「本当に来るとはいい度胸だな」
先生はそんな言い方してる割に嫌がってる節もなく付き合ってくれた。
「4人か、試合は総当たりか?」
「一対一を2試合したいです」
「ルールは決まっているか?」
「いえ。まだです」
「なら私が介入して決めても構わないな?」
「はい。お願いします」
リドーも敬語は使えるのね。
「では、私も暇ではないので1試合10分とする。片方が負けを認めるか、私が有効打と認めた場合に勝敗が決まるでいいな?」
「はい」
「武器の使用はどうする?」
「決めて無いです」
「なら、今から武器を揃えるのも時間が掛かるので使用禁止とし、スキルは使用可としよう」
何も考えてなかったから、彼女が着々と決めてくれるのは有難い。
「あまりにも卑劣だったり、危険な行動を取った場合には私が止める。それでも止まらなければ反則負けとし、制裁を加える。いいな?」
「はい」
「多少の怪我なら学園にポーションが用意されているので使っても構わない。ただ、授業中では無いので実費となる」
リドーとスフインが若干怯む。
たぶんお金が無いんだと思われる。
「その時はウチで支払うよ」
カシウスのセリフに2人はホッとした模様。
「決め事はこんなものか。準備がなければ1試合目を始めよう」
カシウスとリドーの試合から。
何処から聞き付けて来たのか着替えを終えたギャラリーが集まって来る。
たくさんじゃないけど、sとaクラスのカシウスの友人。それとカシウス目当ての女の子達。
「カシウス様のお友達ですか?」
「うん。君達も?」
「ええ。クラスメートです」
「対戦者って強いのかな」
「分からないです。クラスで1番強いって自分では言ってましたけど」
「確かに強そうだけど、カシウス君なら負けないでしょ」
カシウスだけが目当てって訳じゃなさそうね。
まぁ、そんなもんよね。
アルが体操着のままルーシの側に来た。
「着替えられなくて‥‥」
あ、そっか。アルはルーシが居ないと着替えられないのよね。
「終わったら一緒に着替えにいこ」
「うん!」
「始め!」
先生の掛け声で即座にリドーのケンカキックが跳んでくる。
カシウスは左の掌底で右に反らし側面に着いて、大股で着地したリドーの脇にフック。
リドーはそれを右肘で防いだ。
「やるじゃん」
「お前もな!」
リドーが左手でカシウスを押しやり、右足を軸にどうバランス取ってるのか分からない角度で廻し蹴る。
カシウスは右腕でガードするが、元々体重差が有る上に全体重が乗ってるであろう蹴りを食らってふっ飛んだ。
「キャ!」
素人はカシウスが劣勢に見えただろうけど、アタシ位観戦歴が長いと、今のはわざと飛んでダメージを軽減したって分かる。
「何だ今の‥‥」
カシウスが右腕を振っている。
何か変わった事された様には見えなかったけど。
「お前のスキルか?」
「ああ、そうだ。詳しくは教えてやらないけどな」
リドーのパンチを下に弾きながら後退する。
「お前もスキル使えよ」
「いや」
「何だ、格好付けてるのか?」
「そうじゃない。オレのスキルは武器が無いと使えないだけだ」
石でもいいんだろうけど、それも武器になるわよね。
「そうなのか?なら最初に言えよ。そしたらスキル禁止にしたのによ」
「別に使われても構わないからな」
「そうはいかねぇ。スキルの所為で負けたとか言われたくないからな!」
今度は右の廻し蹴り。
それを屈んでかわし、頭上でクロスさせた腕に挟み込んで持ち上げて軸足の膝の裏を足の甲で引っ掻ける。
バランスを崩したリドーが後ろに倒れるも、後転して直ぐに体制を立て直す。
ケンカなれしてるだろうとは思ってたけど、それ以上かも。
それか武術を嗜んでる奴とばかりケンカしてたか。
2人共に口数が減る。
お互いがお互いを雑魚じゃないと認識したっぽい。
リドーが攻めて、カシウスがいなしてカウンターを狙うが続く。
カシウスがそんな闘い方も出来る様になったのは成長なんだけど、彼っぽくないな。
「カシウス君頑張れ」
「カシウス様がんばってぇ」
ギャラリーが全てカシウスを応援してるのって影響あるのかな?
