ダラララン!
その音はパイセンが屋上の扉を開けた瞬間に響き渡った。優吾が同じくして屋上に上がったときにはパイセンの体には無数の穴が開いており、口から血を吹き出して光となって消えていった。
「パイセン!!」
優吾が声を上げるが光となって消えていったパイセンは返事をすることがない。 一体、どこで!? 優吾は辺りを見渡して見ると屋上の一角に女性がいるのを発見する。
モスグリーンのジャケットとショートパンツ。黒色マフラーを着用した外国人の女性だった。耳には通信機にも見て取れる耳当てをしており、そばにはスナイパーライフルが立てかけられている。
優吾はこの様子からマルス達を狙撃したのは彼女であると示唆した。そして、現在女性の両手にはサブマシンガンがありそれでパイセンを撃ち殺したと。
女性は優吾めがけてサブマシンガンを放つ。加速された時間の中で優吾はフットワークを凝らして紙一重で回避していく。装弾数は約30弾のサブマシンガンであると優吾は予想、見るからにサブマシンガンもスナイパーライフルも魔装ではなく一般装備であることに違和感が募っていく。
弾が切れた後に女性はやっと優吾に口を開いた。
「安藤がやられたようですね」
綺麗な日本語だったことに優吾は驚いたがすかさず銃を撃つ。しかし、先程の安藤戦でのダメージが効いているのか手元がブレて女性の頬をかすっただけだった。
しっかりと狙いを定めないと当たることはない、優吾は己の状況を知る。
女性はその時にサブマシンガンを抜いて右手でフルオート射撃を開始する。加速させた時間の中でもう一度回避を試みてから優吾は女性めがけて2発、発砲した。
そこで優吾は信じられない光景を見ることになる。女性めがけて放たれた2発の弾丸は女性のサブマシンガンの弾にかき消されることとなった。カシュン! と自分の球を貫かれて紅い閃光を放つ弾は優吾に襲い掛かる。
優吾は体を後ろに倒れ込ませて回避した後にすぐさまに起き上がって銃弾を回避しながら何発かの発砲を試みるが女性の弾丸には敵わず、全てが貫通されて撃ち抜かれてしまった。
今度は左手のサブマシンガンをフルオート射撃を開始。右手は腰に回して片手で優吾めがけて射撃する。考えようとしたが女性の射撃を避けることで精一杯で思考が強制停止してしまう。
「マジかよ……、隼人が撃たれたのも納得だぜ」
どうして結界を張ることができる隼人が撃ち抜かれたのか、今になって理解できた。対象を貫通する銃……、スナイパーにはもってこいの能力である。
屋上の扉から出た時は女性にかなり近づくことができたが現在は少しづつ端へ端へと追いやられている。このままいくと自分は避けるルートさえも失って蜂の巣状態。ここまで来て死ぬのは勘弁だった。対する女性は自分の射撃を避け続けるこの目の前の青年に驚きが隠せない様子だった。弾の速度は遅いがそれなりに威力がありそうだしそもそも自分の射撃が当たらないのは初めての経験だ。
これが新人殺し……、同じ銃使いとして話しかけてみたい……! と考えたが彼女は大の人見知りなので謎にモゴモゴするだけで目の前の青年に話しかけることはできなかった。帰国子女でこの国、日本に来てから一番白熱している瞬間と言ってもいい。彼を撃ち抜くことで私はさらに前進することができる。彼女にも熱意がこもっていた。
左手の射撃を優吾は躱しながら発砲するが安藤戦の疲労と現在の心境を合わせて威力だけは絞り出せているが肝心の弾のスピードが全くない状態になったことに本気でヤバイと焦り始める。彼の弾丸は彼自身の精神エネルギーを弾にする、いわば疲れて疲労困憊になるまで永遠に打ち続けることができるという二丁銃だ。現在は両手それぞれ1発づつを間を置いて発砲することしかできないので実質使い物にならない。
せいぜい、女性の射撃を回避するためだけのアイテムになっていた。相手の射撃には迷いがない。自分の意思を貫いているとか、命令に躊躇がないような印象を受ける任務への姿勢だった。優吾も面白れぇ……、とウズウズする感覚がこみ上げてくる。
