戦ノ神の新約戦記

これは神より堕ちた戦ノ神の新約戦記
天方セキト
天方セキト

どうなっても知らねぇからな!

公開日時: 2021年1月8日(金) 21:59
文字数:3,184

 エークスとウェッカの部隊を撃破したパイセンとサーシャ。そのまま道なりに進んでいく。どこからかオイル臭い臭いで辺りが覆われてきた。もう工場地帯へと入っており通路というよりかは路地のようである。錆臭く、小汚い路地。


「よく迷わないで進めるねぇ」


「地図は展開してるからな」


 パイセンの右腕はバットによって覆われた端末と化しており、地図を映しながらナビゲーションしている。ピッピと操作をしながら進んでいるとサーシャが話しかけてきた。どうやらさっきの戦闘から不安が渦巻いてどこかしらムズムズするらしく紛らわせたいのかしきりに話しかけてくるのだ。


「パイセン、一体どこでバットのギミックを取り入れたのよ」


「研究所の奥に壊れた一般装備が大量にあるんだよ。それをありがたく頂戴したってわけ。修理はこのバットに手伝ってもらった」


「え、それ……泥棒じゃない?」


「どこがだよ、リサイクルだろ。言うならば」


 そんな会話を続けていると石油プラントへと到着。少し錆びた金属製のタワーのようなものが沢山のパイプに覆われて君臨していた。一種の城のようなパイプの塊を見てパイセンは「よし……」と声を上げる。


「もう敵は来ないと思うが……ちょっと見張っといてくれ。起爆の準備に取り掛かる」


「了解」


 サーシャがプラントの側に立って槍を持って見張りを行い、パイセンはプラントの階段を登って中核部分まで進んだ。踏み外すとお釈迦は確定。慎重に錆びた階段を登っていく。起爆予定地へと到着するとバットを起動させて様々な道具を取り出す。


「ッと……機械いじりの趣味がここで生きてくるとはねぇ」 


 独り言をボヤきながらパイセンはバットから爆薬と時計を合体させて作った時限爆弾を設置していった。ただ、闇雲に設置するのではなく連鎖的に石油を引火させれるようにパイセンは計算を続けていく。プラントの装甲を破る爆弾、引火させる爆弾、連鎖させていく爆弾。色々と考えるとなんらかのギミックを付け足した方がいいなとパイセンは思うのだ。


 風向や時間も考えないといけないので比較的学歴のいい優吾がいれば手早く爆弾を設置できたはずだ。サーシャなんか手伝えるわけがない。すぐにボロをしでかして変に爆発なんてさせたらカッコ悪い形で序列が決まってしまう。必死に逃げる時間や仲間のことを考えてギミックを作っては変えて作っては変えての繰り返し、長くなりそうな試行錯誤に腕を組んで唸る。


「パイセーン、まだなのー?」


「まだだ」


「あとどれくらーい?」


「知るかよ、邪魔すんな」


 地上のサーシャが手を振りながら尋ねてくるがパイセンは無視。しかし、ジャケットを着ているとはいえ手を振ってる時に彼女の脇が丸見えになって一瞬そこに視線が奪われた。こんな時に何考えてんだと言い聞かせながらギミックを作成していく。


 その頃、サーシャはサーシャで暇になった時間をどう使うかを考えていた。機械には弱いタイプなのでパイセンの手伝いはできない。このまま見張りをやっていてもなんだかソワソワする。緊張しているのだろうか、いつもよりもジャケットを深く着込んだ。


 その時だ。殺気を感じる。クワッと全身が震えそうになる殺気だった。そして眼前に弾丸が迫っているのを確認して槍を引き上げて迎撃する。パチン! という音が鳴って弾丸は弾かれた。誰が撃ったの? とサーシャは周囲を確認するが誰もいない。地面に落ちた弾丸を見るとそこまで大きくはなく、しかも一般装備の弾丸であることに気がつく。弾丸を手にとってみたがかなり小さめの弾丸だった。おそらく拳銃用である。


「……っ!?」


 さらに殺気を感じて全身を水で覆うことでなんとか防ぐ。ギリギリで防げたが敵の姿が見えないことに疑問を感じた。一瞬、サーシャはマルスの連絡であった「透明マント」を思い出したがそれとはまた違う気がしたのだ。


