転生竜と賢者の石な少年

ツワ木とろ
ツワ木とろ

【3】外は森でした①

公開日時: 2021年9月20日(月) 23:02
更新日時: 2022年7月1日(金) 19:55
文字数:4,110


 サーリアが現れなくなって3ヶ月ほどたった。

 時間はアタシの動物的勘によるものだから超正確とは言えないけど。

 いつもよりサーリエが置いていく食料が多いなと思のよ。

 でも、3ヶ月以上持たせるつもりで食べてなかったから、半月前に底を着いてしまった。

 それでも生きているのはひとえにルーシのおかげ。

 彼の血をたまにちょっと貰えば、飢えはしのげないけど衰弱はしない。

 幸い、水はある。

 お腹がすいてしまうので、あまり動かないでやり過ごす日々が続いてる。


  トントントントン トントントントン


 ノックする音がする。


  トントントントン トントントントン


 サーリアが出入りしていた隠し扉とは逆の方から。


  ガダン


 音のする方から突然扉が現れ、それが開いた。

 あんな所にも隠し扉があったのね。


「失礼します」


 そう言って入ってきた男はアタシ達を見て固まる。

 紫ロン毛の好青年。

 ごっつい鎧着てるから顔が小さく見える。


「どうしたの?」


 続いて3人女が入ってきた。


「ちょっと何これ?!」


 黒髪ロングの女が声を挙げる。


「まるで鳥かごね」


 ウェーブの掛かった緑髪女はボソッと言った。


「‥‥」


 癖っ毛クリームボブの女は手を口に当てて、

ってかこの娘、翼が生えてるわ。


「君、1人かい?」


 好青年が辺りを見渡しながら近づいて来た。

 ルーシは怯えてアタシを籠に入れる。

 檻には入って来られないだろうし、様子見ね。

 悪い奴らなら焼き殺してやるわ。


「他には誰も居ないのかい?」

「そんな事より助けなきゃ!!」


 癖っ毛ボブが駆け寄る。

 鉄格子が固いのと、南京錠が掛かってるのを確認して


「ヴィオラ、お願い!」


 と振替って言った。

 ヴィオラと呼ばれた黒髪が南京錠を手に取って何かするといとも簡単に鍵が落ちた。

 ナイフで切ったように見えたけど?まさかね。


「大丈夫?!」


 中に癖っ毛ボブと緑ウェーブが入って来た。

 アタシ、警戒体制に入る。

 まず、緑ウェーブがルーシに近づいて、すくんでる彼に羽織ってたローブを掛けた。 傷つける素振りはない。

 その後ろで、癖っ毛ボブがベストみたいな鎧を外してルーシに抱きついた。


「怖かったね。もう大丈夫だからね」


 母性溢れる胸に顔を押し当て、頭を撫でる彼女の声は優しい。

 火吹きそうになったけど、もう少し待って見ようかしら。



「私はリネット」


 癖っ毛ボブの名前らしい。

 抱き寄せてしばらくそうしてたけど、会話を試みだした。


「あなたの名前は?」

「‥‥ルーシ」


 母性にあてられて怯えが失くなって来てるのかな。

 ルーシも答える。


「ルーシは何歳?」

「‥‥分からない」


 彼がそう言うと二人の女は顔を見合わせた。


「ルーシ、ワタシはニコラ。宜しくね」


 緑ウェーブばしゃがんで彼の目を見ながら名乗った。

 ローブの中にレザーっぽい鎧を着ていて、初めは魔女っぽかったけど、今は冒険者って感じ。


「ちょっとごめんね、手を見せてね」


 リネットとオラウータンの親子みたいになってるルーシの左手を取る。

 手の甲を確認してるみたい。


「紋章は無いわね。12歳位かしら」

「何もないな」


 檻には入らず部屋を調べて居た好青年が、机の上の鏡を手に取り、調べ、戻してからそう言った。

 隠し扉は見つけられないみたい。特殊な仕掛けでもあるのかしら。


「ねぇ、セドリック」


 同じ様に男とは反対周りで部屋を探ってたヴィオラが合流して声を掛けてる。


「(まるで飼育放棄したみたいじゃない)」


 聞こえない様に言ったみたいだけど、アタシには聞こえた。

 イラっとしたけど、確かにそうとしか見えないわよね。

 あの魔女が放棄するとは思えないけど、、


   !


