MARVELOUS ACCIDENT 未知の始まり 【訂正前】

闇で歪んだ世界
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40

公開日時: 2021年9月16日(木) 12:45
文字数:1,031


「ウッ……」

 

 優が突然、その場に倒れ込む。痛みのせいか、声も出せていなかった。一瞬すぎて、何が起きたのか分からない。一体、優は永戸に何をされたのだろう。

 

 永戸の左手は、紅に包まれていた。これは、どっちの血だ ?

 優の横腹には、中ぐらいの穴がぽっかりと空いている。永戸の手が、優の腹に貫通したのだろう。なんて強さだ。これでは、誰も永戸を止められない。


「飛華流ー ! ワンダを連れて、早く逃げろーー」

 優はよろめきながら、ゆっくりと立ち上がる。

「……でも、優さんは…………」

「俺の事は心配いらねー。永戸を抑えたら、仲良く二人で帰るからよー」

 僕らを安心させる為なのか、優はこんな時でもこちらへ笑顔を見せた。

 ここに居ても、足手まといになるだけだから、優に任せて帰ろう。僕は優に深々と頭を下げ、ワンダの手を握った。

 しかし、ワンダは一歩も動こうとしない。

「俺、ここに居たい。ヒル……逃げろ」

「な、何を言ってるの……。ここに居たら、殺されちゃうよ……危ないよ」

「俺、戦いから逃げたくない」

 ワンダは僕にそう返事をし、真剣な眼差しで見つめてくる。いや、流石にワンダの事は置いては行けない。どうしたものか。


「……ワンダ ! 飛華流は怪我してるんだ。一人で無事に帰れるか心配だ。だから、お前が飛華流を守ってやってほしい」

「……分かったぞ。俺、ヒル……守る」

 優の言葉にワンダは頷くと、僕の手を握り返して歩き始める。どうすればワンダが逃げてくれるのかを考え、優は彼女にそう言ったのだろう。本当に彼は、仲間思いな良い人だ。


「ちょっとー。君達も僕の遊び道具なんだよー。勝手にどこかへ行ったら、駄目だからねー」

「おい、お前の相手はこの俺だぜ。かかって来いよーー」

 こちらへ襲いかかってきそうな永戸を、優が止めてくれた。


「ねえ……これでもまだ、元気に僕の邪魔が出来るかい ?」

「……ガハッ。ああ、まだ俺は……俺は、お前と戦う」

 永戸はもう一度、優の腹部に自分の手を突き刺す。それでも、優は弱音を吐かずに永戸に笑ってみせた。

「……おおっ ! これは、楽しいねー。こんなに壊し甲斐のあるおもちゃはきっと、他にはないだろうねー。君のその肉体、僕が貰ってあげようかなー」

 優は、永戸にやられていた。でも、僕らは助けてあげられないから、彼に背を向けて逃げ帰るしかなかった。

 ごめんなさい……優。優は、永戸に殺されてしまう可能性が限りなく高い。だから、僕は神に祈るよ。


 どうか、優が無事でありますよ様に。


 僕は祈る事しか出来ない、無力な人間だ。


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