「飛華流、ちょっと待って ! この子も、一緒に連れて行ってあげて」
ママに呼び止められ、僕は足を止める。
「えっ ? さっきから、何のつもり ?」
「今から、真誠と遊ぶんでしょ ? それなら、この子も入れてあげてって、言ってるの」
ママはそう言って、少女を連れて僕の方へ近づいて来た。
「やめてっ……来ないで !」
「飛華流……いい加減にしなさい」
僕が少女を拒否すると、パパに低い声でそう言われた。
僕はビクッとして、気づけば「ごめんなさい」と謝っていた。パパを怒らすととても怖いので、逆らう事は不可能だ。
「じゃあ、行こっか」
僕は少女の手を取り、仕方なく一緒に連れて行く事にした。その、小さく冷ややかな手は、僕が強く握れば壊れてしまいそうだ。
「飛華流、この子が困っていたら、助けてあげてね」
ママのそんな言葉を聞きながら、少女と共に部屋を出た。
なんだか、ママとパパはどこか様子がおかしい。少女を、あまりにもすんなりと受け入れているし……少女への対応が、スムーズすぎる。それには、何か理由があるのだろうか。
自室に着き、少女を中へ入れると、真誠がこちらを睨みつけてきた。
「ちょっと、何でそいつも居るんだよ !」
「ママとパパが、この子も入れてやれって、煩くてさ」
「じゃあ、俺は自分の部屋に戻るから」
「この子と仲良くしないと、パパが怒るよ」
怒って部屋を出ようとする真誠を、僕は呼び止めた。
「はあ……分かった。一緒に居てやれば良いんだろ」
真誠はムスッとしながら、少女に近づく。
「俺は真誠。宜しく」
「マト…… ?」
少女は真誠を指差し、首を傾げる。少し違うが、彼の名前を理解している様だ。
「え、えっと……僕は飛華流だよ」
「ヒル…… ?」
少女は次に僕を指差し、そう言った。やはり、何となくではあるが、僕達の名前を理解している。それは、すごい事だ。僕は、ちょっぴり嬉しかった。
「……は ? マトとヒルって誰だよ。馬鹿じゃねーの」
きつい言葉を並べながらも、真誠は僅かに頬を赤らめている。それもそうだ。なんたって、こんな美少女が間近に居るのだから
自己紹介の後は、少女と特に話す事もなく、僕は真誠とゲームをして遊んでいた。
僕らがプレイしているのは、「宇宙ファイティング」と言う、現在大人気のバトルゲームだ。このゲームは、自分の星を持ち、宇宙空間での縄張り争いを楽しむ事が出来る。今までにはないタイプの、ゲームなんだ。
「くっそ……次は、ドレミ星が勝つからな !」
真誠は悔しそうな顔で、ゲーム機の小さな画面を見ている。
「いや、カニコニ星は宇宙最強だから、そんな簡単には負けないよ」
僕は、余裕だった。何でも完璧な弟に、兄である僕が唯一勝る事……それは、ゲームの対戦。ゲームの世界では、僕の方がお前よりも優れているのさ。
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