「な、何なんだ……これ。空から川が降ってくるなんて、どう考えたってありえない。どうなってるんだ……」
秀は濡れた体を震わせながら、不思議そうに空を見上げていた。
「ちっ、誰の仕業だ ?」
舌打ちをし、永戸は不愉快そうに周囲を見渡す。この人の頭は、正常ではない。普通なら、秀みたいな反応をするだろうに……。
「つ、冷てーな。雨が固まって、降って来たんか ?」
「きっと、天の川が落ちて来たんだぜー」
「それってマジ ? 宇宙から ?」
イナズマ組のメンバーらが、そんな馬鹿丸出しの発言をしている。どうやら、異常なのは永戸だけではないようだ。
秀は永戸にもう一度、声をかけた。
「……少し邪魔が入ったが、続きを始めようか。レッドアイ、覚悟しろ」
「何だお前……子供じゃねーか」
「し、失礼な奴だな。……俺はこれでも、中学一年生だ」
永戸に、子供扱いされたのが悔しかったのだろう。秀は少し、背伸びをしてみせた。こうして永戸と並ぶと、秀は余計に小さく見える。
「そんな事は、別にどうだって良い。……お前、俺と戦うつもりか ?」
「俺はな、お前を殺しに来たんだ」
「……そうか。別に、こんなチビと戦ったって、面白くもなんともねーけど。お前らのせいで、死人が出た。だから……死ね」
永戸はそう言うと、秀に殴りかかった。
秀は、本当に大丈夫だろうか。いくら、スマイル団のリーダーとは言え、小柄で子犬の様な男だし……。こんな、化け物じみた殺人鬼と、まともに戦えるのか ?
秀の心配をしていた、次の瞬間っ !
秀と永戸の拳が、激しくぶつかり合った。そして、そのまま拳に力を注ぎ、二人とも一歩も譲らない。
「お前に、人間の心があるのか分からないが……。自分の犯した罪の重さを知って、反省しろ。俺はな……お前に、大切なお母さんを殺されたんだ」
秀は怒りに満ちた表情で、永戸の頬を殴った。
「ぐっ……それは悪かった。けど、わざとじゃないし、仕方ねーだろ」
永戸はそんな幼稚な発言をし、秀の頬に殴り返す。
「ガハッ……わざとじゃない ? 仕方ない ? 多くの人を殺しておいて、そんな言い訳が通用するとでも思ったか ? ……お前は、人の命を何だと思ってるんだ。命は決して、お前のおもちゃじゃないんだぞ」
「ぐっ、俺自身でやってる訳じゃねーんだ。俺の中には、別の何かが居て……」
秀は永戸に飛び蹴りをし、彼の話を遮った。そして、口から血を吐き捨てる永戸にこう言った。
「はあ……もう良いっ ! そんな、見え透いた嘘ばかり聞きたくない。……お前はそうやって、俺をからかってるのか ? 馬鹿にするのも大概にしろー」
秀と永戸は何度も拳をぶつけ合い、互いの体を傷つけた。二人の血に雨が混ざり合い、地面へ飛び散る。
二人の力は、ほぼ互角だ。秀は、永戸とまともに戦えている。あんな小さな体のどこに、そんな力を秘めているのだろうか。
「……俺の家庭は、とても貧しい。生きていくのに精一杯だ。お母さんは、女手一つで俺と弟達を育ててくれた……」
「……急に何だよ。そんな話したって、お前の母さんは生き返らねーし」
いきなり語り出す秀に、永戸は少し戸惑っている様に見えた。そうか、秀は貧乏なのか。だから、服や持ち物がボロボロなんだな。
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