転生竜と賢者の石な少年

ツワ木とろ
ツワ木とろ

【41】秘密スキル

公開日時: 2021年10月20日(水) 22:06
更新日時: 2022年12月26日(月) 21:44
文字数:3,881


 スムカのバックは瞬く間に貴族に広まったらしい。

 護衛に持たせるのが主みたいで、ガイウス邸の側役も持ってる。

 軍にも卸し出そうかってしているけど、一般にまでとなると色々面倒みたい。

 ほぼほぼ帯刀してるのと変わらないからね。ガイウスさん的には予想通りらしい。


「商人に出回るまではなんとか漕ぎ着けるかな」


 とガイウスさん。

 教会と商会も注目してて、そこはさすがに軍も無視出来ないだろって。


「先に一般で売り出す事も出来たんだけど、そうすると軍に目を付けられて禁止にされかねないからね。回りくどいけど今が最善だと思ってるよ」


 ガイウスさんの立場的にもなんでしょうけど、色々根回ししてこれだけ早く広まってるのは彼の采配のおかげなんでしょう。

 とうぶんスムカのバックを持っている一般人はアタシ達だけって事ね。

 1番重宝してるのはリネット。

 かさ張ってしまう矢を、今までの10倍は持って行けるから弾切れの心配がなくなったんですって。


「もうこのバック無しではダンジョン行けない」


 とまで言わしめてる。

 まぁ、重さは変わらないみたいだから持てるのってリネット位なんだけどね。



 ルーシとカシウスの秘密の特訓はあれから毎週の様に行われている。


「また行くの?いつもどこに行ってるのよ」


 だいたい休日2日目に行く事が多いのは、ガイウスさんが家にいる事が多い日だから。

 ガイウス邸の大人達は知っているみたい。

 だからか、ガイウスさんが出掛けてて居ない時は、エイミーが絶対許可出さなくなった。


「内緒だよ」

「なによ。やらしっ」

「なんだよそれ。まぁいいや。行ってきます!」


 行ける日はテルティアが吹っ掛けてもカシウスは乗って来ない。それがまた彼女は面白くないみたいね。

 元々、ケンカ吹っ掛ける娘じゃないのにこの日だけはかまってちゃん化するから残った人達で面倒見てる。

 ガイウスさんは娘が子供帰りするのもまんざらでも無い様子。

 まぁ仲い良っていっても年頃の女の子だからねぇ。距離感じてたのかしら。



 最近は秘密特訓の初めに素手での組手から始まる。

 結局真剣じゃない方が思い切り出来るって気付き出したみたいね。

 段々組手の時間が長くなってるから、もしかしたらもうそろそろ秘密特訓なくなるかも知れない。

 アタシのお昼寝の時間がなくなっちゃうのは残念だけど。


   グサッ

   ドスン!


 何かが地面に刺さる音と、何かが倒れ混む音で目が覚める。


 目を開けるとアタシは鳥かごの様な柵に覆われ、隣でハマールが倒れてる。


「ハマール!!」

「おっと、近付くなよ」


 男がハマールの背中に剣を突き立て、カシウスとルーシが駆け寄ろうとするのを止めた。


「急所は外してるから、死にはしねぇよ。ま、もう歩けないかも知れないけど」


 ハマールは後ろから不意をつかれたみたい。

 背骨を傷付けられたのかも。上半身だけでもがいてる。


「カシウス様の逃げて下さい!」

「それは困るなぁ」


 他に2人の男が現れた。

 1人はスキンヘッド。見覚えがある。


「俺達、そっちの白っこいガキに用があんだよ」


 スムカをいたぶってた奴等だ!

 カシウスがルーシを庇う様に前に出る。


「別にお前に用が無いわけじゃねぇよ。お前あれだろ?あのデケェ屋敷、お前ん家だろ?」


 そんな事知ってるって事は、前もって計画してたのね。

 気付かなかったなんて悔しい。

 恥かかされて根に持つのはいいけど、度が過ぎるわ。どこまでダサいのよ。

 ああ、火ィ吹いて遣りたい。

 でも、ここでそんな事したら大火事になってしまう。

 はがゆい。


「ハマール大丈夫か?!」

「オイラは大丈夫ですから。早く逃げて下さい!」

「うっせーなぁ!」


 取り巻き野郎がハマールの脇腹を蹴り飛ばす。


「やめろ!」

「大人しくラチられてくれれば、直ぐに書状出してやっから。そうすればこいつも助かるんじゃないか?」


 あぁ、彼らに慈悲の念が湧いて来る気がしない。


   「この人達、人間だよね。倒して良いのかなぁ」


 今そんな事悩んでたのね。


   「こんなひれつな奴等、人間なんて思わなくて良いわよ。モンスターの方がよっぽど可愛げあるわ」

   「‥‥わかった」

   「こてんぱんにしてハマール助けて上げて」


 ハマールに剣を突き立てる奴以外の2人がカシウス達に近付く。


「近寄るな!」

「いい子にしてりゃぁ痛い目合わせないから。その槍降ろせや。ホントは怖いんだろ?」


 カシウスの矛先は震えている。

 ルーシだって対人は初めてで戸惑ってるんだもん。

 カシウスからしたら初めて命のやり取りになり得る状況で、ビビって当然よ。


「うるさい!」


 カシウスがスキンヘッドにロンギリオンを振り下ろす。

 スキンヘッドは剣でそれを弾いたが、カシウスが剣に触れた瞬間に突きに変更したので、かわしきれずに左肩に突き刺さる。


「てめぇ!何しやがる!」

「!?」


 牽制のつもりだった攻撃が当たってしまったのと、初めて人を刺したのとで呆然としてしまっているカシウスの腹部にスキンヘッドが剣を突き刺す。


「アニキ、殺しちゃ勿体ないですぜ」


 カシウスはお腹を押させながら倒れ込んだ。


「うるせぇ。後でポーション飲ませればなんとかなっだろっ! それに死んじまっても当てはある」

「うぉぉぉぉ!!!」


 カシウスが刺されたのを見て、ハマールが雄叫びをあげる。

 立てないはずなのに、背中に剣を突きつけられてるのに立ち上がる。

 刃は貫通して腹から突き出てくる。


「う、うわ!」


   ブォン!


