スーツケースを開けて中身をみると黒を基調としたシャツ、ジャケットとズボンがあった。黒に赤の線が入った綺麗でシンプルな戦闘服。今、自分が着ているシャツを脱いで専用シャツとジャケットの順に着てみる。
この前の仮装備よりも生地も丈夫だし動きやすい。ズボンも一旦脱いで戦闘服のズボンに履き替えた。ズボンは漆黒であり埃がつくと変に目立ちそう。
そしてズボンの下にまだ服が隠されており、なんだ? と思って広げてみるとそれはマントだった。
表は黒、裏は赤色のマントである。マルスは戦闘服の上にそのマントをしてみる。姿見で確認すると襟が立ったマントで自分の雰囲気によく似合った物だと思った。正直言って神の頃のローブよりもこっちの方がいい。ジャケットとズボンにマント、いかにも戦闘員と言った姿だ。
黒を基調としつつも細かいところに赤色の柄があるのでどことなく「王」のような雰囲気を醸し出す戦闘服。それがマルスのデザインだった。思った以上に似合っている……、嬉しくなってマルスの口角はスッと上がった。
試着スペースを出ると何人かはもう戦闘服を着終わっており、それぞれの戦闘スタイルにあったような服装をしている。
東島は青黒いジャケットにズボンの基本装備に赤黒いマフラーをしていた。おそらく夜叉鮫牙の低温予防? だと思われる。刀を左腰のベルトに二本かけてあった。マフラーを除けばどこかマルスのデザインを思い出すがジャケットの質が違うのでそこも東島モデルということだ。
蓮はボタンで止める長袖襟付きシャツに青黒い色の外套を羽織った姿だった。よくみると外套の内ポケットにナイフの収容スペースがあり、これでナイフを隠しながらの投擲が可能になっている。体全体を包む外套の下にオシャレなシャツ。靴は紐の色が青を基調とした寒色のグラデーションというこれまたオシャレな物。
隼人は袖のない黒と緑のジャケットにズボン。一見露出が多いように見えるがそれは彼のナノテクアーマーの使用頻度に配慮した結果であろう。深緑の腕輪を覗かせるガッシリとした肉体を象徴するかのような戦闘服。
パイセンは銀色と黒を基調としたジャケット、ズボン。中のタンクトップはそのままで袖を通さずにコートを羽織っている。パイセンの少し眉毛が太い漢顔と相まって一昔前の喧嘩番長に見えてしまうデザイン。重火器を扱う時のあるパイセンはなるべく服の重さをかけないようにしているのであろう。
「お待たせ〜」
サーシャが試着スペースから出てきた時にはギョッと目を見開いてマルス達は「ウヘェ!?」と奇声を発してしまった。この班は黒ベースのジャケット、ズボンが基本なのかと思った後のサーシャの戦闘服は度肝を抜かれる。
競泳水着のような体のボディラインをハッキリとうつすアンダーウェアに太ももまでを覆うブーツのような靴、アンダーウェアの袖は肩を丸出しにし、腕を覆うという露出が極まりない服装だったからだ。
「おいおいサーシャ、なにエロゲのご褒美シーンの時みたいな服装してんだよ。あぁ……、ひょっとしてここの研究員の趣味……お前?」
ニヤリと笑うパイセンの言葉を聞いてサーシャは「違うわよ、バカ!」と向こう脛に鋭い蹴りを入れた。「アギャア!」と言って地面にひれ伏すパイセンに「ちゃんとこのジャケット羽織るから露出は気にならないし」と言って青いジャケットを羽織った。ジャケットは青色の丈夫な素材で作られた物でポケットがいくつか胸のところにある。
確かにジャケットを羽織ると露出はそこまでなのでは? とも言えるコスチュームだ。水を扱うサーシャのために濡れてもいいような機動性の高い服を作ったんだろう。競泳水着のようなアンダーウェアはサーシャが一番お似合いだった。
そして喧騒が静まり返ると残りの3人が試着スペースから出てくる。この3人のデザインは少しだけ違っていた。
慎也は暗殺者のようなゆったりとした黒色ローブに白色の長袖シャツ、ズボン。おそらくこのゆったりとしたところに針を隠しているのだろうとマルスは示唆する。フードをしている慎也は本当に暗殺者のように見えた。