 彼は音と気配は感じるからそれに気をつけろと連絡してくれた。しかし、今回は音も気配も感じない。この小さな弾丸と殺気だけである。しかも弾丸を発射したであろう音も聞こえなかった。透明マントではない? と疑問に思いつつ、パイセンを見ると彼はさっきの音などそこまで気にしていない様子で作業を続けていた。


 本当に気がついてないのか、それとも気付いていないフリをしているのか。おそらく後者の方だろうと検討していると今度はパイセンの足元でパチン! と音が立つ。


「おわ!? ッチ、敵か」


 パイセンも気にしないフリでサーシャに任せようと思ったが自分も狙われるんだったら無視できないなと思いつつも最後の調整に入っていく。サーシャはパイセンの邪魔をさせないように弾丸が飛んできた方向にカッターを飛ばすが虚空を切るだけだった。ガムシャラに突撃しようとしたがパイセンに「誘爆を狙ってるかも」と止められる。


 爆弾のタイミングの計算を終えてパイセンのバットからプッと爆弾が吐き出された。その爆弾をプラントに設置する。爆弾はバットによる遠隔操作で起爆するのであとは班員に連絡をすれば準決勝勝利ということになる。


「サーシャ、準備ができた。撤退するぞ」


「え? 敵は倒さないの?」


 サーシャの元まで降りてきたパイセンは「あのなぁ……」と頭を掻きながら話し始める。


「お前が探知できない敵だったら俺にはお手上げだ」


「でも、パイセン二回戦の時にレーダー使ってなかった?」


「あれは逆探知だよ。お前らの持ってる通信機から出てる電波を辿っただけだ。レーダーじゃないし、どこに誰がいるかなんて詳しくわかるもんじゃない」


「でも『なにか』は必ずここにいるんだし倒さないと起爆を邪魔されるかもよ?」


「だからお前が見つけられないんだったら俺はお手上げって言ってるだろ? 俺はただの瓦礫の中で見つかった孤児。そしてお前はアメリカ生まれの帰国子女プラス元々アスリートを目指していたスカウト戦闘員。差はわかるだろ?」


「つかえなーい、パイセン」


「うっせ」


 指をポキリと鳴らしながらパイセンがため息をつくと弾丸が自分めがけて飛んできた。サーシャが素早く槍を動かして迎撃する。そしてパイセンに耳打ちした。その内容を聞いて「はぁ!?」と声を上げるパイセン。


「今度は私の番」


「いや……お前……能力にかし……」


「もう、やるよ!」


「……あぁ〜ぁああ!」


 パイセンは班員に「もうすぐ起爆する」とだけ連絡を入れた。マルス達が「わかった」と悠人達が「は? ちょっと……」と連絡が来たがもう止められない。どうせ、爆発させるんだ。そう思いながらバットを掲げるパイセン。急いでプラントから離れるパイセンとサーシャ。サーシャは周囲に水の障壁を発動させてパイセンと自分を包み込む。悠人の反応が心配になったと同時に水の障壁でガードして『なにか』ごとやっつけようというサーシャの理論に泣きそうになりながらも、いや……泣きながら大声で叫んだ。


「どうなっても知らねぇえからなぁあああ!」


 そしてパイセンは起爆させる。ズドオオオオオオオオオオオオン!! という音を響かせて石油プラントを中心に大量の引火した石油が辺りに飛び散って連鎖爆発を起こして行った。




「は? ちょっと……今起爆させるのか!?」


 レグノスと対峙していた悠人はそう答えたがパイセンからの連絡は途絶えてしまう。


「お友達から連絡か? 死に際の大事な連絡だろうな」


「そうだな……。隼人!」


 港まで行くのは困難と判断した悠人は急いで隼人に結界を作ってもらって蓮と共に中に飛び込んだ。そして灼熱の炎が襲い掛かる……。




「急げ! 香織、抜け道を!」


 マルスの怒号に反応して香織はうなづいて辺りのコンテナをぶっ飛ばして行き、最短ルートの海までの抜け道を作った。そしてマルス達は必死にその抜け道を走っていき、海の中に飛び込む。決して綺麗な海とはいえなかったが彼らが飛び込んだ直後に爆発が襲い掛かる。危なかったと思いつつマルスは水の中で安堵するのだった。

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