「……あいつは、やりたくない事を必死に頑張る奴だ。どれだけ虐められても、傷ついても、やめようとしねー。……永戸は飛華流君の事を、そう言ってた。俺を含め、イナズマ組のメンバーのほとんどが、やりたくない事から逃げてきている。……それで、お前の事を皆、凄いと思ってるんだ。だから、お前はもっと自分に自信を持てよ」
「あ、そうなんですか。それは、嬉しいです……ありがとうございます」
ずっと沈黙が続いていた中、蓮がそんな言葉を発した。
まさか、永戸が僕の事をそんな風に話していたなんて……。僕の苦痛や苦悩なんて、誰も見ていないと思っていた。全て、無意味だと思っていた。
でも、僕の頑張る姿を見守ってくれている人がいて、こんな僕を尊敬してくれている人もいたんだ。
僕は胸がジーンと熱くなり、溢れる涙を必死に堪えた。
「うあーーーーっ ! 町へ出れば皆、俺を笑いやがる……ゴミ扱いしやがる。これ以上、無意味に生きてられねーー。死んでやるーーーー」
近くで男の泣き叫ぶ声がし、僕らはその方向へ目をやった。
すると、人相の悪い男性が目に涙を浮かべ、自分の体へナイフを突き刺そうとしていた。そんな彼を、二人の男達が必死に止めている。
「なあ、落ち着けよ ! 例え、世間がお前の敵だとしても、俺達だけはお前の味方なんだから」
「笑いたい奴には、笑わせとけば良いだろ ! お前に限らず、俺達イナズマ組は皆、そんな目に遭ってるんだからよー」
どうやら、彼ら三人はメンバーのようだ。自殺しようとしている男は、精神が崩壊してしまっていた。
「……俺達は、世間から白い目で見られているからな。中には社会のクズだとか、暴言を吐いてくる酷い奴もいるんだ。そのせいで精神が崩壊して、自殺しちまう奴も何人かいたよ」
「………………」
蓮が、悲しそうにそう言う。僕はなんと返せば良いか分からず、黙って聞いていた。
「見た目で怖いと感じさせると思うけど、俺達はとても繊細なんだ。傷つきやすくて、壊れやすい。……だから、お前が思っている程、恐ろしくもないし、強くもない存在だ……」
「……メンバーの皆さんは、良い人だと僕には分かります。よっぽど、僕の周りで一般的な生活をしている人の方が……意地の悪く、心が腐った人間ばかりですよ」
蓮の率直な言葉を聞いていたら、僕も頭で思っていた事を正直に発する事が出来た。
「……お前みたいな純粋で良い奴が、俺達の仲間になってくれて本当に良かった。お前の言葉で、気が少し軽くなった……ありがとう」
蓮は、僕にそんな返事をする。僕の言葉は、蓮の心に響いた様だ。
「……少し待ってくれ。また、あいつが来たみたいだ」
しばらく、獣道を走っていた蓮が、ピタッと足を止める。そして、周囲をぐるっと見渡し、一本の大きな枯れ木を見上げた。
「フッハハハハハ……。僕が後を追って来ている事に、気づいていたんだね ?」
「……いや、足音が近づいて来ているのに気づいたのは、ついさっきだ」
木の上から飛び降りて来た永戸に、蓮は冷静に言った。
永戸はまだ気狂ったままで、横腹には中くらいの穴が開いている。その傷口から、ダラダラと血が垂れていた。
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