戦ノ神の新約戦記

これは神より堕ちた戦ノ神の新約戦記
天方セキト
天方セキト

機動要塞隼人

公開日時: 2020年12月2日(水) 21:57
文字数:4,531

 隼人は物陰に隠れているパイセンを発見した。仲間と合流できた安心感を覚え、心の底からホッとした隼人は手を大きく振りながら近づいてくる。


「おーい、パイセーン!」


「バッ……! 静かにしろ……!!」


 パイセンを物陰に連れ込みながら人差し指を立てて注意する。隼人は大して反省していない顔で「ワリィ」と微笑んだ。そんな隼人に呆れながらもパイセンは物陰から指を指す。その先には2人組が見えた。


「あの先にいる2人組、見えるか?」


 パイセンが指を指す先には身長2メートルはあるであろう大男と小柄な男がいた。大男はスキンヘッドでミサイル砲を担いでいる。肩を包むかのように存在するミサイル砲をみて「おぉ〜……」と声を上げる隼人。小柄な男はノートパソコンのようなものを広げて何か呟いていた。前髪はパッツンで緑色。目元が少しだけ見えない。


「なるほどな……、あれがミサイルとレーダー野郎か」


 隼人もパイセンの連絡を事前に聞いていたので理解はしていたが絵面がすごいな……と感嘆していた。大男の相棒が小柄な男。小柄な男は「うわぁ!?」と声を上げて頭を抑えてウンウン唸っている。よぉく聞いてみると……。


「あれがターゲットか? 直樹」


「う、うん。ちゃんさん、宜しくお願いします」


「了解」


 それに合わせてバヒューン……という音が聞こえて最悪の未来を想定したパイセンは「ヤベ!」と呟き、隼人を掴んで共に頭を下げながら物陰から飛び出す。ズガーン! という爆発と共に隠れていたところは爆ぜて地面が黒焦げになっていた。それをみて体から嫌な汗が溢れ、「あぶね……」と声を上げる2人。


 そして隼人とパイセンは大男と対面することになった。小柄なレーダー男は後ろに待機している。パイセンは端末を確認した後に目の前の二人をキッと睨んだ。どうやら彼の目論見通りの展開らしい。


「お前がミサイル砲を撃った張本人と俺達の居場所を突き止めたレーダー野郎だな?」


 パイセンの言葉にミサイル砲を担ぐ大柄な体格をした男は少しだけ目元を上げて反応する。少し疑問に思ったようなニュアンスを感じたが大男は後ろに隠れる小柄を守るように立ちながら声を上げた。


「その通りだ。俺は張梓豪チャン ズーハオ。こいつが相棒の佐久間直樹サクマナオキだ。残りは俺と直樹……だけか。巨砲熊キャノングリズリー


 張が魔装であるミサイル砲を起動させる。すると飛び出していた二対のミサイル砲が引っ込んで小さなランドセルのような形に変形。それを装着した張の体を金属質のアーマーが展開されていく。そのアーマーから無数の砲台が形成されていき、彼の顔を防護するかのように包んだ。


 全体的に金属質なスーツと目元が隠れて黒く見えるマスク、全身に張り巡らされたミサイル砲を見せる移動要塞とかした張。2メートルの体格からなる姿をみて隼人は一歩後ずさってしまう。まるで人間と対峙しているかのような風格だった。だがしかし、隣のパイセンはヨダレを垂らしそうなほど口をあんぐりあげて心の底からの叫びを上げる。


「カッケェェェェエエエエエエ!!!」


「言ってる場合かよ!」


 興奮するパイセンに対して興味のない隼人はすぐに魔装を展開した。隼人の体にもアーマーが形成されていく。両腕をアーマーで包んだ隼人。それを見た張は一斉に砲撃が開始した。パイセンもハッとして魔装を起動させるが一旦は隼人の結界に救われる。目の前に緑色の壁が出来上がっていたのを見てパイセンは「スマン」とだけ言い残して戦闘に突入した。松毬状にバットを展開して自分もキャノン砲を打つが張の方が威力が大きく、かき消されて終わる。


