僕らは、次々に森の中へ足を踏み入れていく。暗がりの中、何本もの枯れ木の間を僕らは突き進む。自転車から振り落とされない様に、僕は秀の肩に必死に掴まっていた。
倒木の上を通ったり、向こう岸へとジャンプしたりと、かなり危険な運転が続く。アジトへ着く前に、崖から転落死とかしたら洒落にならないぞ。
アジトに近づくにつれ、雨が段々と激しくなっていく。冷たいシャワーを浴びている様な、そんな感覚だ。この状態でアジトを燃やすのは、難しいのではないか ?
アジト付近で自転車を止め、僕らはアジトへ忍び寄る。周囲は静かで、人の気配を全く感じられない。イナズマ組のメンバーは、呑気に眠っているのだろう。
「よし、今から俺と麗崇でアジトに火をつけてくるから、皆はそこで待機してくれ」
秀は、声を潜めてそう言った。そして、麗崇と共にライターを手にして、アジトへ接近する。
僕は一体、どちらの味方でいるべきなのだろうか。イナズマ組は、僕の事をとても気にかけてくれているし……。スマイル団は、真誠の命を救ってくれた。どちらにも、感謝の気持ちはある。
どちらの敵になっても、僕は命を狙われる。だったら、どちらの味方でもある必要がある。上手く乗り切るしか、僕に道はなさそうだ。
秀と麗崇は、ツリーハウスを挟んで立ち、ライターに火を灯す。そして、その小さな灯火を、立派な枯れ木へと移した。
雨の中、火事を起こせるのかと疑問に思っていたが……。アジトの周りにそびえ立つ巨大な木々が上手いこと屋根になり、こちらへはほとんど滴が降ってこない。
ツリーハウスへ徐々に火が広がっていく様を、僕らはそっと見守る。
「良いか……皆、油断はしないでくれ。きっと、何人かは外へ出てくるはずだ。いつでも戦える様に、ブチ、ブッ、ブシ……武器 ? ……の用意をしといてくれ」
秀は麗崇とこちらへ戻って来て、メンバーに呼びかける。緊張のせいか、言葉を噛んでしまい、秀は恥ずかしそうにしていた。
「おっと……秀は、こんな時でもしっかりとやらかしてくれるな。ハハハッ……。まあ……俺は、いつでもビシッと決まるがな」
「す、すまない……。暗殺なんてするのは、生まれて初めてだからな。変に力が入っちゃって……」
秀は麗崇にからかわれ、顔を赤く染める。この人、意外とお茶目な所もあるんだな。
気づけば、ツリーハウスはだいぶ燃え上がっていた。彼らの眠っている小屋まで、炎がかなり迫っている。
ツリーハウスから、灰色の煙がもくもくと出ている中、焦げ臭い匂いも漂ってきた。
雨の中だろうとお構い無しに、炎がツリーハウスを燃やしていく。その、勢いを落とさない炎には、スマイル団の強い憎悪が込められている様に感じた。まるで、炎は命が宿っているかの様に、ツリーハウスを飲み込んでいく。
炎が、小屋を包み始めてきた頃……。
「おい、起きろーー ! 火事だ……火事だーーーー」
小屋の中から、男の叫び声が聞こえた。
すると、数人の男達が小屋の中でザワザワと騒ぎ出す。その途端、勢いよくドアが開き、パニックになった男達が、「ゴホゴホッ……」とむせながら姿を現わす。
白煙が辺りに広がり、僕らの視界を妨げていく。
ツリーハウスから、次々にイナズマ組のメンバーが飛び降りてくる。
「ウガァーーーーッ ! 熱い熱い熱いーーーー !」
燃え盛る炎の海へダイブしてしまった男の何人かが、痛ましい叫び声を上げる。彼らはそのまま、炎の中で死んでしまった。 今の所、秀の予想通りだ。
「うわーー、火事だーーーー ! 誰か助けてくれーーーー !」
「死にたくない死にたくないーーーー」
「あーーーーーーーーーーっ……」
完全に炎に包まれた小屋から、いくつかの狂った悲鳴が聞こえる。逃げ遅れたメンバー達だ。彼らの声は、直ぐにピタッと消えた。
「ゴホッ、中にまだ残ってる奴がいる。……早く助けねーと」
「よせ、永戸。もう、中に居た奴らは皆、焼け死んでる。ゴホッ、それに、俺達もここから避難しないといけない」
ツリーハウスへ走り出す永戸の前に、蓮が立ちはだかる。
「はっ ? まだ生きてるかも知れないだろ。ゴホッ、そこ、退けよ」
「駄目だ……危険すぎる。助けに行ったお前が、死んじまうよ。ゴホッ」
それでも仲間を助けようとする永戸を、蓮は止めた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!