戦ノ神の新約戦記

これは神より堕ちた戦ノ神の新約戦記
天方セキト
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決勝前夜の作戦会議

公開日時: 2021年1月20日(水) 22:05
文字数:2,787

「よし、みんな。これが前回の大会のデータだ」


 悠人がモニターにデータを映し出して作戦の会議が始まる。あの八剣班と決戦することが決まった次の日に悠人は作戦会議をしたいと全員に言って今日に至る。序列が1位の班と戦うのだ。それもそうだろう。もう対策なしでブチ当たるようなバカな班長ではない。全員どことなく緊張した表情で集合部屋に集まった。先に集合していたサーシャと悠人がモニターを起動させておりマルス達はそれぞれの席に座ったのである。


 表示されたデータを見て分析を始めようとしたのだがマルスはここであることに気がついて悠人に一言。


「おい、三年前以前のデータはないのか?」


「あぁ……実は八剣班は前回の大会辺りに結成された班なんだ。データはこれしかない」


 そのデータを見ていくと八剣班は前回大会で決勝を勝ち残って1位に輝いた班であることがわかった。マルスが腕を組んでいるとサーシャが補足で説明を始める。声色はどこかしら重い。


「みんなわかってると思うけど決勝戦は5人代表の団体戦ね。三度勝ちで勝利なんだけど……前回の記録を見て」


 決勝戦のフィールドはコロッセオのような円形闘技場。各班代表が一対一で対戦していき3人勝ちすれば勝利する。前回は稲田班と八剣班が決勝で戦ったらしくそのデータを確認してみた。


 先鋒「梶沢藍」、次鋒「恋塚紅音」、中堅「明通歩夢」、副将「見鏡未珠」、大将「八剣玲華」となっており中堅で三連勝を勝ち取って決着しているという形だったのだ。大将と副将は出ず、班員の中堅戦闘員が稲田班を圧倒するという始末。なんとか八剣班以前の八剣玲華のデータは見つけることができたが見鏡未珠に関しては八剣班以前のデータが見つからなかった。八剣玲華の成長性が計り知れないためにどこまで参考になるかが見当も付かないという不安の残るデータであった。


「しっかし……あの稲田班を平戦闘員が圧倒かよ……。あ、悠人。稲田班の出場は?」


「それを今から言う」


 蓮の言葉に相槌を打ちながら悠人はモニターに前回大会の稲田班の出場メンバーを提示した。「霧島咲」、「ルイス・ラッセル」、「月輪円」までで決着がついており、未出場枠として稲田光輝と福井柔美がいた。


「あの窓際ババアを圧倒……」


 先鋒で戦ったとされる梶沢藍の名前を凝視しながら優吾は声に出した。生物の本能的な焦燥感を煽るチェーンソーを使う霧島、その梶沢という班員がどんな魔装を使ったのかは見当も付かない。分かったのは強い、これだけ。


「稲田班との戦闘は記憶に新しいだろ? 俺たちでも半数が相討ち、もしくはやられてしまった力を持つ班だ。そんな稲田班が連敗で負けている。このことがわかるよな?」


 悠人の言葉に全員がうなづいた。稲田班の実力は記憶に新しい。全員が強力な魔装を体の一部のように巧みに操って翻弄させられていたということとかなり高かった戦闘能力。そんな稲田班が大将が出る前に敗退させられている。


「洒落にならねぇほど強い……ってことだろ?」


 隼人の言葉に悠人はうなづいた。それに合わせて残っているデータに不安が募る。この戦闘員の世界は班の編成なんてしょっちゅうあるので三年前にはいなかった強力な戦闘員がまだ隠れている気がするのだ。


「魔装の詳細までは書かれていない。どんな敵が当たるかもわからない。とりあえず、この班から誰が出るかという話に移るぞ」


 決勝戦に出場する代表は5人。当然と言ってもいいが悠人とサーシャは出場する。そして順番も大事である。悠人は相手の選出までは予想ができ難いので実力で決めることに。


「とりあえず、俺とサーシャは出るとして後3人だ。悪いが慎也と香織は今回は省かせてもらうぞ」


 極端なパワーアップを誇る香織と針ツボをかける慎也。これは除外。慎也が少し凹んだ表情をしたが優吾にポンポンと肩をたたかれていた。次にパイセンと蓮をどうするかという話になるがパイセンは自分から「俺はやめとけ」と口を開く。


「分析する対象が誰かもわからないのに戦いにいくのは俺には不利すぎる。それに俺の魔装はギミックを発動させるのにタイムラグが生じるからな」


 パイセンがバットからのギミックを発動させる時には少々時間がかかる場合がありそんなことをしてるうちに俺はやられると自分から証言。パイセンも却下である。


 次に蓮。蓮の投げナイフは確かに強力ではあったがこれも難しい代物だった。何しろ彼は防御性能がほぼ皆無と言ってもいい。隼人とコンビを組むからこそのあの強さな場面が多いので蓮も却下。


「そうなると……俺、サーシャ、優吾、隼人、そしてマルスが妥当だな。優吾は知覚速度で攻め込めるし……隼人は結界の防御がある。それにマルスは攻撃の幅が広いからな」


 消去法のようにも思えるがこのメンツが今のところかなりの実力を持った班員ということは悠人も承知していた。サーシャにも意見を求めたが確かにパイセンよりもマルスの方が展開のラグは起きづらいということもあってマルスが採用。隼人のアーマーと結界の応用もあって採用、優吾は知覚速度を上昇させて一方的に射撃ができるということと優れた体術を持つので採用された。


 そして順番である。これに関しては序盤で一気に勝利を狙うためにサーシャ、悠人、隼人、優吾、マルスに決定した。


「よし、これで会議は終わりだ。決戦は明日だがそれまでに選抜メンバーは心の準備をしとけ」


 悠人はモニターの電源を切って会議の解散させた。マルスは自分の部屋に帰りながら「まさか俺を選ぶとは……」と少し意外そうな表情をしていた。


 悠人、本当に変わったなぁ……と思っていると後ろから声をかけられる。誰かと思って振り返ると香織だった。


「決勝戦……頑張ってね」


「急にどうした?」


 マルスは立ち止まって香織を見る。彼女は少しニヤニヤしながらマルスの元に近づいた。


「最近は悠人と仲が良さそうで安心してるのよ?」


「そうか、それはよかった」


「新人殺しも団結したよねー。マルスが入ってきてから全てが変わっていったわ」


 確かにそうだったなとマルスは思い出した。そもそも初回の任務で新人が必ず死ぬ班でまさかの魔装の覚醒で生き残った挙句に亜人の少女を保護してベイルと戦い奪われる。その後にこの演習の中で班員との仲も深めていき……。


「色々あったな。そういえば」


「本当にそうだよ? 明日には序列が9位の班が1位の班と戦うなんて私は想像できなかったなー」


 うーんと伸びをしながら香織はマルスを追い越して部屋の鍵を開けた。ドアを開けて部屋に入ろうとした時に何かを思い出したような表情となってマルスの名前を呼ぶ。


「あ、マルス」


「なんだ?」


「風邪、ひかないでね」


 それだけ言って香織は部屋の中に入っていった。マルスはお前の弟じゃなかった気がするが……と思いながらもこれが女性か……と思いながら自分の部屋の鍵を開けた。ガチャリという音がやけに強く響いた。

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