校舎の裏が林道になってて、そこにベンチがあった。
ウチのクラスの真裏だけど、木が目隠しになってて教室は見えない。
食堂から近いし、トイレにあった勝手口から出入りすれば教室も近い。
「ここいいね」
「うん。これからもここで食べようか」
木陰と風が心地いい。
今日はその居心地の良さでずっとベンチで過ごしちゃったけど、林道を散歩してもいいかも。
裏門が近くにあるはずで生徒は使用禁止だから、わざわざ行かないと見ないで卒業しちゃうかもしれないしね。
体操着に着替える為に教室に戻る。
bクラスの教室はbcクラスの女子が着替えに使うので着替え取り出しとかないと入れなくなっちゃうわ。
男子はcクラスね。
早めに戻ったつもりだったけど、教室の扉は閉められていた。
「遅かったか‥‥」
cクラスも閉じられてるのを見ると着替えが始まってしまっているのやも。
「終わるまで待つか?」
「それじゃぁ間に合わないかもしれないよ?」
「でも入っちゃ駄目だろうし」
「ボクが頼んでみるね」
そう言ってルーシが扉をノックする。
「誰?あ、ルーシ君。どうしたの?」
扉を少し開けて顔を出してきたのは取り巻いて来た女の子だった。
「ボクとカシウスの着替えがまだ中なんだけど」
「あ、そうなんだ。ちょっと待ってて」
女の子は顔を引っ込めると「ルーシ君とカシウス様が荷物取りたいんだって」と中の娘達に了解を取ってくれる。
「みんないいよって。どうぞ」
まだ移動したばかりだったのかほとんどの娘が制服のままだ。
荷物を取って直ぐに出たけど、カシウスはその間ずっと下を向いていた。
「ありがとう。助かったよ」
「いいえ。でも今度から気を付けてね」
彼女が居てくれて助かっちゃった。
印象悪いの改めなくっちゃね。
「お前は隣だろ!」
「ちょっ、まってよ」
cクラスに入ろうかって時に、反対側の扉から女の子が放り出された。
転びまではしてないけど、突き飛ばすなんて酷い。
誰がやったのか見えなかったのが残念だわ。
見えてたら引っ掻いてやったのに。
「大丈夫?」
ルーシが駆け寄る。
「あ、うん。大丈夫‥‥」
手には体操着の入っているだろう袋を握りしめている。
アタシ達と同じで出遅れたのねきっと。
「なら良かった。じゃぁね」
2人が去ろうとしてもその娘は立ち尽くしている。
「どうかしたのか?まだ教室に忘れ物でもあるのか?」
「ならボク達が取って来て上げるよ」
娘はスカートの裾を握りながら首を振る。
長めのサラサラボブヘアが揺れ、いい香りが立ち込める。
「違うの‥‥ 僕、男の子なんだ」
「え?」
「でもスカートじゃないか」
「うん‥‥ この学園は男の子でもスカート履いていいから」
「オカマなのか?」
「ううん、ただ好きなだけ。そう言うのまだ分からないんだけど、教室の男の子が僕がみんなの着替え覗いてるって言い出して‥‥ そんな事してないのに‥‥」
女装が好きなだけで男が好きな訳じゃないのかな。
雰囲気は可愛らしい女の子だから、目覚めてないだけかも知れないけど。
「女の子の教室で着替えさせて貰えないよね」
「オレ等には分からないけど、オカマなんだったら許されるんじゃいか?」
「君は女の子に成りたいの?」
「分からない。ただ可愛いのが好きなの」
それだけでスカート履いてくる勇気が凄い。
「トイレで着替えるのは駄目か?」
「やっぱりそうかな。でも男子トイレってあまり清潔じゃないから」
そうなのよね、あえて汚してる訳じゃないんだけど、綺麗に使おうって意識がないのよね。
個人的には助けてあげたいと思うのだけど、何とかならないかしら。
「‥‥あ、こっち来て」
「おいルー兄、何処行くんだよ」
何か思い付いた見たいでルーシは男の娘の手首を引いく。
カシウスも付いて来てトイレの中へ。
「ここなら人来ないよ」
トイレの勝手口から出て、昼食を取ったベンチにまで来た。
元々人通りは少ないし、時間的にもう誰も通らないかもしれない。
「外で着替えるのがちょっと‥‥」
この子は考え方も女性的なんじゃないかしら。
ただ恋愛対象とか自分の性に目覚めてないのか定まってないのか。
女兄弟しかいないとか?
「そうだよルー兄。こんな開けっ広げな所で着替えるとか駄目だよ」
おっと、カシウスまで。
彼の場合は育ちの良さからかな。
「そっか‥‥」
いい考えだと思ってたからルーシは悩む。
「オレ達も早く着替えに行かないと間に合わなくなるぞ」
ここまで連れて来てごめんじゃ悪気無くてもイジメみたいじゃない。
少なくとも嫌な思いはさせちゃうな。
目隠しがあれば良いのかしら?なら、
「周りが囲われてたら大丈夫?」
ルーシにアタシのプランを伝えて、確認を取って貰う。
「うん。そんな所があったら‥‥」
「それなら」
ルーシがベンチに触れてスキルを使うと3人をぐるっと囲う壁になった。
「え、凄い‥‥」
「錬成のスキルだよ」
質量までは変ってないから見た目の割には脆いと思う。
風がないのが幸いね。
「これなら大丈夫?」
「うん。ありがとう!」
「なら、オレ達は着替えに教室戻ろうぜ」
「え、行っちゃうの? 1人は怖いんだけど‥‥」
上目遣いが可愛いなぁ。
出入口なんて作ってないからルーシがまたスキル使わないと出られないし、カシウスも嫌がってる訳では無さそうだから一緒に着替えちゃえばいいのよ。
「じゃぁ、ボク達もここで着替えていい?」
「うん!」
「カシウスもいいでしょ?」
「‥‥うん」
早速お着替えとなると男の娘は、さっきまで怖いだの弱気な発言してたクセに何の躊躇も無く上着を脱ぎ、スカートを脱いで下着姿になる。
男の子でもそこまで大胆に着替えないんじゃないかしら。
「可愛い下着だね」
「ありがとう」
誉められて嬉しそうにする仕草も可愛い。
縁にレースの着いたキャミソールとパンツ。
そこまで徹底してたら女子と着替えても大丈夫なんじゃないかしら。
「カシウス、何で後ろ向いて着替えてるの?」
「何でもないよ‥‥ルー兄、気にしないで」
カシウスの耳の先が赤くなってる。
こっちも可愛い奴だなぁ。
3人とも着替え終えたので、ルーシが囲いをベンチに戻す。
「2人ともありがとう」
「とんでもない」
「ああ。気にしなくて良いよ」
「あの‥‥ 僕と友達になってくれる?」
「もちろん!」
やった。友達第1号だ。
「ボクはルーシ、こっちはナナチャ」
「カシウスだ。宜しく」
「僕はアレクサンダー。宜しくね」
あら、なんて男らしい名前なこと。
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