
すると、菊谷は安心した様にこう言った。
「……君が、そう言ってくれて良かったよ。飛華流君の事は殺さず、守ってやりたかったからな」
「菊谷……そうと決まれば、飛華流君に俺達の抱える秘密を、より深く知ってもらうか」
蓮も、その気になってくれたみたいだ。
「ああ、そうだな。飛華流君……君に今から、イナズマ組の隠している秘密を、全て話そう」
「……はい、お願いします」
僕は大きく唾を飲み込み、知る覚悟をした。
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