ベチャベチャビチャ……。
トントントン……。
グシャグシャグチャ……。
下から、材料を刻んだり潰している様な、料理をする音が聞こえてくる。うっわ、本当にこんな臭い場所で、料理をしているのかも。それなら、この異臭は残飯や生ゴミだろうな。
階段を下り終えると、目の前に木製のドアがあった。この向こう側から、陽翔と愛羅らしき人物の、会話が聞こえてくる。
「……ちっ、たくよー。永戸のせいで、俺様の貴重な時間が、潰れちまうじゃーねーか」
「もう、陽翔君……永戸君を、あまり責めないであげて ! 永戸君だって、好きでこんな事してないんだもん」
陽翔の声に、僕はドアノブを掴む手を止める。
「愛羅はよー……そんなに、永戸が好きなのかー ?」
「うん、愛羅ちゃんは、永戸君が大大大好きだよ ! 永戸君の為なら、なんだって頑張れるの」
「ちぇっ……永戸の奴、俺の愛羅の心を奪いやがったな……」
「ごめんね……陽翔君、愛羅ちゃんは、永戸君の物なの」
愛羅も、よく平気でそんな事が言えるな。
「……それに、ここに運ばれて来る奴らは不細工ばかりで、食う気にもならねーよ」
不細工って、なんの事だろう。魚か何かの顔の事か ? 陽翔が何の話をしているのか、全く分からない。
僕はひっそりとドアを開け、その隙間から中の様子を覗く。もう、お腹の痛みは和らぎ、忘れつつあった。
最初に目に飛び込んで来たのは、テーブルに置かれた大きな何かを円になって囲む、十人程度のメンバーの姿。その中には、陽翔と愛羅も居た。
しかし、永戸の姿はここにはない。一体、どこへ行ったのだろう。もう、あの部屋へ戻っているのかな。
彼らの手には、ハンマーやトンカチ、ノコギリやナイフ、大き目の石等が握られている。そして、それらを使い、目の前の物体を必死にバラバラにしていた。
すると、その何かから赤い液が飛び散り、彼らの服を汚す。あの物体は、何なのだろうか。この森に住む鹿や猪等の獣か……それとも、川で釣れた巨大魚か ?
細かくちぎった具材をグツグツ煮えたぎる鍋に、メンバーは次々入れていく。
スポッ……。
何かが素早く切れた音がし、床へ落ち、こちらへ転がってくる。それを見て、僕は叫びそうになった。
だ、男性の生首だ。
陽翔は転がる生首を拾うと、ハンマーで細かく砕き始めた。おいおい、嘘だろ ? 嘘だと言ってくれよ。僕が今まで食べさせられていたのは、人肉スープだったのか ?
肉の塊となったそれを、陽翔はスープへ放り込む。随分と慣れた手つきだった。
僕は、あれを……人間の肉を、「美味しい」と言って食べていたのか ? スープから異臭がしなかったのは、あの赤い木の実を混ぜているからだろうか。
床をよく見ると、目玉や指、耳等が散らばっていた。部屋の奥の方には、死体が山積みにされている。
一体、どうなっているんだ ? 今、メンバーに気づかれてしまったら、僕もあんな風に丁寧に料理されてしまうかもしれない。そんなの嫌だ。
「でも、飛華流君も可哀想だよねー。このスープが人肉だとも知らずに、美味しそうに食べてるんだから」
愛羅のその言葉で、僕は猛烈な吐き気に襲われる。ううっ、気持ち悪い。今にも吐き出しそうだ。
もう帰ろう。そう思い、動こうとしたその時…………。
「飛華流……お前、見たな」
背後から、永戸に声をかけられてしまった。
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