また朝からダンジョンに向かう。
1層目は真ん中の通路を全員で3列になって進む。
グフリア、セド、レブルを先頭にゾロゾロ。
まるで遠足みたい。
「ホントだねぇ。黒いミノタウロスだわ」
グフリアが広間を覗き込んで言う。
そう言えば、ミノタウロス対策を話し合ってなかった気がする。
その後の事が大事過ぎて忘れられてたわね。
「大勢で行ったら誰狙うか分からないから、あたいとレブルだけで行こうか」
「良いわよ。みんなここで待機してて」
結構強かったけど、2人だけで大丈夫かしら。
「ノーマルより力強いし、足も速いから気を付けてな」
セドも言う。
2人で行く事に難色を示さなかったって事は信頼たりえる実力なんだろうね。
「はいよ」
左から走り出したレブルのポンチョの右裾から剣先が覗いてる。
遅れて右からグフリア。
右手に片手用ハルバート。左手にスパイクシールド。
ミノタウロスがレブルに迫る。
レブルが左手をポンチョから出した。
手には小石を持っている。
昨日からワードに出てたけど、投げるのかな。
スキルに必要とか。
dHii--!?
ミノタウロスが急加速した瞬間小石がレブルの手から飛び出し、一直線に左目に衝突した。
ミノタウロスがのけ反る。目はつぶれている。
そこをグフリアがシールドタックル。
ミノタウロスは横に倒れる。
「へぇ。こいつ賢いね」
グフリアの方を向きながら立ち上がるミノタウロスは斧で残りの右目を守ってる。
でもその所為で左腕しか使えないし、動きが鈍ってる。
振り下ろした斧をハルバートに防がれ、腹をスパイクシールドで殴られた。
それを1度食らっただけで学習したのか、素早く後ろに周りこんで、生きた目をグフリア側にする。
また小石が飛んで来ても、潰れた目にならまだマシって思ってるのかしら。
「あぁあ。賢いって言っても結局モンスターの賢いレベルを越えてないなぁ」
斧と斧、盾と斧をつばぜらせて力比べしながらグフリアは残念そうに言う。
アタシには充分賢い判断で行動してると思うけど。
ってかセドが力負けした奴に余裕って、どんな筋肉してるのよ。
「グフリア、もう良いかい?」
レブルが聞く。
「そうだね。もう良いかな」
そう言うとグフリアは更に力を加えてミノタウロスの腕を押し上げる。
その開いた脇にレブルが一突き。
ミノタウロスは煙りになった。
この2人、凄い強いのね。流石クランまとめてるだけの事はあるわ。
ただ、グフリアは変な癖をお持ちの様だけど‥‥
「それじゃぁ、次行こうか」
いよいよ今日のメインね。
「それじゃ、私とナナチャから行くね」
2層目への階段を下り、まずはリネットとアタシが中に入る。
リネットは身長高く無いけれど、それでも巨人の半分位はあるので近場の奴らが直ぐに気が付き走り寄ってくる。
少々不恰好な走り方だけど、人並みなスピードは出てるわね。
逆に人の倍は大きいのに同じ速さって事は遅いって事か。
お陰で落ち着いて上昇出来た。
巨人でも手の届かない位まで高く飛んで右へ。
入口に近い奴らを引き付けてから一矢。
ギャァー!!
矢はしっかりと目に刺さり、サイクロプスの1体が倒れて悶絶する。
アタシも『石火』を1発。それはこめかみ辺りに当たった。
一つ目と巨大さ以外は人に似てるから、気が引けちゃって外しちゃった。
続いてセド、レブル、ヴィオラが入ってくる。
アタシ達の方に6体来てて、彼らの方には4体のサイクロプスが迫る。
その1体1体の目にレブルの小石が飛んで行く。
あれは凄い。顔を背けようがちゃんと目に向かって飛んで行ってる。
ただ、弾かれて仕舞うのとダメみたいなのと、1発づつしか打てないみたいね。
目を潰されたサイクロプスは闇雲に物音のする方に向かって腕を振り回す。
巨人同士で殴りあってる仕舞ってる奴も居る。
「同士討ちしてる」
「あれで倒されちゃったら元も子もないわね」
「ちょっと動き止められるか遣ってみるよ」
そう言ってセドは1体の背後に回り、足の腱を切った。
切られたサイクロプスは立ってられずに崩れる。
「これなら大分マシになるな」
目を潰されて、足首切られて這いつくばってる姿は結構エグい。
人の姿に似ててもモンスターだし、そこは割りきらなきゃね。
こっちの6体の足元もセド達が対応してくれた。
レブルとヴィオラの力じゃ切ってもたいして傷つけられない位硬いみたいなので、2人は片足に全力集中で突き刺してる。
奥で気付かずボサっとしてる奴等は居るけれど、3層目に向かうのには支障無さそう。
「あたい達も出るよ!」
グフリアを先頭に後行隊が走り出す。
「俺達も行こう」
セドが上空のリネットに手を振って合図すると地上先行隊も下り階段に向かって走り出した。
「ナナチャ、私達も行くよ」
「ミュー」
後行隊が階段のある柱までたどり着くと1体のサイクロプスが突然現れた。
柱の死角に隠れてた見たい。
巨人はグフリアを蹴りあげる。
うぉー!
