お前ら全員、呪ってやる !
学校の帰り道、僕は強い恨みを秘めて、とある場所へ向かっていた。今日も、酷い目に遭ったな。
掃除の時間、僕は教室で床を磨いていた。
すると、黒也が生徒達に、こんなふざけた指示を出す。
「帰る前に、あの大きなゴミも片付けろよ」
彼の言う、その「大きなゴミ」とは僕の事だ。四人の男子生徒に囲まれ、僕はほうきで何度も叩かれる。
身を屈め痛みに耐えていると、もう一人やって来て、僕をモップで殴り始めた。
「飛華流君……たっぷり、痛めつけてあげるね」
彼は、クラスメイトの赤草勢太。黒也とともに僕を虐めてくる、悪魔の様な男だ。こいつも、呪いたい人間の一人だ。
そうして、散々に虐めを受けた後、僕は彼らにゴミ箱へ捨てられた。 ゴミ箱に尻がはまって身動きの取れない僕を、彼らは楽しそうに嘲笑うのさ。
「おい、ゴミダルマ野郎……お前には、ここがお似合いだな」
黒也は僕にゴミをかけ、いつもの様に心無い言葉を放って去って行った。
こんな感じに虐められる事は、日常茶飯事なのに……それなのに、どうして慣れないんだろう。溢れ出す涙が止まらない。いっそ、このまま燃やされてしまいたかったよ。
その時の記憶が今、脳内で鮮明に映像化されて蘇ってきた。あいつらを、僕は絶対に許さない。
ヘラヘラと笑っている姿が、とても憎らしい。必ず、不幸にしたいんだ。
果てしなく広がる汚れを知らない青空に、僕は心で呟いた。
「神様……どうか、僕をお許し下さい」
僕を虐めた奴らは、確かに悪い。けれど、復讐として呪いを選んだ僕の方が、もっと黒いのかも知れないな。 それでも、僕は魔女の住む森へと足を進ませた。薄暗く大きな森が、徐々に近づいて来る。
「こら、泥棒猿ー。待てーーっ !」
正面から、店のエプロンを着たおじさんが走って来た。何だ何事だ ? そのおじさんは、斜め上を睨みつけている。僕もつられて視線を向けると、大きな影が屋根と屋根を飛び越えているのが見えた。
あ、あれは何だ ? 鳥か猿か ? いや、あれは…………人だ !
連なる家の屋根を駆け抜けて行く人物の正体は、三島永戸だった。全くこの人は、どこででもトラブルを起こしているな。金か食料でも盗んだのだろうか 。
永戸の盗んだ物を見て、僕は自分の目を疑った。なんと永戸は、熊や猫等の可愛いぬいぐるみを、大切そうに抱えていたのだ。そして、そのまま風の様に走り去って行った。
イナズマ組のくせに、実は可愛いものが好きなんだな。かなり、信じられない光景だった。思わず、笑ってしまうよ。
しばらく歩いていると、枯れ木だらけの不気味な森に辿り着いた。ここが、イナズマ組や魔女が暮らす森か。その周囲には、綺麗な小川が流れていて、花もいくつか咲いている。
しかし、森に近づくと、空気がガラッと変わった。なんだか、引き返したくなるよ。まるで、深い闇にでも包まれている様だな。
森に着いたのは良いが、魔法相談所を見つける事が出来るだろうか。迷子になって帰れなくなったら、どうしよう。森の目の前で足を止め、僕は頭を悩ませていた。
「あーっ、飛華流君 ! こんな所で何してるの ?」
背後から可愛らしい女性の声が、僕を呼ぶ。ドキッとして、僕は振り返った。
すると、そこにはクラスのマドンナである、凛の姿があった。凛こそ、どうしてここに ? 彼女の天使の様に美しいセーターのワンピース姿に、僕は高揚した。
「いや、その……魔女に会いたくて……」
「え、そうなの ? 飛華流君、もしかして……今日、私が魔女の話をしていたのを聞いて、ここに来たのー ?」
「あ、うん……興味があったから……」
「それなら、一緒に行こうよ。私も、魔女さんに用があるんだー。案内するよ」
そう言って、凛は僕に綺麗に優しく微笑んだ。まじか。こんな美少女と二人きりなんて、緊張してしまう。でも、凛は魔女と知り合いだと言っていたし、一緒だと心強いな。
「……うん。宜しくね」
「こちらこそ ! はぐれちゃうと危険だから、私から離れないでね」
可愛い上に心優しいだなんて、凛は素敵な女の子だな。
こうして、僕達は険しい獣道を進み、魔女の屋敷を目指す。
高嶺の花の女の子が、僕の隣で眩しい笑顔を向けている。彼女とここまで接近した事がなかったから分からなかったけど、僕よりもかなり背が高いな。まあ、僕が男のくせに百四十六センチしかないから、余計にそう感じるのだろう。
だが、どうして凛は、こんな僕に優しくしてくれるのだろう。保育園の頃から、僕を気にかけてくれていた。
学校では、よく凛からの視線を感じる事があるし……もしかして、凛って僕の事が好きなのか ? って、おいっ ! 流石にそれはないだろう。こんなに可愛い子が、僕みたいな冴えない男に、興味がある訳ないじゃないか。
「魔女の名前は、エミナーって言うんだよ。エミナーちゃんが相談を受ける気分じゃないと、そこへは辿り着けないの……だから、期待しすぎないようにね」
凛の言葉に疑問を抱き、僕は直ぐに質問する。
「え、そうなんだ……じゃあ、会えなかったらどうなるの ?」
「残念だけど、諦めて帰るしかないね」
そんな事、知らなかったな。それなら、あいつらを呪えない可能性だって、十分にあるのか。
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