この4人とでお風呂は初めてなんじゃないかしら。
ハマールがロジィさん1人にガイウスさんとカシウスを任せるのは気が引けるけど、抜け毛が気になるから皆と一緒も憚られるって思ってるから、カシウスが気遣って皆と入るの嫌がるのよね。
ルーシと一緒は嫌がらないから普段はカシウスとハマールとお風呂入る事が多いかな。
ガイウスさんとロジィさんとは久しぶり。
あの時はセドリックも居たっけ‥‥
「あの問題を3分の2解けたなら間違いなくbクラスになると思うよ」
湯船に浸かるとおもむろにガイウスが言う。
「じゃぁオレもbクラスがいい!」
とカシウス。
ガイウスさんは頷く。もとよりそのつもりだったみたい。
口利きしてルーシをsクラスに入れるのはかなり難しいだろうけど、カシウスをbクラスにするなら容易でしょう。
テルティアで実績あるしね。
「ルーシにお願いが2つあるんだ」
「なぁに?」
一緒にお風呂に入ったのはそのお願いってのを伝える為かしら。
「1つは学園内でのカシウスの護衛をして欲しい」
「は?父さん、学園内に護衛は入れないじゃないか」
「ああ。だから生徒になるルーシに頼みたいんだ」
「うん。いいよ」
ルーシは考えなしと思える位即答だった。
「学園内で護衛はいらないんじゃないの?」
貴族の子供もいるのに護衛禁止って事は学園内は確固たる警備体勢なんじゃないのかな。
「暗躍があってね、保険みたいなものだよ。それに、カシウスが問題起こさない様に見張ってて欲しいし」
「問題ってなんだよ」
中等部の頃はカシウスよくケンカしてたんだっけ。
「今までは子供のケンカで済ませてたけど、これからはそうも行かなくなるからね」
「うん。分かった」
「頼んだよ」
「ちょっとルー兄まで!」
カシウスが少し不貞腐れる。
茶化して話を終わらせたけど、暗躍って物騒な話じゃないわよね。
「それと、もうひとつなんだけど‥‥」
今度は何だか少し話辛そうと言う。
「プートリアの件なんだが‥‥」
「プートリア?」
何かしらそれ。
「オレの従妹だよ」
従妹って事は王女様?
「プートリア・サンペリエ。王位継承権第一位で姪っ子さ」
従妹だの姪だのが王女様だなんて、知ってはいたけど改めて聞くと凄い偉い人達とお風呂入ってるわねアタシ。
で、その王女様がどうしたのかしら。
「この国の王選出には基準があってね。直系か血縁者なのと、王家の痣があるか、竜を使役しているかなんだ。」
『王家の痣』って確かカシウスが受紋したヤツだったか。
「該当者が居なければプートリアの継承権は揺るがなかったんだけど‥‥」
カシウスに痣が出て仕舞って揺らいでると。
彼も前国王から見れば直系だもんね。
でもそれでルーシに何をお願いするのかしら。
「プートリアの受紋てさ、『羊飼いの紋』で竜をテームしてるよね?」
とカシウス。なら安泰じゃない。
「飛竜系の火竜の幼生をね」
「ほら。なら問題ないんじゃないの?」
「それがルングス辺境伯の嫡子も飛竜を使役してしまってね。それもあって幼生のままでは説得力に欠けるって思われているんだよ。そこで白羽の矢がたったのがナナチャなんだ」
え、アタシ?ルーシじゃなくてアタシが目当てなの?
「国王に誰がナナチャの事を話したらしいんだ。それでプートリアの竜の成長を手助けして欲しいって言われているんだよ」
誰にも何も知られていないとは思って無かったけど、まさか国王にまでアタシの事が話題に上がってるとは思わなかったわ。
だったら手伝って王家と仲良くなっといた方が絶対良いわよね。
「手伝うのは構わないけど、条件があるってナナチャが言ってるよ」
「なんだい?なるべく叶えられる様に努力するよ」
「‥‥ 炎を使うから燃えてしまわない場所が必要なのと、あまり人に見られたくないからやる時は少人数が良いって」
アタシの時と同じ様にすれば良いと思ってるんだけど、あの時はルーシの血を飲ませて貰ったのよね。
ポーションで代用出来ると思うけど、もしもダメだった時の為に目撃者は少ない方がいい。
「出来ればナナチャと僕と、プートリアさんとその竜だけが良いんだけど」
「それは流石に無理だと思う。プートリアの護衛は最低限必要だし、それでも少ないと言われ兼ねないな」
「だったらカシウスとハマールにも付き添って貰いたいな」
彼等ならルーシの秘密を知っているし、今までも内緒にしてくれてるから安心出来る。
「オレも手伝うよ。プートリアは妹みたいなもんだし」
「それはいいね。カシウスが手伝う事で王座を狙っていないって印象を与える事にもなる。どうなるか分からないけど話を通してみるよ」
「後、もし失敗した時の事を心配してるみたい」
ガイウスさんの顔が少し曇る。
「‥‥本当はナナチャを差し出すよう言われたんだ。でも上手く行けば火竜の方が権威を示せるって説得して今に至るから‥‥ 失敗したらナナチャをあげなくちゃならなくなるかも」
「そんな!」
ルーシとアタシの代わってカシウスが声を上げてくれる。
「そんなのないよ!」
「分かってる。だからもし失敗したらまた別の案で交渉しようと考えているんだ」
ガイウスさんは既にアタシ達の為に動いてくれているのね。
今までとても良くして貰ってるから板挟みになる様な事は言いたくないかな。
「ナナチャが分かったって」
「え?ルー兄はそれでいいのか?」
「良くないけど‥‥ たぶん失敗しないし、失敗しても何とかしてくれるって言うなら、今ガイウスさんを困らせたくない」
ルーシとは意志の繋がりがあるからアタシの思いが伝わってるだろうけど、彼も同じ気持ちだったから代弁ではなく自分の意見として発言してる。
大事な決断は自分で責任を持とうとしているみたい。
「ルーシ、ありがとう」
「‥‥ そうと決まればオレに出来る事は何でも言ってよね!」
「うん。ありがとうカシウス」
「そろそろ上がりましょうか。逆上せてしまいます」
ロジィさんが居たの忘れてた。
不必要な時は気配消して、出る時は出てちゃんと区切ってくれる。
やっぱりロジィさんは凄い。
学園内でカシウスの護衛をするなら彼を手本にしなくちゃね。
「うん。頑張ってみる」
「アタシも居るから2人でロジィさんに追い付きましょ」
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