現在、女性は左の射撃が終わって右手のサブマシンガンで射撃を始めた模様。おそらくこれは弾を装弾する方と撃つ方で分けることで隙をなくして射撃できるという効率を目的に行なっている行為であるが一つの疑問が生まれるのだ。
どうやって弾を装填しているのかということ。実際、女性はフルオート射撃をしているのに装填している様子がない。腰に銃をまわしているだけであって弾を詰め込むという行為を一切省いているようにも見える。
となると……、ここで優吾は一つの仮説を立てる。装備しているサブマシンガン、そしてスナイパーライフルはただの一般装備、つまりは魔装ではない。
銃が魔装でないのにどうして貫通弾が撃てる? どうして装填する行為を省くことができる? 優吾は自分の誤算に気がついた。彼女の魔装は自分と同じ銃ではない、弾丸こそが彼女の魔装だった。対象を貫通する弾丸、自動装填、弾丸が魔装なら説明がつくはずだ。正直言って無理やりかもしれないが今の優吾はこの説を信じるしか無い。
本当かは確認できない。なぜなら彼女は背を外に向けているために背後に回り込むことができないから。これができれば確認することもできるのだが……、と優吾は歯痒く思った。
本当に隙がない射撃で反撃が全くできない状況にまで陥ってしまう。このまま強引に彼女の元へ走っていき、近距離射撃をお見舞いしようとしても直線で飛んでくる弾丸を躱すことは不可能、仮に彼女の元へたどり着けたとしても身体中穴だらけで何もできなくして終わる。
そしてとうとう、屋上の端まで優吾は追いやられてしまう。優吾は必死に考えるが無機質に見えて任務達成の意思が強い彼女の瞳を見てある作戦を思いついた。
その作戦は自分に向いているかと言われれば何とも言えない。しかし、ここは仮想のバーチャル空間。仮想だからこそ行える作戦だった。
「チェックメイト」
綺麗な発音で「終わりよ」と告げられたのを聞いて優吾は考えることを放棄した。そして銃で急所をガードしながら貫通弾の嵐の中に飛び込んでいく。
「考えることはもうやめだ!! 走りきれよ、大原優吾!!」
自分自身を鼓舞しながら優吾は走り続ける。全身を銃弾が貫く痛みに耐えながら彼は限界まで引き延ばされた世界の中を疾走していく。銃を持っている指が銃弾で引きちぎれるが彼は気にしない、あまりの激痛に彼の脳味噌はパンクしそうになるが弾丸の嵐の中を進んでいく。
銃を吹き飛ばされてしまったが彼は腕をクロスにして強引に弾丸を防ごうとしながら女性の元へと走る。焦りに染まった顔をした女性をスクラムのように両腕で閉めて優吾は最後の力を振り絞って屋上から彼女と共に飛び降りた。
「今度ばかりは……かすり傷じゃあ済まないぜ? お互いにな……!」
女性は優吾の考えを完全に理解してしまい、何てメンタルなの……? と驚愕すると同時に自分が高所のビルから地面に叩きつけられる未来を装丁して恐怖で叫び声を上げた。
「キャァアアアアアア!!」
意識が薄れかける中、地上で自分が落ちてきていることを発見して驚いた表情をしている悠人とサーシャを発見する。あのゴーレムはいなくなっていたことから優吾は「勝ったか……」と安心して目を閉じた。
「こんな……貢献しかできないサポートの俺を……許してくれ」
その呟きの後、女性合わせて優吾は地面に叩きつけられて光となって消えていった。
「よし、これで最後だな」
マルス達は寧々が消えて連携が取れなくなった残りの班員をやっと倒し切った。狙撃を警戒しながら戦っていたが寧々を倒して少し経ってからは全く来なくなったので誰かが倒してくれたんだろう。マルスがそう思って敵を斬ると突如として事務口調の通信が入ってきた。
「第一回戦、終了。強制帰還を実行します」
マルスは剣を持ちながら「勝ったのか?」と安堵する。蓮と針を使い切った慎也も安堵の表情をして一緒に喜び合おうとした瞬間に……マルス達の意識は落ちていった。
仮想大規模戦闘演習一回戦第一試合、勝者「新人殺し」
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