スパイクシールドが足の甲に刺さり雄叫びを上げながらも振り切り、流石のグフリアも吹っ飛ばされた。
「『岩壁』!」
続けて繰り出されるかかと落としを防ぐ為に誰かが魔法を唱え、巨人の胸高位の壁を作った。
が、あっさり砕かれ、逆にその破片が降り注ぐ。
「『水壁』『氷壁』」
ニコラだ。
前に分厚い水の壁。その後ろに氷の壁が現れる。
水の壁で破片の勢いを殺して、氷の壁が砕けない様にしている。
「‥‥凄い」
誰かが言った。
同時に2つの魔法を唱えられるのはニコラにしか出来ない芸風ね。
「『砂竜』」
コリティスが砂を多く含んだ竜巻を出現させる。
殺傷能力は低いがサイクロプスが目をショボショボさせてる。
すかさず、ナミルが自慢の爪で腱を切る。が爪では傷が浅い。
「そいつはやって仕舞おう!」
起き上がったグフリアが叫ぶ。
左腕がだらんとしてる。折れてるわね。
それでも敵に向かって走り出す。
「了解にゃ!」
ナミルが颯爽と柱をよじ登り、ジャンプして顔を覆っている手を切る。
がぁぁぁぁ!
巨人の指が落ちる。
そこに片手用ハルバートがトマホークの様に飛んで来て額をかち割っり、動きが止まった所で数名が同時に突き刺して巨人は煙になった。
「気を抜かずにとっとと下りな!」
グフリアに囃し立てられて全員が下の階層まで降りる。
アタシの偵察時だと、何も居なくて安全地帯なはず。
「警戒は怠らず、1度息を整えよう」
「グフリア、腕折れてるんでしょ。ポーション飲み干しなさい」
もったいないとポーションを受け取らないグフリアをレブルがたしなめる。
「手負いで戦力下がる方が損失よ」
みんなが頷いているので、仕方なく飲むグフリア。
彼女としてはもっと重傷者が出た時の為に取っときたかったみたいだけど、彼女も充分重傷よ。
それにしてもサイクロプスのパワー凄かった。
あれと接近戦するのはリスキーだわ。
今回の作戦の成功不成功は戻る時に分かる。
うまくすればのんびり歩いて帰れるわ。
「下はスケルトンが主みたいです」
探りに降りていた4名が帰って来る。
同じ階層に別種が混在するのは希で、あっても2種。
コボルトとミノタウロスとか、ホブゴブリンとオーガみたいに、上級種が階層ボスみたいな役割を果たしてる事が多い。
今回もそうなのか、はたまたイレギュラーが起きちゃうのか。
「急にレベル下がるわね」
アタシの読んだ本によると、スケルトンとかアンデット系って言われる種類は痛みを感じないので動けなくなるまで怯まないらしい。
厄介に思えるけど、ことスケルトンに関しては脆いし力も弱いので素手でも倒せる。
頭蓋骨が弱点て分かってるし、身長も成人女性位しかないので狙いやすい。
「でもウジャウジャ居ます」
「どのくらい?」
「スケルトン達の肩がぶつかる位ビッシリ」
「それはウジャウジャね」
「でもスケルトンだけだったから余裕ですよ」
見てきた人が言うんだからそうなのかな。
「後は奥に別のが居ないかだわね。全員で隊列組んで慎重に行こう」
とグフリア。
「さっき油断したものね」
レブルがいじる。
ツインブレスの前方と両側をヴァルキュリルで囲んで、3層目はアタシ達を温存する隊列で行く。
それなら魔石の回収くらいはしよっかって話になった。
「リネット、ワタシのバック渡しとくわ。アナタのバックじゃ矢と混ざってしまうでしょ。」
ニコラがスムカから貰ったスキルバックを渡す。
「そうね、ありがとう。みんな回収したらこっちに入れてね」
リネットのバックは右に。ニコラから預かった方は左に来るように首から下げる。
ダブルでたすき掛けして、お胸がえらいこっちゃだわ。
3層目への階段は10段くらいで、残りは坂。
扇状に広がった急勾配で先にスケルトンがびっしり。
骨だけの脚じゃこの坂は登れないまたいで、降りきった先で待ち構えてる。
ライブハウスみたいにごった返してるけど、隊列整えてから挑めるのでみんな幾らか余裕な表情。
アタシ達の隊列は、リネットを中心に前列横並びでニコラとルーシ。
後列にセドとヴィオラが居るのをヴァルキュリルが囲む形。
なんだかアタシ達が護衛依頼出したみたい。
ヴァルキュリルは、前列左からグフリア、ナミル、レブル。
両サイドに3名づつ縦に並び、セドとヴィオラの後ろにコリティスだ。
「それじゃぁ切り開いて行くにゃ!」
ナミルが先頭きって進みだす。
彼女に集まるスケルトンに回し蹴りを1発。
頭蓋骨がまるで撮影用のビール瓶の様に粉々になって煙った。
それを皮切りにバンバン煙らせながら進んでいく。
黒い煙が立ち込め過ぎて前が見えないくらい。
「視界悪くなるからゆっくり進もうか」
そうして貰った方が魔石も回収しやすいわ。
大分取りこぼしてるもの。
「みんな慣れてるね」
とルーシ。
「彼女達が拠点にしてるダンジョンにはスケルトンがよく出るからね」
「へー」
「今度行ってみる?」
「うん!」
回りで女性達がボコボコ骸骨を倒しまくってる中で、のんびり世間話してるって、なんだかとっても異様。
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