「お帰りなさいませ。まぁルーシ様、いらっしゃいませ」
ガイウス邸では、またピレティアさんが出迎えてくれた。
「彼、3ヶ月位ここで暮らす事になったから」
「左様でございますか」
「お世話になります」
「まぁご丁寧に。こちらこそ宜しくお願い致します。では、直ぐに料理の準備をさせますね」
もう夕食時か。最近は目まぐるしくて、起きてても1日が早いわ。
直接ダイニングに向かうとテルティア達が既に着席していた。
「お帰りなさい。あれ?ルーシ君達も一緒なの?」
テルティアが面食らってる。
昨日、長いお別れになるつもりで居たんだもの無理もないわ。
カシウスはムスッっとして次に誰か入って来ないか扉を見てる。
「ルーシ君とナナチャだけだよ。彼等、当分この家で暮らす事になったから」
「ホント!?わぁ嬉しい」
テルティアが目を輝かせて喜んでくれた。
カシウスはしかめっ面のまま無言。
「まずは私達も席に着きましょうか」
「ああ。そうだね」
この前とは席順が違ってて、扉から遠い方のお誕生日席にガイウスさん。
彼から見て左にロジバールさん。その隣にカシウス、ハマール。
右にエイミラット、テルティア。
通常はこうなのかしら。ルーシはテルティアの隣に座った。
「よろしくね」
テルティアがルーシの膝の上に座るアタシの頭を撫でる。
「獣も一緒に食べるのかよ」
カシウスがまた憎まれ口を叩く。
「いいじゃない。この前は何も言わなかったくせに」
「この前は特別だろ。ペットと一緒に食事する奴がどこに居るんだよ」
「カシウス、やめなさい」
ガイウスさんの低い声、はじめて聞いたわ。
ペットと一緒にご飯する人なんて五万と居ると思うけど、人の家でご馳走になる時に無断でテーブルに付かせる飼い主って、確かに非常識よね。
「アタシ、端っこにいるね」
ルーシの膝から降りて、壁際にちょこんとしてみる。
「ナナチャ可哀想。カシウスが変なこと言うから遠慮しちゃったじゃない」
全力でしおらしくしてみる。
「‥‥分かったよ。一緒でいいよ」
カシウスが折れた。
ハマールがそっと彼の肩に手をやるが、突っぱねられてシュンとしてる。
なんかしおらしいじゃないの。
「おかえり。ナナチャ」
ルーシの膝に戻ったアタシの頭をテルティアがまた撫でてくる。
そんなやり取りしていると、料理が運ばれて来た。
一緒にアタシ用の椅子まで運んでくれて、ルーシの隣の席と交換してくれた。
テルティアは名残惜しそうでけど、食事中に撫でられてもうっ
と惜しいし、自分で言うのもなんだけど、動物触った手でご飯食べるのはおすすめ出来ないから、ちょうど良かったわ。
料理はパンとサラダとシチュー。
「昨日より少ないからビックリした?」
「そんなことないよ。おいしい」
「ウチは特別な事がない限りこんな感じの食事なんだ」
へー。王族なのにだいぶ慎ましやかなのね。
「でもどうして一緒に暮らすことになったの?」
食事を取りながらテルティアが聞く。
「冒険者になる為に特訓する事になったんだよ」
「とっくん?」
「そう。平日はロジバールから指導受けて、週末はエイミラットとハマールも含めて昨日のメンバーと合同演習しようと思ってるんだ。2人もやるかい?」
「やる!平日もやりたい!」
とテルティア。
「平日は学園から帰って来たらね」
「‥‥」
「カシウスは?」
「‥‥週末だけなら」
「よし。じゃぁそんな感じで、ロジィよろしくね」
「畏まりました。週末はガイウス様も参加して頂きますので」
「え?僕はいいよ」
「そうは参りません。側役が1人も付かない訳にはいきませんので、強制参加にございます」
「あぁ‥‥ そうだね。わかったよ‥‥」
ガイウスさんの元気が急になくなる。
運動嫌いなのかな。
「それだと、平日のローテーションもかわりますか?」
とエイミラット。
「そうですね。当分は私がルーシ殿と居ますので、お2人にお願いする事が増えます」
「分かりました」
「慣れてきたらルーシ殿のお相手も変わって頂くかと思います。私とだけでは片寄ってしまいますので」
「わかりますた」
気になる程じゃないけど、ハマールって少し訛ってるのね。
その所為かなんだか段々可愛く見えてきちゃった。
「トランプしよ。ババ抜き」
食後、テルティアの提案で5人でトランプすることになった。
ルーシ、テルティア、カシウス。それにお付きの2人ね。
リビングの端にあった丸テーブルと椅子をを真ん中に持ってきて、カードを切り出す。
馬車の中でも遣ってたからルーシも出来るけど、あの時はみんな手加減してくれてたのよね。
「何か賭けないのかい?」
「お父様は黙ってて!」
「はいはい。じゃぁ先にお風呂に行こうかな」
そう言ってガイウスさんとロジバールさんがリビングを出ていった。
彼等が帰って来るまでに何戦したかしら。
ルーシの全敗ね。ブービーはほとんどハマール。
「それじゃぁ、私達もお風呂に参りましょう」
今度はエイミラットとテルティアが出ていく。
「それじゃぁ、彼女達の代わりに僕らがはいろうか?」
ガイウスさんとロジバールさんがテーブルに着く。
「ババ抜きはもういいよ。お前ら弱すぎ」
カシウスが椅子にふんぞり返る。
「2人とも素直な方ですから、ババ抜きには不利でございますね」
ロジバールさんは見てなかったのに分かってる。
「それではポーカーでも致しましょうか」
「何か賭ける?」
「テルティア様に怒られちゃいます」
ハマールは弱腰に言った。
「そうだね。皆も怒られちゃうから我慢しよう」
そんなに賭け事好きなのかしら。
ポーカーはいい感じに勝敗が別れた。
ルーシは狙ったカードが来れば嬉しそうだし、何よりも良い手で負けた時に悔しそうなのがアタシは嬉しい。
そんな感情見たことなかったし、人間味豊かになってきてる。
「上がりました」
エイミラットとテルティアが戻って来た。
「後は皆で入っちゃったらどうだい?」
「おれ達は後でいいから。お前入ってこいよ」
カシウスは人とお風呂入るの嫌いなのか、思春期なのか、どっちでもいいからさっさと入っちゃいましょ。
ルーシの袖を引っ張ってみる。
「じゃぁ、ルーシ君入っておいで」
「うん」
アタシ達2人だけだとお風呂は広すぎるわね。
余裕で泳げちゃう。
行儀悪いけど、ルーシにも薦めてみる。
「どうやるの?」
ああ。泳ぐとか知らないわよね。
念話で映像って伝わるのかしら。
「‥‥やってみるね」
伝わったぽい。
とりあえずクロールを外から見た時と自分が遣ってる時のイメージを送って見たのだけれど‥‥
数分で形になった。
「ルーシすごいわね。出来てるわよ!」
「えへ。ありがとう」
ルーシの照れ笑い、ヤバカワ。
体使う事でもこれだけ覚え早いなら、明日からの特訓も心配ないかもね。
「みんな優しいね。」
ひとしきり泳いだ後、ルーシは天井を見ながら言った。
ホント、いい人達と出会えて良かったわ。
一時は逃避行も覚悟してたけど、こんないいお風呂はいれるし、当面の目標まで示して貰っちゃって。
「ボク、頑張るよ」
「うん。2人で頑張りましょ」
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