菊谷目線
今からおよそ二年前の、雪降る夜……。
俺はいつもの様に、相棒の蓮と町で盗みを犯していた。
あれは、食料品の大量に入った買い物カゴを手に、二人でアジトへ向かっていた時の事だった。
街灯の少ない奥の細道から、かなり細い人影が、一人でゆらゆらと揺れているのが見えた。
「なあ、蓮……あれは何だろうなー」
「さあな……酔っ払いとかだと思うけど。こっちに近づいて来る」
蓮の言う通り、あれはただの飲んだくれかもしれない。
けれど、あの影……人間にしては異様な細さだ。まるで、棒人間の様に、薄っぺらいシルエットをしている。人だとしたら、生きている事が不思議なくらいだ。
影はだいぶはっきりとしてきて、中学生くらいの少年だと分かる。片目を隠し、黒髪のあどけない顔をした少年。彼の手足は木の枝の様に細く、骸骨が歩いているみたいだった。
「ちょっと……君、大丈夫か ?」
きっと、何かあったに違いない。俺は、咄嗟に少年の元へ駆け寄り、声をかけた。
しかし、少年は生気のない顔をしていて、俺と一切、視線が合わない。彼の着ている服は、何故か血が染み付いていて、ところどころに穴が空いている。
「……お、おい。俺達の事、見えてるか ?」
「…………」
蓮も少年の異様さに気づき、彼に呼びかけるが、彼は一言も返してこない。この子、本当に大丈夫だろうか。
バタンッ…… !
少年はフラフラと蹌踉めきながら、冷え切ったアスファルトへ倒れてしまった。
「おい、大丈夫か……しっかりしろ。……菊谷、この子……どうする ?」
「んん……とりあえず、アジトまで運んで様子を見ようか」
俺は少年をそっと抱きかかえ、蓮とともに走り出す。成長期の男子一人を抱えているにも関わらず、その重みは全く感じられない。
「こ、この子……軽すぎるぞ。ちゃんと、ご飯を食べているのか ?」
「……もしかしたら、食べ物を口にできる状況ではなかったのかもしれないな。何か食べさせてやらないと、死んでしまうかもしれない……急ごう」
蓮は心配そうに少年を覗き込むと、足を早めた。
枯れ木の茂、森の中……。
俺の暮らす洞窟の中へ、少年を運び入れた。そして、焚き火の側で少年を寝かし、上から落ち葉の山を被せてやった。これで、冷え切った体も温まるだろう。
少し経ってから陽翔が中へ入って来て、死んだ様な顔の少年を見るなりこう言った。
「菊谷さーん、蓮さーん、このガリガリ骸骨野郎は何なんすかー ? 薄気味悪いですよー」
「陽翔……お前は、このイナズマ組のメンバーなんだぞ ? ……だから、人を思いやる気持ちを持たなければいけない。俺は、いつもそう言ってるじゃないか」
俺は陽翔に軽く注意をし、静かに眠る少年の様子を見ていた。その間に、陽翔は他のメンバー達に「変な奴が来たぞ」と騒いで、彼らをここへ連れて来た。
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