転生竜と賢者の石な少年

ツワ木とろ
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【28】カタスティマ・ジューイットにて

公開日時: 2021年10月7日(木) 23:14
更新日時: 2022年10月15日(土) 06:44
文字数:6,780


「いらっしゃいませ」


 カタスティマ・ジューイットは幅が9メートル程の平屋。

 奥行きはもっとありそうで、煙が上がってるのが見えるから作業場も併設されているのだろう。


「サンペリエ様にリッツェルマンさんじゃないですか。お久しぶりです」


 向かいのカウンターに、栗毛色の髪にブルーアイの女性がいる。

 お店の中は武器と防具が、壁だったり棚だったり、マネキンだったりにディスプレイされてる。

 ロジィさんの言う通り、防具は飾れてる以外に見受けられない。オーダー制なのかしら。

 逆に武器は沢山ある。剣なんかはワゴン販売みたいなのもあれば、セミオーダーのブースまであるわ。

 洋服類まで売ってるみたいだから、この1店で全部揃えられそうね。


「最近、直接お越しにならないので寂しかったですよ」


 彼女が店主なのかしら。

 武器屋って無骨はイメージだったけど、とても清潔感があって女性が携わってるって雰囲気が出てる。

 ただ、彼女の後ろに白い槍と黒い大鎌がクロスして飾ってあって、これだけはなんだか仰々しい。

 眼帯した屈強な男が似合いそうな感じ。


「立ち寄る機会がなくてね。元気だったかい?」

「はい。 今日はどう言ったご用件ですか?お連れの方もいっぱいいるようですけど」


 面識があるのはガイウスさんとロジィさんだけみたいね。


「この子の装備を揃えたくってね」


 ルーシの後ろに回り、両肩に手を置いた。


「ご子息様でいらっしゃいますか?」


 お、ルーシが女の子と間違えられなかったのって始めてじゃない?


「いいや、でも後見人でね。この子が彼らとダンジョンに行くのでそれで」

「あら。若いのに勇敢なんですね」


 その流れでガイウスさんがみんなを紹介してくれた。



「冒険者さんが来てくれるなんて嬉しい」


 彼女はラプシモ・ジューイット。やっぱりここの店主だった。


「実績のある方の意見聞きたいので色々見ていって下さいね」

「ありがとうございます。我々もジューイット製の装備を拝見出来て光栄です」

「そんな大したもんじゃないですよ」

「アルベリヒ・ジューイットの作品も残ってたりしますか?」

「まぁ、あるにはありますね」


 ラプシモは自分の後ろに飾ってる武器を指差す。


「その二つがそうです。恭しく飾ってますけど、只の売れ残りですよ」


 槍は十文字の穂。鋼じゃないのか、とても白い。白金色って言うのかしらね。

 柄も同色でスマート。スタイリッシュな冒険者がいるのなら好みそう。

 大鎌の方は逆に厳つい。

 柄尻や持ち手になる部分は細いけど、口元に向かって段々、無粋に太くなってくし、急に曲がりだす。刃がドでかいから重心取る為だろけど。

 刃は三日月型で、弓幹にも弦にも刃文があるって事は両刃なのだろう。それが2対1のバランスで柄の先端に付いているのだけれど、その柄の端も刃。

 超絶変な形した十文字槍とも言えなくはない。見えなくはない?

