視界が開けた先は森の中だった。木漏れ日から差し込めるスポットライトのような日光の温かさを感じでマルスは目を覚ます。他の班員も次々に目を覚まして行き、悠人が「よし」と呟く。
「みんな、ここがどこかはわかるか?」
「さぁな、現在地はわからない。おそらくこういう景色がずっと広がってるんじゃないか?」
優吾が銃を握って弾を補充しながら悠人の質問に答える。現在、彼の目は青白く光っており幻弾鷲の遠視を行っているが同じような景色が広がっているだけで一回戦の時のような変わったものは特になかった。敵の位置も特定できていない。悠人は少し考えたところで作戦を言う。
「よし、みんな。集団で進んでいこう。敵に遭遇したら全員で攻め込むぞ」
「おい、東島」
それに待ったをかけるのはやはりマルスだった。東島の心には「遠回り」という考えはないのか? と呆れ返る。対策を積むという精神がない真正面しか対応できない戦い方はマルスはもう懲り懲りだった。
「敵の魔装はわからない、位置も、そして俺たちよりも実力は上、数で攻めて勝てる相手とは思えない」
「人数は安藤班よりも少ない、俺たちと比べたら3人しか変わらないんだぞ?」
「3人もだろ。全員実力者の班と相手するなら待ち伏せして有利な環境で攻めた方が生存率も上がる」
マルスの言葉に少しだけ考える悠人だったが「今度こそは俺の作戦で勝つ」と豪語する東島にマルスは「お前、馬鹿だな」とストレートに言葉を放った。このバカという言葉は侮辱の言葉。マルスの狙い通りに東島は眉を釣り上げて反応する。
「なんだと?」
「言葉の意味も理解できないのか? この腐れ脳味噌が。昨日悪いこと言ったって後悔した俺が憎い」
「喧しいぞ! お前、生き残ってるからって班長にたてつくな!」
ヒートアップするマルスと悠人の喧嘩にサーシャは第三者の視点から見て「子供ねぇ……」と呆れながら二人の喧嘩を止めようと間に入ろうとした。その時に蓮がピクッと反応してその場の空気をかき消す。
「おい……、音が聞こえるんだが……」
「音……?」
「あぁ……鳥の鳴き声みたいな……」
耳を済ませるとたしかにヒューン……と言った音が森の中に響き渡っている。こんな音は鳥か……あるいが……。遠視を使用していた優吾はその正体を見てしまい声を上げる!
「ミサイル……!」
音を立てて新人殺しに襲い掛かろうとしていたのはミサイルだった。晴空に煌く流星の如く、マルスたちにミサイルが降り注ぐ。あたり一体を爆発音をたてて吹き飛ばして行った。
「全員、回避に専念しろ! 散らばれ!!」
悠人の号令で全員がそれぞれミサイルを撃墜しようとするが雨のように降り注ぐミサイル全てを無力化にすることはできず、やむを得ずとも班員達とマルスは逸れてしまった。ミサイルは一回戦の紅い閃光と違って軌道が見て取れる。ミサイルの軌道を確認するとここからかなり離れた先にある森から連射していた。
スタート地点への爆撃であるが目に見て取れるほど広範囲に満遍なくミサイルは発射されており、恐らく敵側はこうやって自分達をバラバラにさせることが目的だと悟る。ここでミサイルの魔装を持った人物がいることが確定したがマルスは一つだけ心残りだった。満遍なく連射と言っているが自分達の方向だけはピンポイントで当ててくる点。
レーダーでもない限りこの連射が成功するはずがない、マルスはレーダーの魔装もいるはずだと予想を立てる。現段階の予想ではあるが敵の目的は自分達をバラバラにして単体となった者を実力でねじ伏せること。またしても敵の手のひらの上で踊らされていることにマルスは悔しくなる。
そう言った思考を続けながら何とかしてミサイルから逃れる。ミサイルの位置は大まかに分かったが今やることは現状確認。周囲を見渡してみたが同じような森が続くだけで味方の姿は見えなかった。
「完全に分断されたか……ッ!?」
背後に気配を感じて振り返ると土埃の中から一人の人物が現れる。今のところ一番会いたくない相手、東島だった。東島はマルスを見つけるや否や彼に詰め寄る。
「ミサイルに気がつかなかったのはお前のせいだぞ!」
「知るか、しょうもない作戦を提示したお前が悪い。俺は指摘をしたまでだ」
「待ち伏せなんかしても意味ないだろ? 相手はお前のシナリオ通りに動かないんだぞ?」
「お前もそうだろう、その過信さが姉を失ったきっかけになったんじゃないのか?」
それをいうと東島は声にもならない呻きをあげて黙り切った。そして「誰から聞いた?」と小声で尋ねる。
「香織からだ」
「フッ……、余計なことを。いいか、楓のことはもう過去のことなんだ。確かに俺は判断ミスで楓を殺してしまったが今は違う。死にたくなけりゃいうことを聞け」
「じゃあ、死なない作戦を考えて欲しいな。お前のいうことは特攻と同じ。アタッカーと肉の壁がないと戦闘できないイカレ将軍じゃねぇか」
天界のチェスを思い出す。戦争の状況は地図越しで見ることができる。人々の心境も作戦も全て、その中であまりにも戦況が悪いととんでもない作戦を立てて無理やり勝ち残ろうとする輩もいることをマルスは知っている。自分は上の存在だからって仲間であるはずの兵士の命を簡単に奪うような作戦で戦況をひっくり返そうとする。返ったとしてもマルスの経験上それは一時的なものだった。
短い間、敵の動揺をかる。それだけだ、死んでいった兵士としては割の合わない結果になって戦争は終わる。それの発端を作っているのがチェスをしているマルス本人だったので気分はよろしくなかった。
「お前にはなって欲しくないんだよ。命を軽く見るような班長に」
「は? お前、急にどうした?」
「いいか、これからは無謀な作戦をやめろ。いつどこで何が起こるか分かったもんじゃない、ここは戦場だからな」
戦ノ神として戦争に携わったマルスだから分かった命の重さ。簡単に失っていいものではない。なくなって喜ぶ者がいるとは思えない、みんな生きたいのが普通なんだから。
「班員は兵器じゃあない、人間なんだ。捨て駒でもない。それを踏まえて作戦を考えろ」
東島は完全にマルスの気迫に押されてその場で押し黙ってしまう。言いたいことは色々あり、マルスの話を遮って怒鳴り散らしてやろうと思ったがそれはさすがに子供すぎると喉元でつっかえていた言葉を吐き出そうとしたその時だった。
「確かにそうね」
そんな言葉と共に空を斬る刃がマルスと悠人に襲い掛かる。お互い離れることでその刃を回避する。ドーナツ型の円形の刃、チャクラムだった。こんなマイナーな武器まで……マルスは回避した時に感嘆する。敵が3人、姿を表した。マルスはその内の一人を見て過去の記憶がまた脳裏を横切ることになる。
二回戦の開始がこのようなスタートで歯痒くて仕方がない。
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