菊谷の話は、これで終わった。
これが、神隠しだと言われた怪事件の真相なのか。恐ろしい、の一言だ。
イナズマ組の秘密を知り、僕は魂の底から震え上がった。この人達は、僕とは住む世界が違う。関わりすぎるのは危険だ。
だって、仲間を守りたいからと、平気で人肉を喰らうような、異常者の集まりだからな。
「話は以上だ。この事は、口が裂けても言わないでくれ。……俺達を裏切るような事があれば、君を敵とみなし、排除するからな」
僕は、菊谷に何度も頷いた。いや、当たり前だろ。スープにされて食べられるのは御免だ。
「……よしよし。今日から飛華流君は、立派なイナズマ組の一員だ。俺達は君を、心から歓迎するぞ」
「あ、はい……ありがとう……ございます」
菊谷の差し出された大きな手を、僕は力なく握り返す。命は助かったものの、人食い族の仲間にされるなんて……僕は本当に、ついていないな。
感情が顔に出ていたのか、蓮が僕にこんな言葉をかけてくる。
「……こんな、いかれた連中の仲間になって良いのかって、不安になっていると思うが……安心してくれ。俺達は皆、互いに守り、助け合って生きているだけなんだ。だから、お前もこれからは、俺達と一緒にそうするってだけだから」
「でも……僕は弱くて、なんの力もありません」
「……大丈夫。きっと、お前に出来て、俺達には不可能な事がある。自分に出来る事を、すれば良いんだ」
蓮はぎこちない笑顔を見せ、僕の頭を優しく撫でだ。彼の手が僕に触れた時、僕は何故かホッとした。温かな優しさに包まれた様な、そんな感覚だった。
「あ、あの……突然ですが、魔法相談所って、知ってますか ?」
「……ああ、知ってるぞ。俺達は、たまに遊びに行く事があるからな。金がなく、依頼が出来ない俺達に、一部無料でサービスしてくれたりするぞ」
僕の問いに、菊谷はそう答えた。
僕が彼らにこんな質問をしたのには、理由がある。
「僕は訳があって少しの間、エミナーさんの元で働いていました。夢配達員をしていた時に、永戸さんにそっくりな男性の声がしたんです。それで……その男性は、死んだお母さんに会いたい……と言う、依頼をしてきたんですよ」
「おおっ……そんな事があったのか。無料で夢の依頼をしているメンバー達も、まあまあいるからな。永戸がそう頼んでいても、不思議ではない……それに、あいつには親がいないらしいからな」
「……そうだな。永戸は俺達に過去を聞かれる事を嫌い、全く話そうとしないし……。一人で強がっているだけで、本当は寂しいのかもしれねーな」
菊谷の後に、蓮が言った。もし、二人の言う事が本当なら、永戸は不幸な少年だな。親が死んでしまい、彼はホームレスになったのかもしれない。それとも、もっと闇深い過去があるのかもな。
帰りは蓮が、「家まで送るよ」と言ってくれたので、僕はお言葉に甘え、蓮に背負われた。
菊谷と別れ、僕達は洞窟の外へ出る。
空には雨雲が広がっていて、ポツリポツリと降ってきた雫が、体や制服に染み込んでいく。
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