「ウッ……」
優が突然、その場に倒れ込む。痛みのせいか、声も出せていなかった。一瞬すぎて、何が起きたのか分からない。一体、優は永戸に何をされたのだろう。
永戸の左手は、紅に包まれていた。これは、どっちの血だ ?
優の横腹には、中ぐらいの穴がぽっかりと空いている。永戸の手が、優の腹に貫通したのだろう。なんて強さだ。これでは、誰も永戸を止められない。
「飛華流ー ! ワンダを連れて、早く逃げろーー」
優はよろめきながら、ゆっくりと立ち上がる。
「……でも、優さんは…………」
「俺の事は心配いらねー。永戸を抑えたら、仲良く二人で帰るからよー」
僕らを安心させる為なのか、優はこんな時でもこちらへ笑顔を見せた。
ここに居ても、足手まといになるだけだから、優に任せて帰ろう。僕は優に深々と頭を下げ、ワンダの手を握った。
しかし、ワンダは一歩も動こうとしない。
「俺、ここに居たい。ヒル……逃げろ」
「な、何を言ってるの……。ここに居たら、殺されちゃうよ……危ないよ」
「俺、戦いから逃げたくない」
ワンダは僕にそう返事をし、真剣な眼差しで見つめてくる。いや、流石にワンダの事は置いては行けない。どうしたものか。
「……ワンダ ! 飛華流は怪我してるんだ。一人で無事に帰れるか心配だ。だから、お前が飛華流を守ってやってほしい」
「……分かったぞ。俺、ヒル……守る」
優の言葉にワンダは頷くと、僕の手を握り返して歩き始める。どうすればワンダが逃げてくれるのかを考え、優は彼女にそう言ったのだろう。本当に彼は、仲間思いな良い人だ。
「ちょっとー。君達も僕の遊び道具なんだよー。勝手にどこかへ行ったら、駄目だからねー」
「おい、お前の相手はこの俺だぜ。かかって来いよーー」
こちらへ襲いかかってきそうな永戸を、優が止めてくれた。
「ねえ……これでもまだ、元気に僕の邪魔が出来るかい ?」
「……ガハッ。ああ、まだ俺は……俺は、お前と戦う」
永戸はもう一度、優の腹部に自分の手を突き刺す。それでも、優は弱音を吐かずに永戸に笑ってみせた。
「……おおっ ! これは、楽しいねー。こんなに壊し甲斐のあるおもちゃはきっと、他にはないだろうねー。君のその肉体、僕が貰ってあげようかなー」
優は、永戸にやられていた。でも、僕らは助けてあげられないから、彼に背を向けて逃げ帰るしかなかった。
ごめんなさい……優。優は、永戸に殺されてしまう可能性が限りなく高い。だから、僕は神に祈るよ。
どうか、優が無事でありますよ様に。
僕は祈る事しか出来ない、無力な人間だ。
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