そして迎えた決勝戦当日。今回の演習は今までとは違う形で行われることとなる。研究所についたマルス達は妙に賑やかな施設内を見て少しだけ緊張した。
それもそのはず、これはレイシェル所長の計らいで決勝戦は本来なら非番の日に開催された。それによって普段任務に出ている班も万が一の備えだけして今回の決勝戦を観覧することができるというわけだ。全ての戦闘員が魔研へと集まって様々なところに設置されたモニターから試合の様子を見ることができる。
三年に一度のバーチャルウォーズでの決勝戦は見ものである。ほぼ全ての班が八剣班の活躍を見にきたようなものだが今回注目を受けている班はもう一つ、東島班である。
初のバーチャルウォーズであるのにも関わらず稲田班、レグノス班を打ち倒し今回決勝まで上り詰めたこの班がどんな戦闘を見せてくれるのかというところも見どころだった。
研究所についたマルス達をすぐに係の研究員が出迎えてくれてコネクトの部屋まで案内される。その案内される時も他の戦闘員からの視線が自分たちに刺さったり至る所に設置されたモニターから自分達の姿が写っているのを見て何かしらの複雑な思いを持ちつつ部屋に急ぐ。
とは言ってもマルスにとっては「なんだか騒がしいなぁ」といった雑音でしかないし、悠人の「今だけでもいいから強く見せとけ」といったさりげないフォローも入れつつモニターに映る自分達に複雑な心境を持ちながら控え室へと入っていった。
コネクトの部屋に入ってバタンと扉を閉めた瞬間に悠人はヘトヘトそうな顔で椅子に座る。どうやら先頭で無理に強がっていたのかかなり精神的に疲れたように見えた。
「戦闘員になってから……ここまで多人数に見られるのってなかったから……」
悠人は手をヒラヒラさせてフッと笑う。マルスからしても悪い気はしなかったなと振り返った。俺もあれぐらいに祝福されてみたいなぁ……と思いつつ神の世界のことを思い出していると悠人が手をパンパンと叩く。
「よし、みんな今から決勝戦が始まる。敵の強さも今までとは桁違いだ」
悠人の言葉に全員がうなづいた。あの苦戦した二回戦の稲田班とは桁違いの実力を持つ戦闘員と対決するということを念頭に入れつつ選抜メンバーである悠人、サーシャ、隼人、優吾、マルスは深呼吸をした。その様子を見て蓮がニヤリと笑いながら話しかける。
「なんだよ、隼人。ビビってんのか?」
「ビビってねぇし」
冷や汗をかきながら口笛を吹くふりをして答える隼人。吹くふりなのでピューイ! といった音は鳴らずに掠れた音がただひたすらに鳴ってるだけである。
「お前ならできるよ。いつもの馬鹿力を忘れるんじゃねぇぞ?」
そんな隼人を見てニッと笑った蓮。この会話を聞いてマルスは本当に二人とも仲がいいんだなということを感じ取った。蓮からのエールを貰った隼人からは冷や汗が落ち着いて余裕が出たのか「俺の活躍見とけよ?」と指を指してニッと笑う。
「優吾さん! あの……えっと……応援してます!」
自分が試合に出るわけでもないのにガクガクと震える慎也。そんな慎也を見た優吾は微笑んで震える彼にポスンと手を置いた。
「俺の分まで緊張してくれてありがとな。もう気負うな、あとは俺がやる」
こんなに優しそうな表情をした優吾……、初めて見た。と周りのメンバーは驚きながらも微笑ましい空間に心が和む。もう師匠と弟子といった関係ではなく兄弟と言ってもいいほど仲がいい二人を片目にパイセンはサーシャに近づいた。
「大人数の前ではお前は怖いと思うかもしれないけど……自分のペースで頑張れよ? 魔装の調子は?」
「バッチリね、昨日は細かくみてくれたから大丈夫」
「だといいけど……」
「だーいじょうぶ! 試合中に壊れたって恨まないよ!」
パイセンの肩をバシンと叩いてニッと笑うサーシャ。実は昨日はパイセンが寝る間を惜しんでサーシャの魔装の異常がないかを確認していたなんてみんなには言いたくなかったけど結果として言ってるようなものとなったがいい感じとなった。
叩かれた肩を「いデェ……」とさすりながらパイセンは片手で「頑張れよ」と表現する。
「マルス、しっかりね」
真っすぐな目でマルスをみてエールを送る香織。なんだか香織にはお世話になってるよなぁ……と思いつつマルスは彼女の目をみて言葉を発する。
「あぁ、善処する」
これで良し! と言わんばかりの笑顔になった香織。本当に健気なんだよなぁと思いながらマルスは香織には笑みを返した。そんなマルス達を見た悠人は少し俯いた後にキッとした顔で班員を見る。
「じゃあ、俺たちは仮想空間に行ってくる。残りのみんなは観覧室から俺たちの活躍を見てくれ」
腰に吊り下げた赤い刀をギュッと握って悠人は話を終えた。蓮と隼人、そして優吾はその様子にグッとくるものがあって成長した悠人を改めて感じる。
その時にちょうど案内の研究員が部屋に入ってきて選抜メンバー以外の班員は観覧室へと向かっていった。彼らを見送った後にマルス達も仮想空間に入るべく準備を始める。
「八剣班はこれから来るので先に入ってお待ち下さい」
研究員がコネクトのボタンを押してマルス達の意識は一瞬だけ消えた。
目が覚めるとそこはもう仮想の世界。今までとは違ってかなり限定されたフィールド、闘技場だった。ローマのコロッセオを彷彿とさせる円形闘技場で空を見上げてみると雲ひとつない晴天である。目の前に悠人達がいるのを確認したマルスはどうしようかと悠人に聞こうとしていたところ、「お待ちしてました」と言いながら近づいてくる一人の研究員を見つける。
「東島班の待機場所はこちらでございます」
なんとその研究員もわざわざ案内役としてバーチャル空間に入ってきたというものでさすが決勝だなと思いながら待機場所へと向かっていく。待機場所についた頃に八剣班も到着。
いよいよ始まる決勝戦に戦闘意欲が高ぶるマルス達なのであった。
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