MARVELOUS ACCIDENT 未知の始まり 【訂正前】

闇で歪んだ世界
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公開日時: 2021年11月14日(日) 08:03
文字数:1,353

 菜月はなんとか愛羅てぃあらから逃げ出し、この場から立ち去ろうとする。

「レッドアイ、さよなら。これでもう、お別れよ」

「ま、待って……くれ。菜月……菜月っ !」

永戸は消え入りそうな声を出し、堪えていた涙をポロポロと流した。この光景は、見ているこっちまで辛くなる。

永戸にとって、菜月は大切な宝だっただろう。彼は心から、菜月を愛していたのに。まさか、菜月は本気じゃなかったなんて……。


永戸はよろよろと歩き出し、地面に転がっていた血の滲んだナイフを手に取った。あれは、さっきまで僕が使用していた物だ。永戸は、何かするつもりなのだろうか。


「菜月、どこにも行くな。菜月は俺の物だ」

永戸はボソボソと、菜月の小柄な背中に言葉をぶつける。彼女は足を止める事なく、ひたすら永戸から遠ざかっていく。

すると、永戸は握っていたナイフを、菜月に向かって素早く投げ飛ばした。その途端、菜月は左胸から血を吹き出し、地へ倒れてしまう。彼女の体にはぽっかりと小さな穴が開いており、ナイフが貫通した事が分かる。心臓を貫かれ、菜月は即死してしまったみたいだ。


「な、菜月っ ! おい、菜月ーー」

我に返ったのか、永戸は慌てた様子で菜月の元へ駆け寄る。そして、彼女に心臓の動きがない事を確認すると、永戸は泣き出した。

「ぐっ……しまった。つい、やっちまった。菜月……菜月ーー。別に俺の事が嫌いでもなんでも良いから、目を覚ませよー」


無表情のまま、そんな様を黙って見ていた愛羅てぃあらは、永戸に優しく声をかけた。

「その子は、永戸君を最後まで理解しなかったね。……だけど、愛羅てぃあらちゃんは違うよ。永戸君がレッドアイだろうと、何人も人間を殺していようと、愛羅てぃあらちゃんの気持ちは変わらない。永戸君の全てを、愛羅てぃあらちゃんは受け入れる。だって、何をしていたって、永戸君は永戸君だからね」

「そうか……愛羅てぃあら。お前は、こんな俺でも嫌いにならねーのか。初めて俺がレッドアイだって知った時も、お前は俺を理解してくれたよな。愛羅てぃあら……ありがとな。俺は菜月に裏切られた。……けど、菜月を嫌いになれねーんだよ。お前が俺を想ってくれてるのと、同じ様な感覚なのかもな」

永戸は菜月の死体をそっと抱き抱え、僕らに背を向け、ふらつきながら歩いていく。直ぐに、愛羅てぃあらは永戸を呼び止めた。

「永戸君、待って ! どこに行くの ?」


永戸は、振り返らずに言った。

「んっ ? お前には関係ねーし」

「お願い、そんな事を言わずに教えてよ」

「……俺は、この町から出ていく。どっか遠くに行くんだ。お前らの言う通り、俺はただの化け物だから……」

「違う違うっ ! 永戸君は化け物なんかじゃないよ。永戸君は、繊細で純粋なんだよ。だから、愛羅てぃあらちゃんが守ってあげたい。愛羅てぃあらちゃんも、一緒に連れてってよ。愛羅てぃあらちゃんは、永戸君なしじゃ生きていけないの」


「駄目だ。俺の体内には、常にエモが潜んでる。また、いつ暴れ出すか分からねー。お前らと一緒に居たら、俺はいつかお前らを気づかないうちに殺しちまうかもしれねー。俺は……もうこれ以上、お前らを傷つけたくないから……。だから、お前らとはこれで、縁を切る。じゃあな……今までありがとな。イナズマ組に、そう伝えとけ」

泣きながら後を追ってくる愛羅てぃあらを置いて、永戸は素早く住宅の屋根へ飛び移る。そして、彼は風の様に、あっと言う間に去っていった。



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