 ニコラがいきなりカゴを片手で持ち上げて、アタシをじろじろ見て来る。


「変わった動物ね。新種かしら」

「やめて!」


 ルーシが手を伸ばす。


「ごめんね、君の友達なの?」


 うなずく彼にニコラは両手で返した。

 ルーシはカゴからアタシを出してぬいぐるみ見たいに抱いて来たので、スリスリしてそれに答える。

 これでもっと落ち着くかしら。


「可愛い子ね、良く懐いてる。名前はなんて言うの?」

「‥‥分からない」


 そう言えばアタシって名前を呼ばれた事ないわ。

 実験体だからないのかもね。


「‥‥そっか。ここにはあなたとその子しか居ない?」

「‥‥うん」

「他には誰も居なかった?女の人とか」

「‥‥帰ってこない」


 4人の大人達は顔を見合わせた。


「ギルマスに連絡するわね」


 ニコラは立ち上がり、少し離れた所でビー玉みたいな物を取り出し、握りしめた。

 ほんのり手の中が光ってる。


「ホント何もないわ。引っ越した後みたいに」


 外の二人も近づいて来た。


「‥‥ずっと同じ」


 ルーシを見る目が憐れんでる。

 これってチャンスよね。ここから逃げ出す。


「ギルマスから指示がでたわ」


 ニコラはビー玉をしまった。その時にはもう光ってなかった。


「彼らを保護して本部まで来いって」


 おっと、いよいよチャンスが巡って来たわ。

 外に出て、彼らからも逃げるかは状況しだいね。


「分かった」


 セドリックはしゃがみ込んでルーシに顔を突き合わせた。


「一緒に来るかい?」

「聞くまでも無いでしょ。指示なんだし。それに、こんな所に居るより100倍マシよ」


 ヴィオラは口調の強い娘ね。悪意は感じないけど。


「一緒に行こ?」


 リネットが立ち上がり、手を差し出した。

 ルーシは躊躇してる。

 ここはひとつ一肌脱ぎますか。


「あ、待って!」


 アタシはルーシの手から抜け出し、檻の外に出る。


「ミュー」


 振替って鳴く。


「あら、お友達も外に出たいみたいよ」

「ミュー」

「あなたと一緒に行きたいんじゃないかしら」


 リネット、ナイスアシスト。

 ルーシは恐る恐る立ち上がり、リネットに引かれながら檻を出た。

 グッジョブ、ルーシ。

 これからどうなるか分からないけど、ヴィオラの言う通りここに居るよりはマシよね、きっと。


「裸足か、靴は‥‥ 無いな」


 そう言うとセドリックはおもむろにルーシをお姫さま抱っこした。

 美少年を好青年がお姫さま抱っこって‥‥

   グッジョブ、セドリック。

 早速、いい事あったわ。



 彼らが来た方の扉を出ると洞窟の中っぽい、緩やかな登り坂。

 天井は高く、50m位先から光が差して来ていてあまり暗くはない。


「外に出たことある?」


 ルーシは首を振る。


「‥‥そっか。じゃぁ楽しみだね!」


 リネットは努めて明るく言う。


「今は昼だからちょっと眩しいかも。」


 彼女は弟でも居るのかしらね。そんな匂いがする。



 洞窟を抜けると森だった。

 木々が生い茂っていてそれほど日差しは強くないけど、

それでもずっと屋内に居たからちょっと目が痛い。


「そろそろ降りて自分で立ったら?」


 ヴィオラが言う。


「セドリックも疲れちゃうし、何か出たら戦えないじゃない」

「俺は大丈夫だよ。ルーシは裸足だから歩かせられないよ」

「痛めたらポーションあげればいいじゃない」


 ポーションがどれ程の値がするのか分からないけど、セドリックの表情からしてコスパ悪そう。

 それか、冷たい女だと思っちゃったのかな。


