森の真ん中は大きく拓けていて、その反対端近くに家屋があった。
2階建ての高級そうなおもむき。
立派な家庭菜園もあり、お金持ちの別荘の様。
初めて来た場所だから様子の違いは分からないけど、魔獣の被害を受けた様には見えない。
「無事みたいね」
「良かった」
ディオ達が安心している所を見ると、そうなんでしょう。
「誰も居ないのかな」
家の側に馬車を着けて降りるまで、蹄や馬の鼻息だったりそれなりに大きな音がしてたはずだけど誰かが現れる気配がない。
子供が窓から覗いてるとかもない。
「避難したのかも」
そんな感じがするわね。
「とにかく入って見ましょう」
大きなドアを開けると広い玄関。
二股の階段。貴族の屋敷って言ったらイメージするそれそのものな玄関だ。
偉い人が携わっているのか、寄贈したのか孤児院とは思えない豪華な内装。
「スムカ、ディオ、ティチーノ。帰ったのですか?」
2階に白い司祭の様な服装の男性が現れた。
ビックスさんと同世代位かしら。偉い人そうな落ち着きがある。
「フィンティス様、森に魔獣が居ました!」
「みんなは無事ですか!?」
「‥‥皆さん、挨拶がまだですよ」
フィンティスと呼ばれた男性はゆっくりと階段を下りる。
「‥‥はい。ただいま帰りました」
緊急事態なのに挨拶で叱るなんてよっぽど厳格な人なのか、それとも事態を把握してないのか。
「そちらの方々は? 客人を連れて来るのを許した覚えはありませんが」
フィンティスさんは厳しい人っぽい。
「すみません。彼らとはディチカで偶然お会いしまして、私共もこちらに向かっていたので無理に同行して頂いたのです」
「貴方は?」
「私、異端審問官のビックスと申します」
フィンティスさんの目付きが鋭くなった。
正体隠さないのには少しビックリ。
「審問官が何のご用ですか?」
「不当にスキルの使用を禁止していると聞きましたので、その聴取と是正に参りました。ですが、火急な事態なのでまずはそちらから解決しましょう。こちらには教会に連絡する手段がありますので、討伐隊を要請しましょうか?」
「お前達が喋ったのですか?」
「途中で聞かれたので答えました。外で暮らして見てここが変なんだと分かったから‥‥ だけど、今はビックスさんが言った通り魔獣をなんとかしないと!」
「はぁ。やはり遠くに行かせるのは間違いでしたね。 ‥‥分かりました。是正をお受けしますので、どうか皆さん“おひきとりください”」
ピクッ
審問官とツインブレスの面子がきびすを返しかける。
なんか体が勝手に動こうとした気がする。
「? 迅速な対応に感謝しますが、今後の経過監察の為にも聴取を取りたいので、まだ帰るわけには行きません。それに先程から申してます様に外には魔獣がまだ居るかも知れませんので対処しませんと‥‥」
ビックスさんが体の違和感を感じながらも話を進めようとする。
「おや?流石、審問官なだけあって死線を潜り抜けておいでの様ですね。今ので効かないとなると困りましたねぇ」
さっきから話が噛み合わないと思ってたけど、今度は訳の分からない事を言い出した。
的外れってより、全然違う場所の的を狙ってるんじゃって感じ。
「材料もほとんど残って無いし、教会に目を付けられてまで此処を残すメリットも無いですね。彼らと一緒に燃やしてしまいますか」
とうとう独り言を言い出す。
燃やす?彼らとってアタシ達と一緒に建物を放火するってこと?
そんな事口走られたら、阻止するに決まってる。
「フィンティス様、どういう事ですか?!」
みんなが身構える。
ティチ達は育ての親の暴言に困惑している。
「“ひざまづけ”!」
体が勝手に動く。
さっきと同じ感覚。でも、今度は抗いがたい。
ディオ達も含め、全員が膝を付く。
「どういう事だ?貴方が何かされたのか?」
「ええ、まぁ。スキルを使っただけですよ」
「はぁ?人にスキル禁止しといてあんたは使うの?!」
ヴィオラが言う。
全くその通りだと思う。
「はて?是正すると言ったではないですか」
うわ。ディオ達には悪いけど、この人をさん付けで呼ぶ気が失せたわ。
「ディオ、魔獣は何人でしたか?」
フィンティスがやっと魔獣の話をし出した。
「‥‥20体です」
「全部倒した?」
「はい‥‥」
「そうですか。まったく、部外者を連れて来るから襲われるんですよ」
「どうしてですか?」
「家族だけだったら襲って来たりしませんから」
「どういう事ですか?」
フィンティスの話は支離滅裂で理解出来ない。
「フィンティス様、どうしちゃったんですか」
ディオが中腰まで体を浮かせる。
彼にはスキルの効きが悪いのか。
「ディオ、いつからそんな根性が付いたのですか?」
根性で抗えるの?
だったらと、みんな気合いで立ち上がろうとする。
「皆さん、凄いですね。“こうべをたれろ”」
スキルの重ね掛けなのか、今度は頭が下がろうとする。
どちらかに抵抗すると、どちらかが抗えない。
だったら頭を下げるなんて絶対に嫌だ。
スムカだけが頭を地面につける。
「1人だけ‥‥ それにこんな子供にまで効かないなんて、私も焼きが廻ったのかもしれませんね」
フィンティスがルーシの前に立つ。
「おや?よく見ると君、サーリアが連れている子に似ていますね」
え?サーリア?あの魔女を知ってるの?
「サーリアを知ってるの?」
ルーシが口を開く。
「やっぱりサーリアの関係者なんですね。ええ、知人です」
こんな所でサーリアと繋がるなんて。
情報聞き出した方がいいんだろうけど、アイツとは関わりたくないって気持ちが勝っちゃいそう。
「君を殺したらサーリアに怒られて仕舞うかも知れませんね。まぁ、知らなかった事にしましょう」
フィンティスがきびすを返す。
こいつ「殺す」って言ったわね。
この状況で手を出されたらホントにヤバい。
「ここで我々を殺したら、教会からも国からも指名手配されますよ。それは貴方の望むところではないでしょう」
ビックスさんが打開策を模索し始める。
「このまま焼け死ねば、火事で逃げ遅れた焼死体なだけでしょう。事故死ですよ」
「我々の様な職の者の死は徹底的に調査される。そんなに上手くは行かないぞ」
体が動けばこんなジジィ、なんて事ないのに。
「それにしても参りましたね。私の研究成果を全部倒してしまったんでしょう?」
「どういう事ですか?」
「20体しか成功しなかったのに。まぁ、本命はスムカですから良いでしょう。幸い、スムカは言う事聞く見たいですし」
「私はもうあなたに従いません」
「スムカ“きなさい”」
土下座状態だったスムカが立ち上がりフィンティスの側に歩き出す。
「嫌‥‥助けて」
「スムカに何をする気だ!」
とうとうディオが敬語を辞めた。
体もまた起き始める。
ホントに気合いで何とかなるって事を分からせてくれる。
「“ひれふせ”」
3度掛け?これにはビックスさん、ニーダさん、ティチにヴィオラとリネットの頭が落ちる。
顔を横にしてフィンティスを睨み、抵抗を見せるヴィオラ。
「“うえをむけ”“くちをひらきなさい”」
スムカにそう命じたフィンティスが何処からかクルミ大の球体を取り出した。
魔石と同じ色。
「貴方の喉なら呑み込めるでしょう“のみこめ”」
その球体をスムカの口に落とす。
呑み込んでしまったスムカが首を押さえる。
喉に詰まって呼吸困難起こしてる。
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