戦ノ神の新約戦記

これは神より堕ちた戦ノ神の新約戦記
天方セキト
天方セキト

瓦礫

公開日時: 2021年1月13日(水) 22:14
文字数:3,213

 爆炎もなんとか落ち着いたのを確認してホッとした隼人は結界を解除する。崩れるようにして消えていく結界をじっと見た後に隼人はグラリとその場に倒れ込んだ。彼の腕を覆うナノテクアーマーもサーっと消えていく。その場に倒れ込んだ隼人の身体中からは汗が噴き出ていた。相当疲労感が溜まったのだろう。もう動けそうにもなかった。顔色も悪い。


「ハァ……ハァ……畜生……急に路線を変えやがって……」


 ほとんどが崩壊した倉庫街を見渡しながら悠人も「それもそうだな」と夜叉を鞘に入れ込んだ。さぁ、レグノスと戦って時間を稼ごうといった時にパイセンから「もう起爆させた」という連絡が届いたものだから悠人としても驚きでいっぱいだ。辺りには炎がチラホラ見えて煙の影響もあってか視界は悪いが周りの部隊もレグノスも見えなかったので全滅したのだろうと判断した。溶けたライフルなどが辺りに散らばっているので凄まじい爆撃だったと思い知る。


 夜叉を使って結界内は冷却をしていたが壁となってくれた隼人の体には深い火傷の跡があり、痛んでいそう。本当なら倉庫街からコンテナ地帯に移動してマルス達と一緒に飛び降りる予定だったしなぁ……と思った悠人は隼人に労いの言葉をかけた。


「ありがとな、お前のおかげで助かったよ」


「ハッ、割に合わないぜ。一ヶ月は飯を奢ってくれねぇとな」


「安いな、お前」


 蓮のコメントに悠人はハハハと笑った。蓮も「もう大丈夫か」と言ってナイフをしまおうとした時に悠人の顔が青ざめる。


「……!? 蓮、危ない!!」


 そう言って蓮を突き飛ばすと悠人の腹に散弾がめり込んだ。彼の腹に着弾した弾丸はドパン! という音を立てて爆散していく。悠人の腹にグチャグチャと乱れたような傷が出来上がり隼人と同じく地面に倒れ込んだのだ。


「悠人!?」


「グフ……前を……みろ」


 悠人に言われた通りに視線を前に向けると……ほぼ無傷のレグノス班長がそこにいた。少しだけ服に焦げ目がついており、顔に煤がついている。本当にそれだけで傷も何一つない。驚いた表情をする蓮達にレグノス班長は「いやはやねぇ……」と笑いかけた。


「ここらが爆発したってことは新人殺しのお仲間さんが俺の仲間を撃破したってこったろうな」


「テメェ……なんで生きてやがる!」


「お前らがこの地区の石油プラントを爆破することも候補に入れて行動していたんだ。ウチは駒が多いからな。9人のお前らとはわけが違う」


「ッ! やろぉ……!」


 計画の失敗を悟った蓮はナイフをグッと握ってレグノスの目を見る。射殺すかのように見つめる蓮の目からは鋭い光が漏れていそうだ。これは彼が幼少期から培った表情。自分を虐めていた兄へのせめてもの嫌がらせだった。そんな蓮を見てフッと笑うレグノスは背中のショットガンを構えて起動させる。


散弾針鼠パニッシュヘッジホッグ


 レグノスが発砲。発射された散弾空中で拡散していき蓮に襲い掛かった。なんとか蓮は散弾を回避するが隙を見られてもう一発発砲される。死角から襲いかかる弾丸の嵐。間一髪で最後の力を振り絞った隼人が蓮に結界を展開させて防ぐことができたが……もう腕輪にヒビが割れて使い物にならなくなってしまう。満身創痍の隼人に腹部をグチャグチャにされて動けなくなった悠人、彼らを見て蓮はナイフを構えて深呼吸をする。


「倒れてるやつを……負傷者を狙うのは戦闘員じゃねぇよな? 撃つなら俺にしろ」


「いい心構えじゃん」


 蓮の覚悟が通じたのかレグノスは面白そうにニカッと笑い、突撃してきた。蓮も魔装を起動させて突撃する。レグノスの弾丸を蓮は子ナイフを投げつけて中間地点辺りで散弾させる。細かくなった弾丸が飛んでくるが蓮は手持ちの子ナイフを全てばらまくようにして親ナイフの引き寄せを利用して空中に留めて防御を展開しかしナイフの間を跳ね返って蓮の脇腹を掠めた弾丸に舌打ちをしながら蓮は一旦距離を取った。そして散らばったナイフを一旦引き寄せてまた一回投げる。


