「へー、そんな事はどうだって良いよ。君達を随分と探したんだから、沢山遊ばせてよねー」
「永戸……お前にあまり傷を負わせたくはねーけど、攻撃してくるなら、やむを得ない。……悪く思わないでくれ」
蓮は、永戸の拳を軽々と避ける。そして、攻撃をかけるタイミングを探っているのだ。なので、僕が攻撃を受ける心配はない。
だが、蓮の背からずり落ちそうになるし、気狂った永戸は間近に居るので、気は抜けない。
永戸はハイジャンプし、蓮の頭に頭突きを入れる。その直後、蓮は永戸の腹を強く蹴り、彼を突き飛ばした。
「あいつは、また直ぐに追ってくる……。急いで、森を出るぞ」
少し足をフラつかせながら、蓮は再び走り出した。木をよじ登り、僕達は木と木を飛び越えていく。
化け物並に強い永戸に、簡単にダメージを与えるなんて……。流石は副ボスだ。
永戸に追いつかれる事なく、無事に森を抜け、僕の案内で家の付近までやって来た。
住宅に挟まれた、赤い屋根の一軒家が姿を現し、僕はホッとする。
生きて帰ってこれたんだ。
珍しい事に、ママと真誠とワンダが家の前に出てきていた。三人で一体、外で何をしているのだろう。
「あーっ ! 飛華流ー、大丈夫だった ?」
僕の姿を目にした途端、ママはこちらに駆け寄ってきた。こちらを睨むと、真誠は素早く家へ入って行く。
何だ ? どうしたんだ ?
僕は蓮から降りて、ママに歩み寄る。
「……え ? どうしたの……ママ」
「……どうしたのって、あんたねー。仕事の最中に、学校から電話がかかってきてさー。それで……飛華流君が、イナズマ組の三島永戸に誘拐されたって、連絡があったの。だから、会社を早退して、ずっと皆で探してたんだよ」
ママの言葉で、僕は思い出す。
あ、そっか。そう言えば、今日は学校だったな。色々な事が起こりすぎて、そんな事はすっかり忘れていた。
もう、空がオレンジ色に染まっている。ママはこんな時間まで、僕を探していたんだな。なんだか、申し訳ない。
「うちの後輩が迷惑をかけてしまって、すみませんでした」
蓮は、ママに深々と頭を下げる。彼はしっかりと、礼儀を正したのだ。
ママは目を丸くさせ、口を開く。
「……まあ、貴方のせいではないし、謝らなくても大丈夫だよ。貴方、イナズマ組の子だよね ?」
「……はい。イナズマ組の副ボスをしています」
「……ああ、そうなんだね。永戸君は、普段から飛華流と仲良くしてくれている良い子だから……何もなかったとは思うけど……大丈夫だったかな ?」
「……えーっと、ですね……」
蓮は答えにくそうに、言葉を詰まらせてしまう。なので、僕はスラッと、ママに嘘をついた。
「ああ……うん。永戸さんとは、ゲームをして遊んでいただけだし、全然平気だよ」
「……それなら、良かったわ。皆、心配してたんだからね」
ママは、僕の肩に軽く手を乗せた。
僕は、イナズマ組の秘密を守らなければいけない。だから、彼らに命を狙われた事や、人肉スープの話等は一切出来ない。
「ヒルー ! 生きてた良かったぞー」
少し離れた所から、こちらをじっと見ていたワンダが、走って僕に接近してくる。そして、僕はその小さな体にギュッと抱きしめられた。
「ワンダ……心配してくれていたんだね。ありがとう……」
僕は恥ずかしながらも、ワンダの頭にそっと手を置いた。この子は、本当に可愛い奴だな。
「この子もね、ヒルどこ……ヒル消えたって言って、ずっとあんたを探してたんだよ。それから、真誠もね」
ママは、家の小窓に目を向けた。そこには、ゲーム機を手に、こちらをひっそりと見ている真誠の姿があった。
真誠は僕らに気づかれ、シュッと隠れてしまう。あいつ、何してんだよ。
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