優吾は軍服のようなポケットが沢山ある上着にズボン。色は濃い灰色のような色合い。二丁銃は腰のバックルにかけてあり、このポケットには精神エネルギーを込めれなくなった時用の銃弾が詰まっているらしい。どうやらこの銃は実弾も込めれるようである。
香織は黒と黄色を基調としたジャケット、下がミニスカートだった。黄色の線の模様が入ったスカート姿の香織はどこか幼いような印象を受けさせるデザインだった。ベルトに太鼓のバチ程度の大きさに縮小したハンマーが収納されてある。
「ミニスカートって初めてだったんだけど……、履いてみるといいね」
背中やスカートを確認しながらフフフ、と笑う香織を見ていると雰囲気が和んできた。全員が着替え終わった時に小谷松が「着替え終わったようだね」とやってくる。
「この班は黒をベースとした色にしておいたよ。何かと黒は便利な色だからね。素材も上等な物を使ったからあまり破れないと思うけど……もし修理が必要になったら君たちの事務局の研究班に頼るといい」
「小谷松さん、ありがとうございます」
「いや、いいんだよ。これからの予定は?」
「もう自由解散です。事務所に帰るのもいいし、買い出しに行ってもいいし」
「そうか、くれぐれも気をつけるんだよ?」
さっきの視線は一体何なのだ? マルスは急なキャラ変に戸惑っていた。自分の場合はドロリとした視線を送ったのに、話をしている東島には優しいお爺さんみたいな感じである。部屋を次々に出て行ったのだがマルスは出来るだけ目線を合わせないで部屋を出る。なんだか少し寒い。
〜ーーーーーーー〜
「いいんですか? 小谷松さん」
東島班の全員が出て行ったのを見計らって一人の研究員が小谷松に話しかけた。小谷松は「何がだい?」と問い返す。
「あの新人、マルスでしたっけ? 他の戦闘員には行いましたが彼は機能……」
「別にいいんだよ。私は彼が面白い存在だと思ってほっていたんだ。根拠はないんだがいい物を見せてくれるんだろうなぁという気がしてならないんだよ」
「根拠がないのにですか?」
「聞くところによると彼の適合生物は本来なしだったそうだ」
「……ッ! なし……?」
研究員は驚きで体がビクン! と震える。魔獣と関わっている人間なら誰もが驚く事実、適合生物がいない。魔装を宝箱とすると能力はそのお宝だ。適合生物が鍵穴とすると人間は能力を引き出す鍵となる。これはDBCも認める魔装の例え話である。
魔獣と人間のハーフとも呼ばれた亜人は人間では再現できないような能力を行使して魔獣に立ち向かっていた。魔装はそんな亜人を見習って作り出した兵器である。外部から適性のある力を取り得れて人間を疑似的な亜人にする兵器、それが魔装であった。
「ではあの剣は何なのですか? あの黒塗りの剣は?」
「戦闘中に突如として魔装に覚醒したと聞いたが到底信じられない。何か彼には人間ではない部分があると思うのだよ」
「まさか……、彼が亜人とでも言いたいんですか?」
「いや、そうとは言っていない。彼に勘ぐられるのは面倒だなと思っただけだ。わかったら仕事に戻れ」
研究員は渋々と仕事に戻って行った。小谷松は一旦近くにあった椅子に座りフーッと深呼吸をする。
「それにしても面白いガキを戦闘員にしたもんだ、レイシェルは……」
ククク……、とせせら笑う小谷松。彼が今日ほど興味関心で埋め尽くされる日はなかった。早く研究を進めたいのだが、その前に彼を調べあげたいと思う。自分の憶測が間違ってなければ彼は人間ではない、いや生物の理を超越する存在だと。自分で魔装を覚醒させるなんて人間のなせる技ではない。足りない何かを作ることで人間は発展したのだ。足りない物の概念を作るのは人間にはできることではない。
小谷松はマルスに対する思考を一旦やめた。彼がこれからどう抗うのか、楽しませてもらおう。自然と浮かんだ微笑みは、マルスに仕向けたデロリとした笑顔だった。
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