「芸のない攻撃だなぁ」


 レグノスは同じようにショットガンを放って蓮の投擲をはじき返した。そしてその弾丸が蓮の右足に着弾して爆散、蓮の足はかなりのダメージをくらってしまう。


「グゥウウウウウ……!!」


「フゥー、痛そう」


 レグノスの弾丸はネズミのように辺りを駆け巡る。そのスピードは蓮の目に捕捉できるものもあればできないものも。脇腹を掠めた瞬間は一瞬すぎて痛みがなかった。今は蝕むように痛む。少々息遣いが荒くなった蓮。煽るように口笛まで吹きながらレグノスは脇腹を抑える蓮に挑発する。蓮は右足から溢れ出る血を押さえながらレグノスをキッと睨んだ。弱いところを見せると負けになる、これは幼少期から掲げる蓮のプライドだ。


 本当は怖がっていることをバレると相手の思う壺だ。なんとかして強がらないといけない。弱みをこんな所で見せてしまうと相手は根拠のない身分の差を突きつけてくる。だから蓮はゆっくりと立ち上がってベルトに子ナイフを引っ掛ける。手持ちで持っていたのは8本だけだった。他のナイフは散弾を防いだ時にどこかへ吹き飛んでしまった。親ナイフがあれば引き寄せることができたが……その親ナイフもどこかに飛んでいって手元にない。この多いのか少ないのかよくわからない8本のナイフに全てをかけるしかなかった。いつもは何も考えることなく引き抜くのに今回だけはとてつもなく重いナイフだった。


「無理に強がってるんだろ? バレてるぜ?」


 ショットガンの銃口を向けながらレグノスはフッと笑った。ようやく視界が慣れてきて燃え盛る炎と煙の間にいる相手の顔が窺える。ニヤリと笑った余裕そうな顔、蓮はそれを見た後に口にたまった血をプッと吹き出した。近くに見えるレグノスの靴の先に血がつく。


「俺は家が金持ちでも……こうやって刃物を投げて殺すことで月給をもらってる親不孝者だ。アンタと同じだよ……。俺は戦闘員だからさ」


「それがどうしたんだ?」


「もう考えることはやめだぜ……。痛みもなれた」


 蓮は外套を脱ぎ捨てて体をなるべく軽くしようとした。足の負担を出来る限りなくす。そして脱ぎすてた外套をナイフで切り刻んで足をギュッとしばった。これが止血になるかはわからないが幾分かマシになる。子ナイフを指に挟んで体勢を整えた蓮。燃え盛る倉庫跡で戦っているせいか、蓮の顔にも服にも煤がついている。血と煤と汗が混じった気持ちの悪い液を顔から拭い蓮はキッとレグノスを睨んだ。


「17歳舐めんなよ……、レグノス班長。覚悟ならもうできてる!!」


 レグノスは一瞬だけ頭可笑しいだろと思ったがそのような精神は嫌いではないのでニヤリと笑って銃の引き金を引く。発射された弾丸を蓮の投擲ではじき返す。そして弾かれたナイフがレグノスの足元に刺さったのを見て蓮はすぐにもう一発を投げる。気を逸らしたところでレグノスに接近し、回し蹴りを空中から放とうとしたがパターンと照合させたレグノスはそんな蓮にノールックで引き金を引く。


 蓮の腹をショットガンの弾丸が貫いて彼の腹に大穴が空いた。一瞬だけ消えた意識の中で蓮はガムシャラに手元のナイフを全て投げる。本来ならバラバラの方向に飛んでいって意味がないのだがそのうちの一発、一つだけがレグノスの腹を貫いたのだ。


 信じられない事態に驚くレグノス。貫いた先にはさっき弾き飛ばしたはずの親ナイフが偶然倉庫の壁に刺さっており、その子ナイフが偶然直線上に入ったこと、自分がその直線上にいたから刺さった事実に気がつく。


「運も……味方にすべきだったか……。参ったよ」


 負けを認めて笑ったレグノスは光となって消えていった。そして倒れ込んでいた蓮は「ラッキー……」とだけ呟いて力なく倒れ込んだ。もう動けないし、意識も遠い。そして辺りに準決勝終了のアナウンスが流れたことを聞いて蓮は一瞬だけ泣きそうになったがフッと笑って倒れ込んでいる悠人と隼人に笑いかけた。


「祝杯は……あとであげようぜ、悠人、隼人」


 準決勝勝者 新人殺し

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