MARVELOUS ACCIDENT 未知の始まり 【訂正前】

闇で歪んだ世界
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公開日時: 2021年11月19日(金) 17:52
文字数:1,666


「うわーん……待ってー、永戸君ーーーーっ ! お願い、愛羅てぃあらちゃんとずっと一緒に居てよーー」


永戸の姿が完全に見えなくなってからも、愛羅てぃあらは見えない彼に手を伸ばし、とても悲しそうに涙を流していた。

これが、僕らを傷つけない為の、永戸なりの決断なのか。彼は邪悪な悪魔を一人で抱え、再び一人で生きる事を決めたのか。

永戸が去ったこの町には、平和が訪れるだろう。もう、行方不明者も出ないし、彼による犠牲者だって現れない。

しかし、永戸の新たに暮らす世界が、この町の様に血で染まっていくだろう。あの人が生きている限り、彼による被害者はゼロにはならない。

首に八千万円もの懸賞金をかけられた永戸は、これからどんな人生を歩んでいくのだろうか。きっと、僕の想像を遥かに上回るくらい過酷な出来事が、彼を待っているだろう。



悲しみを吐き出すかの様に、ポツリポツリと雨が降ってくる。その直後、遠くの方からパトカーのサイレン音が聞こえてきた。黒也の呼んだ助けは、来るのが遅かった。

雨が次第に強まると、パトカーのサイレン音も徐々に大きくなり、こちらへ近づいてくる。ずぶ濡れになった体を震わせ、僕は倒れているワンダの元へ駆け寄る。

「ワンダ……大丈夫 ? 歩けるかな ?」

「うっ……ヒル、やっと終わったか ?」

ワンダは薄っすらと目を開け、何度も崩れそうになりながら、なんとか立ち上がった。

僕はワンダの小さな手を握り、口を開く。

「うん、もう心配ないよ。家に帰ろうよ。僕、もう疲れちゃった」

力なくコクリと頷くワンダと共に、僕は体をふらつかせながら歩き出す。足を動かす度に、永戸に切り裂かれた腹がズキズキと痛む。かなり、傷が深いみたいだ。


よし、これでやっと帰れる……そう思った時だった。


「あ、貴方は誰 ? し、死神なの ? 愛羅てぃあらちゃんを迎えに来たの ? や、やだ……こっちに来ないでーー」

さっきまで、シクシクと静かに泣いていた愛羅てぃあらが突然、狂った声を上げた。僕らは足を止め、彼女の方へ振り返る。

すると、愛羅てぃあらは青ざめた顔で、ある一点の方向をじっと見ていた。ガクガクと体を震わせ、愛羅てぃあらは幽霊でも目撃したかの様な、怯えた表情をしている。

愛羅てぃあらの視線の先に目をやるが、そこには死神なんて居なかった。住宅に挟まれた細い道が、ひたすらに続いているだけだ。


いつもと、明らかに様子が違う愛羅てぃあらを気味悪く思ったが、僕は彼女に声をかけた。

「あ、あの……どうしたんですか ? 大丈夫ですか ?」

「ひ、飛華流君……あれを見てよ。あそこに、鎌を持って、黒いマントを被った骸骨がいるでしょ ? あの死神が、ずっと愛羅てぃあらちゃんの方を見て、すごい怖い顔をして笑ってるの。ほら、ちょっとずつこっちに近づいて来てる。このままじゃ、愛羅てぃあらちゃんはあの世に連れてかれちゃう。お願い、助けて」

愛羅てぃあらの指差す方向を、僕は目を凝らして見てみるが、やはりそこには何もいない。ワンダも首を傾げ、呑気にあくびをしている。

 愛羅てぃあらは、永戸がいなくなったショックで精神に異常をきたし、おかしな幻覚を見ているのだろうか。それとも、本当に死神は居て、愛羅てぃあらだけに見えているのだろうか。

そう言えば、イナズマ組は死神を目にし、体調を悪化させたと、さっきワンダが言っていたな。愛羅てぃあらも、彼らと似た状況なのだろうか。それならば、本当に死神は存在し、彼らの前に現れているという事か ?

だが、それなら何故、死神はイナズマ組ばかりを狙うのだろう。その姿が、彼らにしか見えていない事も非常に不思議だ。


「うっ……うあっ、体中がヒリヒリする。息がしづらくなってきたよ。く、苦しい……。きっと、あの死神が愛羅てぃあらちゃんに何かしたんだよ。早く逃げないと……こ、殺されちゃうよーー」

愛羅てぃあらの顔色はますますと悪くなり、呼吸も乱れている。冷や汗をかきながら、愛羅てぃあらは何かから逃げる様に、足早に去っていった。彼女は、僕らには見えない何かに、追われているのだろうか。

この世界には、まだ僕の知らない不思議で謎めいた出来事が沢山ある。それらは、日常に上手く隠れ潜んでいる。


僕はワンダと手を繋ぎ、血を吸った赤いアスファルトを踏みしめて歩き出した。

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