こちらは悠人班、隼人班の左側。現在、戦闘中真っ只中である。
左側は全員が任務に集中して行動することができており、状況整理も右側と比べると早く済ませていた。つまりはこの路地裏は中央交差点をグルグル周っている構造なんじゃないかと推測を立てた時。こちらを観察する4人の敵の部隊を優吾は偶然発見し、即座に逃げる部隊全員のかかとを打ち抜いたことが戦闘の始まりだった。
「敵の偵察が目的の先遣隊だろう。撃破しないと俺達の情報を主力に持ってかれてしまう」
銃を構えて状況を説明する優吾に3人は頷いて武器を構えて悠人が斬りつけたことで戦闘開始。右側の部隊とは違って左側班は限定された空間内でも善戦をすることができていた。偵察隊は即座に二手に分かれてそれが右と同じ、中央交差点側と逆側だ。
悠人の指示で隼人班は交差点側、自分達は逆側を追うことになりこちらも二手に分かれた時に起爆音がして炎の壁が出現して元の道に帰れなくなっていた。
「何だ、これ?」
悠人が振り返って声を上げる。優吾も少しだけ振り返ったが彼は冷静に炎の壁よりも偵察部隊を撃破するのが先だ、と言って追いかけ始めた。悠人も「何かあれば通信機で連絡しよう」と振り切って偵察部隊を追っていく。
〜ーーーーーーーーーーー〜
隼人と蓮は逃げている先遣隊を追っていた。比較的軽い装備で逃げている彼らはかかとを撃ち抜かれたはずなのに思った以上にちょこまかと逃げる。隼人と蓮の戦い方だとちょこまか逃げられるとうまく照準が定められないので不発する可能性が高い。相手に攻撃の手段がこれ以上見られるのは避けたかった。
「それにしてもよぉ、バーチャル空間でも走ると少し息苦しくなるんだなぁ……」
「バーチャル空間って言ってるけど今はここが俺達の現実だろ? そう考えとけよ」
蓮は少しの息苦しさを感じながら隼人に言い返した。それにしても蓮は二手に分かれた瞬間に広がった炎の壁が気になって仕方がなかった。あんなに都合のよく炎は燃え広がるものであろうか? それが疑問に残る。まるで自分たちが通路を別れることを知っていたかのように燃える炎への違和感が拭えない。
「誘導されてる……? いや、まさかな……」
「……? どうした、蓮?」
「あ、何でもない」
ブツブツと呟いていた蓮は隼人に少し心配される。隼人にこのことを知られると逆にどんな変なことをしでかすか分からなかったので言わない方が良さそうだった。一人で異変を感じる蓮、その隣で追いかける隼人。
右側ルートも少し心配にもなる。蓮は必死に思考するが敵の作戦の内容は全く分からなかった。やはり、相手は人だ。本能に狂う魔獣じゃあない。ここはマルスの言うことに票を入れるべきだったか……。蓮は少し後悔していた。
その時、今まで前方を走っていた先遣隊がヒュッと方向を変えて路地の建物の中に入っていったのだ。蓮は大いに困惑した。どうして更に閉鎖的な建物の中に……、まさか建物の中に沢山の敵が隠れていて俺たちは誘導されていたとか? 蓮は隼人の腕を掴んで建物から少し離れて観察する。
「おい、どうした?」
「考えてみろよ。このタイミングで建物の中に入るのも妙だろ? 中に敵が沢山隠れているかも……」
「ここから中は少し見えるけど……敵なんかいないぜ?」
蓮と隼人は恐る恐る中を確認するが本当に敵はいなかった。隠れている、と言ったものではなくそもそも存在していなかったと言えるほどだ。ゆっくりと建物の中に入って観察する。椅子やテーブルがこじんまりと立っているだけの隠れる場所なんかない部屋だった。
「どこにいった?」
「二階も裏口もない……」
武器を構えながら、蓮と隼人は部屋の中を歩み進んでいくと部屋の壁にお札が貼ってあることを発見した。
「何だ……これ?」
先に発見した隼人がそのお札に触れると……、
ヴォッ!
