目を覚ますとマルスは研究所の一室だった。正直言ってギーナを倒した後に少しだけして終了のアナウンスが入ったのでレグノスを倒せていたのかどうとかよくわからないまま終わった準決勝だった。アナウンスの内容は意識がボウッとしすぎて何にも聞いていない。
「あぁ……、畜生……。まだ体がチクチクするぜ」
「爆発があれだけとはねぇ……」
体を掻き毟っているパイセンと肩をコリコリ鳴らすサーシャ。途中から急に路線が変わって爆破する事になったがどういう事なんだ? と思いつつパイセンを問いただそうと思ったがそのパイセンがサーシャに文句を言いまくっているのでまた無茶を言われたんだろうとマルスは片付ける。
「とりあえず……ご苦労だった。急に爆破が来たことは驚いたがな」
腹をさすりながら悠人が話に入ってきた。その顔はゲッソリと疲れ果てた表情であり、悠人の体から大事な何かが失われたかのようである。二回戦の時以上の疲労感を感じながら新人殺し全員が目を覚まして行った。その時、馴れ馴れしくパイセンに近づいてくる一人の戦闘員をマルスは発見。その戦闘員はパイセンの肩を掴んだ時にニカッと笑った。
「よー、兄ちゃん! ビックリしたゼェ」
知り合いか? そんな反応をしたマルスはパイセンを見るが当の本人は「は?」と気の抜けた表情をする。
「お前、だれ?」
「えぇ!? 嘘ぉ!? 戦ったじゃん、お前が爆破する前に!」
「戦ったか? おい、サーシャ。こんな奴いたか?」
「いや……見なかった気がする……」
馴れ馴れしく話しかけた戦闘員はマントを羽織った緑色の髪を持つ見るからに軽そうな見た目の青年だった。透明マント部隊の人物だろうか? 困った表情をするパイセンに一人の人物が近づいた。その人物を見て悠人は「レグノス班長……」と呟く。背中にショットガンを背負ったオレンジ髪の人物。こいつがレグノスか? とマルスが興味を示しているとレグノスが男の肩を掴んだ。
「すまんな、俺の仲間が。おい、ミレス。お前の能力は透明なんだからこいつらがお前のことを覚えてる訳ないだろ?」
「えー、そりゃあないっすよぉ〜」
そんなことを言われながらチャラ男を自分の班の元へと帰らせて悠人達に笑いかけた。
「初めましてもいるな、俺が班長のレグノスだ。一帯を爆破することは予想できたが……ここまでとはな。まいったぜ」
そう言って悠人に握手を求めてきた。悠人はニッと笑って握手をする。9位の班長が3位の班長と握手をする。めったにお目にかかれない光景にマルス達は「おぉ……」と声を上げた。今までとは違ってレグノスは最初から新人殺しの脅威に気がついていたようでいくつかの戦闘シナリオを組んで挑んできたようである。純粋な賛辞で逆に違和感がするというなんとも悲しいマルス達。
「今回は負けだな。また機会有ればよろしくな」
肩越しに手を振ってレグノスは自分の班員をまとめ上げて部屋から退散していった。マルスはレグノスを始めてみたが油断にならない性格だなと判断する。管理職は大変そう。
「とりあえずパイセン。何があった?」
「石油プラントについた時に襲撃されたんだよ。気配を消す魔装を使って襲われたからサーシャが『こいつごと爆破しちゃえ』って」
おそらくその気配を消すマントの使い手があのミレスという人物なんだろうな……とマルスは思いながらパイセンの話を聞く。明らかに脱出に間に合わなかったパイセンとサーシャはサーシャの水で爆破を防ごうとしたが抵抗虚しく一瞬で燃え尽きたと。
「全く、お前は能力に過信しすぎなんだよ。薬剤の爆破に水が耐えれる訳ないだろ?」
「もう、勝ったからいいじゃん」
「ふざけんなよ! 焼死なんて1番きついんだぞ!」
「ちょ、パイセンさん! サーシャさん! 勝ったんだから喧嘩はなしですよ」
喧嘩する二人を慎也が間に入ってまぁまぁと止める。慎也の声を聞いてハッとした二人はブツブツ何かを呟きながら同じタイミングで腕を組んだ。落ち着いたパイセンとサーシャを見ながら悠人は話し始める。