「さすがは2位の班。さっきの童貞窓際ネクラ野郎とは大違いだぜ」


「黒川のことか……」


 呆れたような表情で張は腕から展開されるキャノン砲を発射させた。紙一重でパイセンは回避に成功して後ろの大木周辺が爆破される。隼人も攻撃に移ろうとするが全身から発射されるミサイルを防御することに忙しくて反撃が出来なかった。これで近づいたとしてもあのアーマーは突破できる攻撃はできそうにもない。


 パイセンと隼人は防御優先の戦闘を強いられることになった。アーマー自体の防御力も凄まじく、正に要塞という言葉が似合う。パイセンはどうすれば対等に戦えるかを考えた挙句一つのアイデアに頼ることにした。隼人の元に近づいてそのアイデアを伝えると「いいじゃん」と好意的な答えが。パイセンはすぐに実行に起こす。


 隼人が全身をアーマーで覆ったフルバージョンになる。その状態でパイセンの前に出た。そしてパイセンは魔装のバットを起動させ、バットから三対の列車砲のようなものを取り出した。その次にキャタピラーが裏についたメタルビースト特性合金の足と操縦席が二つ出現し、隼人にドッキングされる形で融合していく。体の装甲も完成させて形が出来上がった時にパイセンは操縦席に乗り込んでニヤリと笑った。


「機動要塞隼人の完成だ!!」


 そう、結界を張る隼人を核とした機動要塞をパイセンが作ることで対等に戦おうとしたのである。頭、右腕、左腕に位置する所に接続された列車砲、腰にかかっている列車砲の替えの砲弾、キャタピラー式の足、そしてスコープ付きの頭部に乗り込む隼人とパイセン。完全にノリは「ボド○ズ」である。


「着いた早々の模擬訓練……通称『共食い』と呼ばれるある種の……」


「テイストが古いな……」


「え、そうか? じゃぁ……へへ、ぶっ殺せぇ!」


「いや、だからテイストが古いって!」


 対等に戦う2割、パイセンの趣味が8割のこの機動要塞について核として彼の真下の椅子でドッキングされてる隼人。彼の意見としては「渋すぎやしないか?」の一択だった。彼は核として結界を張る仕事なのでサボるわけにもいかない。フルアーマー状態なので自分の体力が尽きると自動でこの要塞も崩れ落ちてしまう。それだけは避けたい。


「えぇっとなんだっけ? これ……ロボット?」


「バカ、スコープド◯グだ!!」


「知らねぇよ!!」


 要塞の中で趣味の違いから生まれる喧嘩の声を聞きながら張は「面白いな……」と微笑んだ。そう思っていると相手の要塞が腕の列車砲を発射する。発射された砲弾をミサイルでかき消してから張は移動を開始する。ガシャンガシャンと音を立てて移動するが訓練の賜物か、スピードはそれなりにある。


 パイセンも足元のアクセルを踏んでキャタピラーを起動させる。ジャリリリリ! と音を立てながらパイセンの要塞も動き出した。辺りの砂利や瓦礫を押し除けながら音を上げて移動する。やや、前屈姿勢になりながら地面を滑る要塞を見てパイセンは感動で泣きそうになりながらも操縦する。木を間に挟んでの同航戦の形を取ることに成功、火蓋は切られた。


 巧みにパイセンは操縦しながら砲撃を繰り返すが大男の無数のミサイルに阻まれて届かない。列車砲は威力こそは凄まじいが単発でしか打てないので相手のミサイルの連射でかき消されてしまうことが弱点だった。反撃と言わんばかりに張は全身のミサイル砲から一斉放射を開始する。全方位のミサイルを見たパイセンは声を上げる。


「隼人!」


「わかってる!」


 隼人が張る結界に少しだけ頼りながらパイセンは木々をなぎ倒すように操縦して相手のミサイルを躱していった。スピンの要領でドリフトをかけてスピードを落とさずにミサイルを回避していく。時折、地面めがけて砲弾を撃ち込み、要塞の動きを大きく反転させながら着実に張に接近していった。ミサイルは多少の追尾性はあるがどれも大回りなので小刻みに移動しながらだと外す傾向があることをパイセンは知る。