強い風が一瞬だけ吹き荒れたような音がしたかと思うとその場から消えてしまったのだ。蓮は「はぁ!?」と声を上げて隼人を探すがこの建物の中に彼はいなかった。そして路地へと出て確認すると同じ路地の別の建物の窓に困惑する隼人が写っている。蓮はすぐに隼人の元へ向かった。
「お前、何したんだ?」
「わかんねぇよ……、お札に触ったらここに……」
誠に信じがたいが隼人はこういう時に嘘はつかないので信じよう。消える瞬間は自分も見たんだから。そう思っていると、ガサガサと音が発生。背中に寒いものが走って引きつった顔のまま二人は振り返る。
「ッ!!」
敵だ、アサルトライフルのような魔装を持った二人組が自分達の存在の気づいて発砲してくる。隼人が咄嗟に起動させた結界のおかげで打ち抜かれることはなかった。冷や汗を拭いながらナイフを指に引っ掛ける蓮。
「ありがとよ」
蓮はそういって敵を確認するがさっきまで追いかけていた部隊の者ではないことがわかった。一体どういうことだ? 蓮の思考を止めるが如く発砲してくるので蓮は覚悟を決めてナイフを一本、1人目の腹部に刺して高速移動で股を抜き、壁を蹴ってうなじにナイフを差し込んだ。
声を上げてパシャンと体が光となって弾ける敵、恐らくこれが撃破と言った合図だ。蓮は動揺する最後の敵の顔面にナイフを投げる。サクッと音を立てて刺さったナイフの毒で敵を見事撃破した。非常にあっけない。
「2人撃破……、隼人ここは危険だ。元の路地に戻ろう」
「あぁ……は……?」
隼人は先に気がついて蓮もその光景を見て絶句する。元の路地へといく道が全て炎の壁で覆われていた。さっきの戦闘中に作ったとしか考えられない。もしかして敵の作戦はこうやって俺たちを閉じ込める作戦なんじゃないか? 蓮が冷や汗を垂らしていると唯一燃えていない路地にさっきまで追いかけていた先遣隊がいることを発見する。
「隼人、追うぞ!」
「お、おう!」
先遣隊は追いかけてくる蓮達を発見して逃げ出した。
「逃すかよ!」
蓮はナイフを投げるが先遣隊は全て回避する。引き寄せの時も回避したのを見て恐らくそういう能力であると判断した。その時にまた、路地の建物に滑り込んでいく。今度は逃すまいと蓮達はすぐに入ったが姿は見えなかった。
「畜生……、またか」
「いや、隼人。お札があるはずだ」
「札?」
「あのお札は多分触った対象をワープさせるお札……魔装だ。こうやってここらの路地にお札を配置して逃げ道を作ってるんじゃないか?」
「なるほど……、あ、札があったぞ」
隼人は壁にかかった札を指差した。そして蓮は危険を承知にあることを提案する。
「2人で同時にお札に触れるぞ? ワープした先は敵が沢山いるかもしれないが先遣隊を撃破しよう。情報がバレるのはまずい……」
「俺は大丈夫だぜ?」
微笑む隼人を見て蓮は不敵な笑みを描いた。そして2人一斉に触れてヴォっという音を立てて消えていく。
〜ーーーーーーーー〜
中央交差点から離れた方にいる悠人と優吾。こちらは蓮達と違ってもう既に先遣隊を撃破していた。刀を鞘にしまって悠人がポリポリと頭を掻く。
「動きを封じたら一瞬だったな。蓮達と分かれる必要もなかった」
「そうだな、今頃あいつら大丈夫だろうか……?」
「中央交差点側に向かった。そこへ行って合流しよう」
悠人の言葉に頷く優吾。しかし、ここであることに気づく。
「何だか……薬品臭い」
どこからか薬品のような鼻をつく臭いがしたと思うと彼らは気づいてしまった。ここから中央交差点へと行くルート全てに炎の壁が出来上がっている。
悠人と優吾は試しにと一つの壁に近づいてみた。まずは優吾が発砲する。銃弾は炎の壁に対してジュッという音を立てて燃え盛り、灰になってしまう。悠人が空気を凍らせても炎は氷を飲み込んで更に大きくなったので強行突破は難しいことが判断された。
「俺達を中央交差点にいかせたくないのか?」
「それはわからないが……この壁は二手に分かれた時から存在していた。誘導されている可能性が高い」
優吾の言葉に悠人は一瞬、新人の考えの方が……と思ったがすぐに撤廃する。
「とりあえず、現状確認だ。通信機で全員に連絡する」
通信機を悠人が起動させて少しの間待っていると焦りに染まりきった隼人の声が通信機に飛び込んでくる。
「大変だ、香織がやられた!」
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