 どちらも全長2メートル近くはあると思う。


「素晴らしい品に見えますが、売れ残りなんですか?」


 名工作の変わり種なんてコレクターが喜びそうだけどね。


「ええ。この2本は2人の友人の為に作られたそうなんですけど、『血の鍵』がされているんです」

「ちのかぎ?」

「持ってみます?」


 ラプシモは片手で大鎌を取り外し、セドに渡した。

 それを恭しく両手で受けとったセドだったが、ラプシモの手が柄から離れたとたん、まるで床に引っ張られたみたいに腕ごと持ってかれた。


「え?!おもっ」


 重い?ラプシモが、女性が片手で持ってたのに。


「アルベリヒと友人の血族にはとても軽いのに、それ以外の人には持ち上げられない位重たくなるんです」


 面白い効果だわ。盗難防止になりそう。

 だけど、買う人が限られてしまうのね。コレクターも自分で飾れないなら諦めちゃいそうだし。


「面白いね。僕も持ってみて良いかい?」

「どうぞ。落としてしまって構いませんから」


 ガイウスさんも手渡された途端落としてしまう。


「驚く程重いね」


 なのに床は何ともない。


「なぜだか持った当人だけが重たく感じて、実際は木刀位の重さしかないんですよ。」

「ふしぎ!私も持ってみたい」


 とテルティア。ってかみんな面白がって次々試して行く。


「友人の子孫なら持つ事が出来るって事ですか?」

「たぶん。ただ、この鎌の方は誰に贈ったのか分からないんです」


 そんな会話中に、床に寝そべってる大鎌をルーシが持ち上げる。


「え、持て‥‥」


 ラプシモが困惑する。


「ルーシ、すごいすごい!」


 みんな固まってた中、リネットが騒ぎ出す。


「オレにも貸せよ!」


 ルーシが持て囃されると面白くなくなるカシウスが大鎌を奪い取って、結局持てずに落としてしまう。


「くそ!」


 苛立つカシウスをハマールがそっと宥める。

 大鎌はルーシがまた拾い上げた。


「ルーシ君だよね、君の名前は?」

「ルーシです」

「あ、ごめん。そうじゃなくて名字を教えて」

「ペレグリノです」

「え、ほんとにペレグリノ?」

「うん‥‥」

「じゃぁ、ちょっとこれも持ってみて!」


 ラプシモが興奮しながら槍を取って手渡す。


「あれ」


 ルーシが持った途端うどんみたいにふにゃふにゃになった。


「この槍はペレグリノって方に贈ったって伝わってたんですけど‥‥」

「ちょっと事情があって僕が名付けた名字だから、そのペレグリノさんとは関係がないんだよ」

「そうだったんですね。ちょっと残念ですけど、1つでも私達以外の方が持てたんだから大発見ですね」

「あ、それなら、ルーシちょっと貸して」


 ガイウスさんがふにゃった槍を持つと元通りになった。

 ラプシモが目を丸くしてる。


「2人も持ってごらん」


 そう言ってガイウスさんがテルティアとカシウスにも持たせる。

 2人が持っても真っ直ぐシャキッとした槍のままだった。


「え、サンペリエ様はペレグリノさんなんですか?」


 驚きすぎてラプシモは間抜けな聞き方をする。


「本来、ペレグリノは王家の血統ですので、王家の御三人には同じ血が流れていると言う事なのでございましょう」


 とロジィさん。

 どういうつもりか分からないけど、大層なお名前を付けてくれたものね。


「ちょ、ちょっとすみません。主人を呼んでもいいですか?シディ!シディ!」


 ラプシモが裏に向かって大声を出す。


「どうしたっていうんだい。あ、いらっしゃい」


 裏から現れたのは、名前に似つかわしくないスキンヘッドの大男。

 ハマールよりも大きいかも。


「シディ、みて!」


 ラプシモは両手でルーシとカシウスを指差す。


「え、マジか‥‥」


 シディーも驚愕。


「なんてこった。こんな日がおとずれるとは!」


 悲願を達成したかの様に天を仰いでる。




「取り乱して申し訳ありません。」


 屈強な大男だから興奮してると怖かったけど、落ち着くと以外と爽やかな物腰。

 印象より若そうね。ブルーアイが涼しく感じる。


「お気持ちはお察し致します」


 ロジィさんも涼やかだけど、シディが勢い余って危害加えようものなら叩きのめすって気配がプンプンしてた。


「ルーシ君、武器はそれにしたらどうだい?」


 とガイウスさん。


「鎌って適性とかあるのかなぁ」

「あるだろうけど、測りようがないわよね」

「あんなの結局目安でしょ?使ってればなれるわよ。その鎌に関してなら持てる時点で適性ありなんじゃない?」


 とヴィオラ。