「ワタシなら、初めての土の感触を裸足で感じて見たいわ」


 ニコラがフォローしたようだ。

 セドリックも納得したようで、しゃがんでルーシが降りやすい様にしてあげてる。

 下ろすんじゃなくてルーシのタイミングで降りられる様にしてあげてる所がイケメンだわ。

 ルーシの中で恐怖心と好奇心が葛藤していて、地面に伸ばした足が引っ込んだり伸びたりしてる。

 また、アタシの出番ね。

 またもやルーシの腕の中から抜け出し、先に地面に降りて鳴いた。

 それで勇気が出たのかルーシが立った。

 数人が踏み均した程度の土を踏みしめてる。

 柔らかくて暖かい感触が気に入ったのか楽しそう。



「早く行くわよ」


 ヴィオラがまた強めに言うがルーシは夢中で気づかない。

 アタシも釣られてはしゃいじゃってる。


「大丈夫よ。もう少しなら日のある内に馬車に着けるわ」


 全てが新鮮なルーシは、草に触れ、木を触り、花を見つけてしゃがみ込み、バッタが出てきてビックリしてる。


「私ももうちょっと見てたいかな。可愛いもの。」


 リネットは目を細めてる。


 バッタ対ルーシとアタシの追いかけっこ。

 ルーシまで四つん這いでピョンピョン跳ねてる。


「それ以上行ったらダメ!」


 言うが早いか、ヴィオラが物凄いスピードで近づき、アタシとルーシの首根っこ捕まえて引き刷り戻した。

 ビックリして威嚇しちゃったわ。

 ルーシも怯えちゃって、またリネットが抱き締めてる。


「ごめんね。怖かったね‥‥ ヴィオラは一人っ子だから人と接するのが苦手なの。でも悪気はないのよ。むしろ、あなたを心配してるの」


 そう言ってある木を指差す。


「この森は迷いの森って言ってね、ニコラが付けてくれてる目印から離れちゃうと迷子になって出られなくなっちゃうの」


 その木は枝の一部が氷ってる。

 そんな木がコンスタントに先まで続いてる。


「ヴィオラは助けたくてああしたの。ちょっと乱暴だけどね」

「‥‥ありがとう」


 ルーシは上目遣い。

   きゃカワイイ!

 この子は天然の魔性ね。

 ヴィオラも照れちゃってそっぽ向き、それ見たみんなが和んでる。

 みんな、いい人達っぽいわね。とりあえず一安心。


「裸足のまま歩かせるのはやっぱり危ないわよね」

「それならヴィオラ、アナタの靴貸してあげたら?」

「は?いいけど、別に。でもニコラのでもいいんじゃないの?」


 貸すこと事態はいいんだ。この娘もいい子だわ。


「アナタの靴が一番サイズ近そうじゃない」

「セドリックのは大きすぎるって分かるけど、わたし達ならどれでも対して変わらないでしょう」

「なるべく合ってないと靴擦れするじゃない」


 いくら子供でも男と靴のサイズが同じだと思われたくないって所かしらね。可愛いわ。


「それで、セドリックにおぶって貰いなさいよ」

「はぁっ?!」


 顔が一気に赤くなった。


「セドリック、大丈夫よね?」

「ああ。構わないよ」

「って、ちょっと待ってよ。それじゃ何にも変わらないじゃない!」

「警戒してれば突然襲われる事もないだろうし、もし襲われても咄嗟に降りて戦闘体制に入れるのって、一番速いアナタじゃない」


 ニコラは終始イジワルっぽい表情だ。


「その間位アタシとリネットだけで応戦出来るわよ。これでもAランクパーティーの一員なんだから」

「‥‥わかったわよ」


 ヴィオラはセドリックに見られない様にニコラを睨み付けてる。

 ニコラは澄まし顔でウィンクしてそれに答えた。

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