問題児だったんならいつもアウェイだっただろうし。
リドーはリドーでアウェイに慣れてるのか気にしてる様子は無い。
時間も迫っている。
学園には街の要所に設けられているのとおんなじ大時計が設置されてるから正確に10分計れてる。
このままだと引き分けね。
「カシウス、いつもみたいに攻めて!」
ルーシもカシウスがぎこちないのが分かってた見たいで、しびれを切らして声を出す。
最近じゃ聞かなかったルーシの大声。カシウスは初めて聞いたかも。
その声に触発されて動きが良くなった。
「!」
今回初めてカシウスから懐に飛び込む。
顔目掛けて拳が飛んで来るのを左腕で上に押し退け、上体が浮いたリドーのミゾオチに掌底を打ち込むが弾かれる。
それでも勢いのままに頭突きをリドーの左前腕に喰らわせる。
「そこまで!」
ちょうど時間になってしまった。
リドーは頭突きがよっぽど効いたのか左腕を擦ってる。
「すげぇなカシウス、お前根性あるな」
カシウスの額も赤らんでる。
おでこ痛いでしょうに。でも、それくらい無茶な方がカシウスらしい。
「リドー、お前が予想以上に強くてびっくりしたよ」
「俺もだ。負けるとは思わなかったは」
「引き分けじゃないか?」
そう言って先生を見て判断を委ねる。
「ああ。時間いっぱいで引き分けだ」
「そっか、引き分けかぁ。でも負けた気しかしないや」
「そんな事無いだろ。まだ時間があったらどうなってたか分からない」
「いや、最後のお前がいつものお前なんなら、俺は10分もたなかったと思うぞ」
「2人共、いい試合だった」
先生が誉める。
微笑む2人。なんだか仲良くなってない?
続いてルーシとスフイン。
「僕のスキルは格闘系じゃないけど、お前は使ってもいいぞ」
嫌がってた割には強者の風格を見せようとしている。
「ボクのスキルもそうだよ」
アタシがスキルみたいなもんで、武器じゃないけど2対1になっちゃうからここは自重してカシウスの肩に乗ってる。
「なら手加減してやるよ」
「ありがとう」
スフインはジークンドーみたいなステップしてる。
リドーがあんだけ善戦したから連れの彼も侮れないかもしれないけど‥‥どうも何しても弱そうにしか見えないのよね。
「それでは始め!」
先生が時計の針のタイミングで手を振り降ろす。
スフインは急に雑な動きになって距離を詰め、大振りなパンチを繰り出す。
ルーシは左手で手首を掴み、肘の内側を右掌底で押してスフインの腕を曲げる。
スフインは肘がカクンてなって右にそれながら前に倒れ込む。
その流れに沿ってルーシも体を回転させてスフインを投げた。
「あれ?」
直ぐ様起き上がって反撃を転じると思っていたのか、投げられて動かないスフインにルーシが困惑する。
「それまで!」
先生が駆け寄る。
「何だ、意識あるじゃないか。さっさと立ちなさい」
頭打って気を失ったのかと思った。
「‥‥スフインの戦意喪失により、ルーシの勝利」
あっけな。でもしょうがない。
誰も気付いて無いみたいだけど、先生とアタシは気付いちゃった。
スフイン、ちょっとチビっちゃってる。
「あいつも強いんだな。びっくりだ」
「ああ。ルー兄はオレも敵わないからな」
「マジか、先に言ってくれよ。それはスフインじゃ太刀打ち出来ないは。悪い事したなぁ」
リドーがホント申し訳なさそうに、手で前を隠してるスフインを見詰める。
「さ、これで満足だろ?さっさと教室に戻りなさい」
と先生。
アルも着替え待ってるから急がなくっちゃね。
着替えを取りにcクラスに行くと着替えてないのはルーシ達だけだった。
そりゃそうか。女子ももう居るからここで着替える訳には行かない。