「そうよね。それにその鎌でルーシの家族探せるかもしれないね」

「持てれば間違いなく血縁者ね」


 みんな、そこまで考えてくれてありがとう。

 だけど、ルーシに家族はいないのよ‥‥

 いや、血に反応したって事は逆に666組家族が居るって事かしら。


「ボク、これにしたい」


 ルーシも気に入った様子。


「ラプシモ、これは売ってもらえるのかい?」

「もちろんです」

「じゃぁ決まりだね。幾らだい?」

「あぁ、考えてなかったですねぇ。ちょっと待って下さい」


 ラプシモは腕組んで、あご触って思案する。

 シディはされるつもりはなさそうだけど、彼と相談はしないのね。


「大銀貨120枚でいかがですか?」


 一般月収の6倍‥‥


「そんなに安くて良いのかい?」


 安いって思うのね‥‥

 まぁ、骨董品なら有り得るお値段か。


「代々飾り扱いしてましたから、使って貰えたらその子も喜びます」

「だからってもっと全うな値段付けていいんだよ?」

「いえ。言い方悪いですが、お荷物が売れるだけラッキーなんですけど、だからって先祖の名品を二束三文で売る気にもなれないわたしなりの妥協案です」


 かなり素直に胸の内さらしてくれるのね。


「本当だったらどれくらいなの?」


 リネットがこそっとセドに聞く。


「相場だったら10倍はするんじゃないかな」


 リネットは声が漏れないよう口を塞いで驚いてる。

 それなら確かに安いわね。


「ならお言葉に甘えようかな」


 ガイウスさんの袖をルーシが引っ張った。


「どうしたんだい?」

「ボク、お金ないよ?」

「心配しないで、ここでの買い物は僕が全部出すから」

「いいの?ボク、買って貰えるようなことしてない」


 最近覚えた対価を気にしてるのね。


「大丈夫。後見人は親代わりだから。親は子に見返りを求めないものなんだよ」


 ガイウスさんは屈んでルーシと視線を同じくして言った。


「しいて言うなら、喜んで欲しいな」

「うん。ありがとう!」


 厳つい鎌を抱き締めながら向ける笑顔。きゅん死しそう。

 ガイウスさんも遣られたわね。


「おれもこれ買う!」


 カシウスが石突きで床を叩く。


「ん?気に入ったのかい?」

「うん」


 アタシにはただの対抗心に見えるけど。


「んー、どうするかなぁ」


 ガイウスさんが腕を組む。買うか悩んでいると言うより、買う理由を考えてるって感じ。


「よろしいではありませんか。こちらの槍との出会いも運命的にございます」


 ロジィさんの助け船。衝動買いの常套句だけど、彼が言うとロマンチックに聞こえるわ。


「運命ね‥‥まぁそうだね。ラプシモ、これも良いかい?」

「はい。そちらは‥‥ そうですね。大銀貨140枚でいかがですか?」


 これもたぶん破格なんでしょう。


「この槍ならもっと高値で売り捌けるでしょうに。いいのかい?」


 ガイウスさんも大概素直。安く買えてラッキーなはずなのに。

 商人の血が変にうずくのかしら。


「ええ。自分の手腕でならまだしも、棚ぼた的に高く売れるって分かった途端値を上げるなんてダサいじゃないですか」


 ラプシモは店主なんてやってるけど、本当は職人気質なんだなって思った。


「そう、分かったよ。じゃぁまた甘えちゃうね。ただ、大銀貨の手持ちが足りないから、大きいのでもいいかい?」


 そう言ってカウンターに500円玉みたいなメダルを3枚置いた。


「大金貨、初めて見た‥‥」


 ボソッとリネット。

 大金貨は大銀貨100枚分。額が大き過ぎて銀行位でしかお目に掛からないらしい。


「すみません、お釣りが足りなくて」


 一般的に流通してる硬貨の中で、大銀貨が1番大きいのであれば、釣銭用なんて準備しないわよね普通。


「じゃあ、他の装備も見せて貰おうかな。気に入ったのがあれば一緒に買おう」



 とりあえず、一旦大鎌と槍を返して防具を選ぶ事にした。

 その間にシディが槍にセットのカバーを付けて、大鎌にはエイミーのリボンと同じ素材の布で刃を繰るんでくれる。


「防具を選ぶ上で重要な事はございますか?」


 とロジィさん。

 兵士と冒険者じゃ選ぶ防具が違うし、側付きはそもそも鎧着ないから、流石のロジィさんも疎いらしい。


「心臓さえ守れてれば、あとは裸でもいいわ。」


 ニコラが突拍子もない事口にする。

 裸でもいいって、ぷらんぷらんしててもいいの?


「モンスターってどうしてだか心臓しか狙わないのよ。だからそこさえ押さえてれば後は好みの問題ね。セド見たいな盾役は庇った時に傷ついたりするから重装備を好むし、後衛のワタシなんかは胸当てだけよ。」