「今回は団結して作戦を実行できたと思う。それぞれが役割を全うして戦うことができた。それでいいだろう?」
「……ッタク」
舌打ちをしながらパイセンは首筋を掻く。やればできる。しっかりと準備した上で真っ当な勝負ができたことがマルスにとっては嬉しかった。そうなれば一つ気になったことが……
「そういえば決勝戦ってどんな班と戦うんでしょうね?」
慎也の呟きにそういえばとなる班員達。しかし、ここで考えるのもあれだから一旦事務局に帰ろうと悠人は言って扉を開けた。扉を開けた瞬間、拍手のような音が聞こえたと思うと悠人の動きがピタリと止まる。どうした? と悠人の視線の先を見ると二人の女性が立っており一人は見覚えのある女性であった。誰であったかを思い出そうとしていると悠人が慣れない敬語を使ってかなり緊張した表情で話しかける。
「あの……何か御用でしょうか? 八剣班長」
悠人が拍手をする人物の名前を呼んだ。そしてマルスは思い出す。極東支部最強の班、八剣班の班長、八剣玲華その人だった。
相変わらずのドレスアーマーを着ており、髪型も綺麗に伸びた紺色のロングヘア。その隣には八剣班長よりも一回り小さい女性が立っていた。波打つロングの髪、肩を出し切った緩い着物を着ており谷間がのぞいており、生足がスラリとのぞく作りとなっている。この人物は初めて見る人だった。
「こうして直接お話ができるのは初めてですね。八剣班班長の八剣玲華です。そしてこちらは副班長の未鏡未珠さん」
ペコリと丁寧にお辞儀する見鏡副班長。マルスはその様子を見て「戦闘員事務所にこんなまともな人物がいるとは……」と少し驚く。一回戦のMr.フランメが頭をよぎった後に急いで振り払って目の前の八剣班長に視線を変える。
「今日は東島班の皆様に挨拶をと思ってやってきました」
序列が1位であるにもかかわらず丁寧な言葉使いの八剣班長に驚いていると「しかし驚いたの」と呑気な口調で見鏡副班長が喋り始める。
「妾達が決勝で当たると思ったのは稲田班かレグノス班かと思っておったからのぉ。正直驚きじゃわい。それにしてもお主達か……」
見鏡副班長は完全な童顔であり、身長も低い。そうでありながらこのような口調で話すものなので悠人達は「いくつだよ!?」と当然の疑問を得ることになる。ただ隼人一人が「ロリババア……ウホ……」と興奮していたのは無視。だがしかし、今までの対戦班と違って舐め腐った態度ではなく純粋な賛辞であることもマルスは出来上がってるな……と感心することになった。魔装を確認しようとしたが装備していなかったので少しだけ悔しい気持ちになる。
しかし、その体から伝わるオーラは凄まじい。安藤や稲田、レグノスとは違った無言の威圧を感じていると同時にミステリアスな見鏡副班長。マルスの中で警戒の二文字は拭えなかった。こんな女性がどうやって戦うんだ? と疑問を持っていると「私達はそろそろ……」と二人は去っていった。
悠人がすぐに頭下げて「わざわざありがとうございました」と言ったが八剣は「お気になさらないで」とだけ言い残して消えていった。彼女達が消えていったのを見て悠人は緊張が解けたのか壁にもたれかかる。
「急に来るなんて……聞いてないぞ」
全身から冷や汗を吹き出す悠人を見て本当に格が違う相手だったということをマルスは悟る。
「悠人君、ということは……」
サーシャの問いに悠人はうなずいて喋り出した。
「決勝戦の対戦は天下無双……八剣班だ。とりあえず、今日は帰ろう」
序列一位の班が相手ということを年頭に入れつつ、悠人達は事務局に帰っていくのであった。
(お知らせ)
戦ノ神の新約戦記、来週の更新から(1月18日から)更新頻度を減らします。詳しくは活動報告をご覧ください。
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