 そんな調子で戦闘していると相手の様子に気が付いた隼人が恐る恐る声をあげる。


「ていうか相手ガチで殺しにかかってるな……」


「当たり前だろ、隼人。ここは戦場なんだ、広場じゃない」


「お前なんかキャラ変わった?」


「来るぞ! 逃げたら狙われる……突破するんだ!」


 搭乗した瞬間にミリタリー系のハードボイルドキャラに早変わりしたパイセンについていけないような感覚を覚えながら隼人は結界を起動させていく。それにしても一体その操縦技術をどこで手に入れたのかが知りたかったが隼人自身、この戦いに楽しんでいる所もあるので何も言わなかった。


 結界を起動しながらミサイルを防いで列車砲の発射の時はタイミング良く結界を解除する。それをしながら周囲の状況を確認するのが隼人の仕事だ。パイセンは操縦棍を掴みながらアクセルを踏んで今までに見たこともないような真剣さで操縦している。しかし、中々戦いは優劣がつかず、膠着状態となっていた。


 徐々に体力が失われていき、息が荒くなる隼人。表面を覆うアーマーが薄くなってきてることを知った隼人はパイセンに忠告する。


「パイセン、そろそろ俺の方が限界だ……。体力が……」


「そうか……、これで決めるぞ」


 パイセンは隼人の限界がもう近いことを知り覚悟を決めた。木々の先にいる大男は急に止まったパイセンを見て何をする? という警戒心で一杯になる。それが極限まで高まる前にパイセンはアクセルをベタ踏みして突撃を開始した。張は驚きながらもミサイルを飛ばす。隼人は飛んでくるミサイルを結界を使って守ろうとしたがとうとう体力の限界が近づいて自動的に鎧が消えてしまう。


 それを見た張は両腕にあるミサイル砲を勢いよく発車する。パイセンはそれを左右の列車砲を盾にすることで防ぐことに成功したがそれぞれが爆破されてしまった。最悪なことに隼人のドッキングが解除された影響で腰にある砲弾も失ってしまったのでもう列車砲は使えない。それでもパイセンは要塞の腕を動かして硬い握り拳を作る。


「殴って倒せる相手じゃないだろ!?」


「まだこれがあるぜ、隼人! とっておきだ!!」


 その握り拳からギミックが作動して鉄杭のような物が見える発射口が出現する。それにハッとした張は回避しようと試みたがゼロ距離まで近づいた要塞の攻撃は回避の仕様がなかった。手首付近から何かが爆発するかのような音が発生して、必要のなくなった薬莢が飛び出した。


 威力こそは素晴らしいが頻繁に使うことのできない一撃必殺。パイセンが予備用に要塞の右手首に仕掛けていたパイルバンカーである。腕から火薬を巻き込んで発射された鉄杭は張の鎧を最も簡単に貫いて辺りを燃やしながら彼を吹き飛ばした。大穴の空いた張は空中で光となって消えていった。


 消えて無くなった張に安堵しているとパイセンにも限界が来て要塞は崩れていった。その場には体力切れを起こして膝をつく隼人と黒焦げのバットを見つめてため息をつくパイセン、最後のパイルバンカーの火薬で燃えつきた地面や木々だけが残される。


「あとはアイツか……」


 さっきのレーダー男、佐久間の元へ向かうとレーダーを盾にしてオドオドしてる彼を発見。武器らしい武器は持っておらず、顔も完全に自信を無くして色のない表情をしながらのオドオドだ。そこへサーシャ、悠人、マルスが合流して彼を囲い込んだ。


 そんな四面楚歌の状況を作ったサーシャが優しい声で質問。


「まだ、やる?」


「あ……、えっと……降参します」


 潔く強制リタイアで消えていく佐久間を見ながらここに揃った全員がなんとか勝ったことを実感した。その時にサイレンが鳴り響きアナウンスが告げられる。


 二回戦勝者、新人殺し

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