 その異形な姿にたじろいだ男の顎に、渾身の右フックが入る。

 踏ん張りきれないハマールがそのまま倒れ込み、男を下敷きにした。

 こちらを向いて泡吹いてる男の首は回っちゃいけない位回ってて、直ぐ分かる。


 死んだわね。


「あのやろ、おいてめぇ、何してる!」


 ハマールの猛攻に気を取られてる隙にルーシがカシウスに血を飲ませた。

 ルーシの独断だけど、今回はアタシも否定しない。むしろ良くやったわ。


「ハマールにポーション持っていって!」


 復活はしたが放心状態のカシウスの肩を強く揺さぶる。

 それでカシウスは覚醒し駆け出す。

 ポーションの残りが馬車にあるはず。


「待ちやがっ」


 カシウスを止めようとしたスキンヘッドの首が飛んだ。

 胴体から吹き上がる血渋きの先にディアボロスを振り下ろしたルーシ。

 目がすわってる。


 残りの1人はルーシを見て腰を抜かしてる。

 まさか自分達が負けて、恐怖するなんて思ってもいなかったでしょう。


「違うんだ、全部アニキに言われて遣ったんだよ!だから待って。俺は何もしてないし!」


 確かに彼はハマールを刺してないし、カシウスを刺してない。

 だからって、その言い訳は低俗すぎる。


「家族を傷付ける奴は許さない」


 そう言って振り下ろされたディアボロスは、男の喉元を貫いた。



「ルー兄!ハマールにも飲ませて!ポーションが足りない‥‥」


 大事に使ってたポーションだけど、残りが半分しかなくて、傷口を塞ぐだけの効力しかなかった。


「カシウス様、ご無事だったんですね‥‥」

「待ってろ。今、ルー兄が助けてくれるから!」

「大丈夫ですよ。ポーションのおかげで楽になってますから」


 ルーシがどこかに助けを呼びに行くと思ってるのか、ハマールは微笑む。


「飲んで!」


 そこに駆け寄って来たルーシがいきなり口に指を突っ込み、ハマールが目を丸くする。

 喉が動いた。飲んだわね。


「あれ?」


 急だったので、自分が治ってる事に中々気が付かなかったハマールは立ち上がり困惑しながら体を確かめてる。


「ルー兄の秘密のスキルのおかげだよ」


 秘密のスキル‥‥ いい表現ね。


「秘密だからな。絶対誰にも言うなよ。父さんにもだぞ!」

「あ、はい‥‥」


 ハマールは辺りを見渡しながら、上の空で返事する。


「ハマール、分かってるのか?」

「はい、秘密ですね。分かりました。‥‥後、この事も内緒にするだよ。」


 入り口付近の自分が殺した1人を倉庫の中に引きずり込み、戻って来たハマールはルーシとカシウスの肩に手をやる。


「いいですか?この事が広まるとガイウス様達にも迷惑が掛かってしまうので、黙っていて下さい」

「なんでだよ。これは正当防衛じゃないか」

「そだ。だけんど、何でここに居るのか、武器もポーションまで持ってた理由をオイラ上手く説明出来る自信がないです」


 もしかして、法律に触れる様な事だったのかしら。

 もしかしたら抗争に巻き込まれたと思われるかも知れない。

そしたら厄介ね。


「そしたらオレが説明してやるよ」

「カシウス様もルーシさんもオイラよりずっと賢いけんど、それでもやっぱり子供なんでどこまで信じて貰えるか分からないですよ」


 落ち着ついて考えて見れば、殺しちゃったのは不味かったかな。

 アタシは何とも思わないし、この子達にに後悔させる気もないけど。


「もし、バレたらどうするんだ?」

「バレないです。だってコイツら何のゆかりもないですから」


 その時は彼が全部被る気で居る。そんな気がする。

 ハマールがしゃがんで2人と視線を合わせる。


「お願いだから言うこと聞いて下さい。今日はいつも通り特訓してただけ」

「‥‥分かったよ」


 ルーシも頷くとハマールは2人を抱き締めた。


「2人とも無事で良かっただよ。それにとても勇敢でしただ」


 カシウスは少し震えていた。




 その後、2ヶ月が過ぎても何の音沙汰もない。


 カシウス達は後ろ暗い気持ちが残っている様だったけど、努めて普段通りにしていたのでみんな気が付いてないと思う。

 ただ、あの日帰って直ぐにハマールがガイウスさんとロジィさんと書斎に行ったので、事情を話したんじゃないかと思ってる。


 あの日のハマールはとても頼りになって見直したのに、その後はいつものウドの大木に戻っちゃったのは残念。

 後、3人で盛り上がっちゃって、アタシを中々助けてくれなかった事は今でもちょっと根に持ってるわよ。

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