「ルーシの体型だとやっぱり女性物になっちゃうわよねぇ」

「気に入ったのがあればサイズ合せますよ」


 とシディ。


「どうせすぐ着れなくなるんだから、大きめの鎖帷子でいいんじゃない?」

「鎖帷子って攻撃食らうとめり込んで痛くない?胸でそれだと呼吸出来なくなりそう」

「重さも考えるとなめし革方がいいわね」

「だったら。成長する度に買い換えるしかないじゃない」


 どっちも間違った意見じゃないけど、着眼点が違うから折り合い付かないわよ。きっと。


「あの‥‥」


 シディが割り込む。


「サイズ調整出来ればいいですか?」

「そうね。背中も覆えてたら尚良いけど」

「分かりました。ちょっと有り合わせで作ってみるので、すぐ持ってくるので待っててください」


 シディが奥に引っ込む。


「そんな直ぐ出来る物なの?」

「シディがそう言うなら出来ますよ。彼はドワーフの加護持ちですから」


 あ、ニコラの目の色が変わった。

 リネットが不味いって顔してる。


「ドワーフってお伽噺に出てくるやつよね」

「そうね」

「そんな加護があるのね」

「鍛冶の加護の上位互換だとか。レアだから見た事ないけど。アルベリヒがその加護だったって聞いた事あるわ」

「ニコラさん、よくご存知ですね」

「加護の研究をしているもので。もし良ければ‥‥」


 ニコラが言い掛けた所でシディが帰ってくる。

 咄嗟にリネットがニコラの手首を掴む。自重してって合図かな。

 シディが持ってきたのは革製のビブス。


「ちょっと着てみてください」


 ルーシが着るとぶかぶか。

 シディは前後に3つづづ付いた小さいベルトをルーシの体型に合わせて閉めていく。


「短冊状のプレートが前後に3枚づつ、少し重なる様に入ってます。それをベルトの締め具合で調節して貰えれば」


 脇にはもう少し太めのベルトが2づつ。

 ここも締めると不思議とぴったりになった。


「どうですか?動きにくくないですか?」

「大丈夫。ありがとう」


 また1人、ルーシのファンが増えた。




「後、必要な物はあるかい?」


 足に合うブーツも見つけたし、もういい時間なんじゃないかしら。


「最低限は揃ったんじゃないかしら」

「後は実際にダンジョン行ってみて、自分が必要だと思った物を揃えて行けばいいわよ」

「だったら、お試しで1度一緒に行きたくない?」


 と、女性冒険者達。


「でしたら、テルティア様の誕生会の週が準備でバタ付いてるので丁度いいかもしれませんね」


 誕生日を毎年祝う習慣はないけど、受紋の年は節目だから祝うんだとか。

 王族のお祝いだから、さぞ盛大なパーティーが催されるんでしょうね。


「それが良いね。ヘタしたら自習させる事のなるかもしれないしね」

「日時は帰ってから調整致しましょう」


 それじゃ帰ろうかって雰囲気だったのを、ラプシモが引き留める。


「先日ご注文頂いた品も出来上がってますよ」

「それは良いね。一緒に貰って行こうか」

「はい。少々お待ちください」


 ラプシモが持ってきたのは、とても小さな紺色のベスト。

ってかアタシのベストだわ。


「ナナチャに着せてみようか。ルーシ手伝って」


 背中に翼を通す用の穴もちゃんと付いてる。前は三つボタン。


「ぴったりね」


 ニコラが鏡を持ってきてくれた。いい感じじゃない?

 若干○ーターラビットを彷彿とさせるけど。

 しっかり採寸してくれたメイドさんに感謝だわ。


「かわいい従魔さんね」


 ラプシモが頭を撫でてくれる。

 首輪にペンダントに、このベストが揃えば言わなくても従魔だって分かるわね。


「シディさんも撫でてあげて」

「いいのかい?」

「うん。撫でて欲しがってる」


 シディの手は大きくてごつごつしてる。気を使ってくれてるのにちょっと痛い所がゾクゾクしちゃう。

 ルーシ、グッジョブ。

 なんだか段々、念じなくても意志疎通が出来てきてる気がする。


「ナナチャは女の子?」


 とラプシモ。男らしい手を嫌がらないからそう思ったのかな。


「んー、わかんない」


 アタシ自身、自分の性別知らないわ。


「そろそろ帰ろうか」


 って、みんなアタシの性別に興味ないのね。いいけど‥‥


「それじゃ、値段出しますね」


 ラプシモが足早にカウンターに戻る。


「全部セットで大金貨3枚にしてもらえるかい?」

「それだと多く貰っちゃう事になります」

「いいよ。そもそも安くして貰ってるし」

「それは値切ったんじゃなくて、こちらが提示した額ですから。値引きもしてませんし」


 悪い意味ではなく、お互い借りを作りたくない。と言うか自分が借りで終わりたくないって心情かしら。

 そう言う人付き合いは嫌いじゃないけど、長くなるのよね。


「これからここにいる全員が世話になるかもしれないから、心付けだよ思ってよ」

「そうですか‥‥それでしたら、ありがたく頂戴します」


 2人ともまだ若いから、おばちゃん見たいな遠慮し合いにならずに済んだ。良かった良かった。



 店を出る際にシディがルーシとカシウスに札を渡してた。

 大鎌と槍の名前が書かれてるそう。

 アルベリヒが付けたのか貰った友人が付けたのかもわからないから改名してもいいけど参考までにって。


「今から帰ったんじゃもう稽古する時間ないわね」

「でも折角新しい武器買ったんだから試したいわよね?」

「夕食の時間まで、試し切りも兼ねて薪を使った稽古をお2人にはして頂きましょうか」


 それってただの薪割りじゃないの?

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