教室へ入ると、いつも以上に生徒達が騒いでいた。自分の席に着き、僕は大人しく聞き耳を立てる。
「怪我人の意識が戻らないらしいよ」
「もしかして、死んだのかな……」
「まじで、永戸って怖いよね」
「だよね。あの姿を見るだけで、ゾッとする。なんか、不気味だよね」
皆が永戸に怯える中、黒也はこう言う。
「森に住んでる猿が町にやって来て、大暴れした。ただそれだけの事だろ ?」
「……まあ、そうだな。だけど、怪我人が出てるんだぞ」
「どうせあいつらは、動物の死骸でも食って生きてんだよ。もうそんなのは、人間と呼べないよなー。あいつらは、汚れた猛獣だ。アーッハッハッハハーー」
一人で大笑いする黒也に、皆は呆れた笑みを浮かべていた。こいつは、人間の中でも群を抜いて腐った野郎だ。
すると、そんな耳障りな声を遮る様に、凛が言った。
「ねえ皆、知ってる ? あの森には、魔女も住んでるんだよ」
え、何だって ? オカルト好きな僕にはたまらない話だ。
「は ? そんなの居るって信じてんの ? お前は可愛い顔してるけど、頭の中はファンタジーだからなー」
黒也は、残念そうな顔を凛に向ける。
「信じて、本当なんだよ ! だって私、その魔女さんとお友達なんだからね」
綺麗に潤った長い茶髪を撫でながら、凛はそう口にした。
「……実は俺も、ほうきに乗って空飛んでる婆さんを見た事があるよ」
「はっ ? 何だよそれ……イメージ通りで笑えるな。でも、嘘なんだろ ? お前、凛の気を引きたいだけだろ」
黒也の言葉で、少年は照れ笑いする。
「くっそ……ばれたか」
「真剣に聞いてよ ! その魔女さんは魔法相談所を開いていて、人々の悩みを聞いて、魔法で何でも解決してくれる凄い人なんだよ」
凛はとても真剣な表情をしているので、嘘をついている様には思えない……だけど、本当にそんな人が存在するのか ? もしも、本当に魔女が居るなら、僕の願いを聞いてほしい。
「……本当に何でも叶えてくれるのか ? イケメンになりたいとか、彼女が欲しいとか、そう言う願いも全部 ?」
「うん。大抵の事なら、何でも叶えてくれるよ」
「それなら、人を呪ったりも出来る ?」
冗談交じりにそう質問した少年に、凛は険しい顔で答えた。
「……出来るよ。だけど、とっても危険な事だから、やめておいた方が良いからね」
「あ、ああ……まあ、そもそも会えないから良いけどさ。もう直ぐ先生が来るし、席に戻るわ」
凛の態度に戸惑いながら、少年はそのまま自分の席に戻って行った。他の生徒も同様に、その場から去って行く。それで、魔女の話は終わってしまった。ああ、もう少し聞きたかったな。
このまま、謎のままで終わらせたくはないけど……僕なんかが、クラスのマドンナに声をかけられる訳がない。
人を呪うことが出来るなら、呪いたい奴がいる。それは、黒也。そして、もう一人の虐めっ子。その二人を呪って、苦しみと恐怖を与えてやりたい。僕は、そんな感情に支配されていった。
それにしてもあの森は、異常者しか居ないのだな。
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