「永戸……お前の事は、よく分かってるぞ。お前は不器用だけど、実は優しい奴だもんな。俺はちゃんと、お前を知ってるぞ」
「フッハハ……僕が優しいもんか。僕は、果てし無い憎悪に支配された生物なんだよー」
永戸は気味の悪い笑みを浮かべ、優に堂々と接近していく。彼の言う「果てしない憎悪」と言うのが、気になるな。過去に、何かあったのだろうか。
「違う……そうじゃない。人間なら誰でも、多少の恨みとか憎しみを、抱えているもんだろ。俺は、素のお前の話をしてるんだぜ」
「あー、なんだか耳障りだなー。僕はただ、生物の命で遊ぶ事が出来れば、それで良いんだ。君とのお喋りも飽きたから、早く息の根を止めてあげるね」
永戸はそう言うと、目にも留まらぬ速さで優に飛び蹴りを仕掛ける。しっかりと構えていた優だったが、永戸の攻撃をまともに食らってしまい、宙を高く舞った。
ハイジャンプした永戸は、優の真上まで行き、かかと下ろしをする。そして、急降下する優を下で待ち構え、上へ蹴り飛ばす。そんな感じに、ボール遊びの様な事を数回繰り返した。その後、優は永戸によって、勢いよく地面へ叩きつけられた。
僕達の方を向き、永戸はニヤリと笑う。どうやら、気づかれてしまったみたいだ。
僕は、永戸と目を合わせてしまった。恐怖で背筋が凍りそうだ。
「やったー。あっちにも、命があるよ。逃げないうちに、仕留めておかないとー」
「は ? 飛華流、どうしてここに居るんだよ。早く逃げろ ! 殺されるぞー」
この場に僕らが居る事に驚きながら、優は必死に呼びかけてきた。
「君達の存在に、僕が気づいてないとでも思ったかい ? 匂いや気配で、すぐ分かる……初めから、気づいていたよ」
狂った笑みを浮かべ、永戸が僕に話しかけてくる。逃げなければ……そう思っても、足に力が入らず、上手く動かせない。やばい、このままでは殺される。
一瞬のうちに、離れた距離に居た永戸が、僕達の目の前へ現れた。もう、駄目だ。皆、全滅して終わりだ。
僕は力無く崩れ落ち、ガクガクと震える。そんな僕に、頼りない小さな背を向け、ワンダは永戸の前に立った。
「ヒル、俺……守る」
「へー、なんか君って、変わった見た目をしているね。こんな子、珍しいなー。遊び甲斐がありそうだよー」
永戸が、ワンダにゆっくりと迫っていく。ワンダが危ない。僕が守らないといけないのに、恐怖で体が動かない。女の子に守られて、どうするんだよ僕は。
「永戸ー、やめろーー ! 二人に手を出すんじゃねー。気をしっかり持てーー」
優は地を這いつくばりながら、そう叫んだ。そんな彼を嘲笑い、永戸はスラッとした細長い足を振り上げる。
「フフッ、安心しなよ。君達をまとめて、地獄行きにしてあげるからさー。まずは、君からだよ……おチビちゃん」
「やめろーーーーーーーーっ !」
優が声を張り上げた直後、ワンダは僕の方へ倒れてきた。
「ワンダ……大丈夫 ?」
僕がクッションになったから、ワンダは後頭部を強打せずに済んだ。
しかし、永戸に腹部を蹴られ、ワンダはとても苦しそうにしている。くっそ……僕は、何もしてあげられないのか。
「あー ! あんな所に、邪魔者がいるねー。今からあいつらを使って、君たちを更に絶望させるとしよう」
家の二階の窓から、怯えた表情でこちらをひっそりと覗く子供達に、永戸は目をつけた。その家の方へ進んでいく途中で、永戸は優の体を踏みつけて気絶させる。
バリーーンッ……。
窓ガラスを破り、永戸は他人の家に侵入した。
「キャーー、助けてーーーー !」
「怖いよー。ママー、パパーーーー」
子供達の泣き叫ぶ声が、こちらまで聞こえてくる。彼は、相手が子供でも容赦なかった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!