元々そのつもりもないけどね。
「アル、待たせて悪かったな。ルー兄、着替えに行こうぜ」
「うん。リドー達も一緒に行こうよ」
「ん?どっか良いとこあるのか?」
リドーは既に着替え出しそうな勢いだったので誘う。
それを嫌そうな顔して見てる子もいるしね。
「着いて来て」
「僕はいい。トイレで着替えるから」
「え、何でだよ。良いとこあるってんだからスフインも行こうぜ」
「そうだよ。遠慮する事ないって」
みんな気付いてないから気遣ってる。
「だからいいって!」
今の彼に優しさは悪かもね。
「ミュー」
「‥‥ナナチャが気にしないであげてって」
「そうなの?なら行こうか」
気になって動こうとしないリドーの裾を引いて連れて行く。
ルーシ、いい判断よ。
「どうしたんだろう」
「ミュー」
「そっとしてあげといてって言ってる」
「お前の従魔は何か知ってるのか?」
「大した事じゃないけどあまり人に知られたくない事だろうからって、ボクにも教えてくれないよ」
大人になればしょっちゅうだから笑い飛ばせるけど、思春期の子に酷ってものよ。
「その内元気になるだろうって」
「ならいいけど‥‥ それにしてもお前の従魔、賢いんだな」
「うん。ナナチャは頭いいんだよ」
「見た事無い動物だけど、種類聞いてもいいか?」
世界的になのかは分からないけど、この国では他人の従魔に過度な干渉をしない。
スキルのプライバシー意識が強いからその一貫なのかな。
お陰でアタシは普通にして居られるのよね。
「新種のドラゴンなんだって」
「マジか!すげぇな。マジか」
リドーは到着までずっとアタシを見ている。
ちょっと照れちゃうじゃない。
「ここで着替えるのか?」
リドーが、人通りは無いけど外でなら廊下でも良かったんじゃないかって顔してる。
「ちょっと待ってね」
ルーシがまたベンチを塀に変える。
今回は4人だからちょっと広め。
「わっ、すげぇな」
リドーは良く褒める。意外と素直な子。
「とっとと着替えちゃおう」
「あの‥‥ 僕と一緒に着替えるの嫌じゃない?」
「ん?あぁお前、教室から追い出されてたな。男同士でなに気にしてんのかって思ったは」
不安そうだったアルの顔が晴れる。
彼を突き飛ばしたのはリドーじゃ無いのは確定ね。
「って、お前何て格好してるんだよ!」
「ダメ?」
「ダメじゃないけども」
「アルの肌着、可愛いよね」
「そうだけども」
リドーは顔を赤くしてそっぽ向く。
カシウスは最初っから背を向けちゃってるし、2人共純朴ね。
「びしょびしょだね」
確かに汗で濡れたキャミソールは目に毒か。
「今日の授業はあまり動かないと思ってて、下着の着替え持って来なかったの。着替え無い方が良いかなぁ。でも着替えないとダメかなぁ」
「ちょっと服に触れていい?」
ルーシがキャミソールに触れる。
「え、すごい。乾いてる」
「スキルで元に戻せるんだぁ」
「マジか、俺のもやってくれよ」
「いいよ」
リドーのトランクスにも触れる。カシウスのにも。
端から見たらちょっと怪しいわね、目立つ所では控えさせよう。
「ホントだ、すげぇな。洗濯要らずじゃんか」
「洗濯ってなぁに?」
「服を洗う事だよ。オレも干してる所しか見た事ないけど」
「あ、ボクも干してるとこ見たことある。あれかぁ」
「マジかよ、洗濯知らない奴なんて居るんだな」
リドーが世界の広さを認識した。
アタシはアタシで、教えてない一般常識があった事を認識。
そういう事も学んで行かなくっちゃね。
次の授業は魔法だったわね。
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