「お前の住所を教えてくれ」
住所を教えるのはまずいんじゃないかと思いながらも、僕は秀に伝える。
「あ……えっと、から市一宝町海部角田◯◯番地◯……です」
「分かった……ありがとう。十一時十分くらいに、お前の家の前に行く。夜遅いし、俺はインターフォンは鳴らさないから、時間になったら外へ出て来てほしい」
「あ、あの……僕……」
「じゃあ、また後で会おう」
秀はそう言って、一方的に電話を切ってしまった。「僕は弱いから戦えません。なので、脱退させて下さい」と、勇気を出して、秀に言おうとしたのに。
ロッキーが怖くてつい、入団する事を決めてしまったが……。スマイル団に入る気は、少しもなかった。
明日は木曜日。戦闘後の勉強はきつい。学校は休んでしまおう。
イナズマ組に手を出すのだから、生きて帰れないかもしれない。僕は今日、死ぬのだろうか。
漫画を描く気にすらなれず、僕はベッドで眠りについた。
いつもならとっくに眠っている時間に、僕はひっそりと自室を出た。
家族を起こさない様に、足を忍ばせ、冷たい階段をそっと下りて行く。
秀との、約束の時間だ !
コートのボタンを留め、首にマフラーを巻き、手袋をつけて寒さ対策は万全だ。
靴紐を結び、玄関を出ようとしたその時……。
背後から、何者かに背をツンと突かれた。
「ひゃっ……」
僕は素っ頓狂な声を上げ、猫の様にビクッと飛び上がる。誰だ ? 全く気配を感じられなかった。皆、とっくに眠っているはずなのに……。
恐る恐る振り返ると、そこにはワンダの姿があった。
「ヒル……どこ行くんだ ?」
「うわっ……え ? ワンダ……まだ起きてたの ?」
「どこ行くんだ ?」
「え ? えっと……今からスマイル団に会うんだ」
僕がそう答えると、ワンダは僕の手首を掴んでこう言った。
「俺も行くぞ」
「……駄目だよ。今から僕は、危険な場所に行くんだから」
「ヒル……俺いないと死ぬ。俺、ヒル守る」
「……どうなっても知らないよ ? それでも、一緒に行きたい ?」
「……おう ! 俺、ヒルと一緒だ」
ワンダは即答だった。
ワンダを止める事は出来そうになかったので、僕は仕方なく彼女と共に外へ出た。
すると、暗闇の中、一台の自転車がアスファルトを照らしているのが目に入った。 五分前に家を出たのに、秀は既に僕を待っていたのだ。いつから、秀はここに居たのだろう。
僕は慌てて、秀の元へ近づいて行く。
「秀さん、遅れてすみません……こんばんは」
「……ああ、こんばんは。俺が早く来すぎただけだから、あまり気にしないでくれ」
「あ……はい。……あの、妹も連れて行って良いですか ?」
僕の質問に、秀は少し考えてから口を開く。
「……悪いという事はないけど……かなり、危険だが大丈夫か ? お前はそんな場所に、妹を連れて行くのは平気なのか ?」
「あ……えっと、その……この子が、どうしてもと言うので、仕方なく……」
僕の言葉に秀はため息をつくと、ワンダに尋ねた。
「俺達に着いて来るのは勝手だが、最悪の場合は命を落とす事になる……。お前に、その覚悟はあるか ?」
「おう ! 俺、死んでもヒルと居る」
ワンダは一切躊躇う事なく、真剣な眼差しでそういった。 なので、秀はワンダを連れて行く事を渋々と許可した。
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