「餌? パイセン、どういうこと?」
「お前の水を吸収してさらにツタが生えてきて凶暴になってんの!」
パイセンの指差す先にはサーシャの水で出来上がった水たまりからツタがワンサカ生えてきている。乱交パーティでもするように絡まり合ってる姿を見てパイセンは引きつった顔を見せた。それに合わせて水から生えてきたツタの動きは今までとは違って凶暴性を持っている。
「あ、サーシャさんの水ですか? 僕も針がなくなりかけで辛いですよ〜。拾いにいけないし」
「俺も少し疲れてきたな」
「え? 私やらかしちゃった?」
ツーっとサーシャの額から冷たい汗が流れ落ちる。背後から噛みつきにきたツタをバットで殴り飛ばすパイセンの顔はかなり曇っていた。
「反省しろよ! 植物相手だから水が駄目ってわかるだろ?」
「能力なしで戦うことは長年やってないからできないよ」
「長年? じゃあ能力使わないでこのツタを全部倒すことができたら今日の晩飯は好きなだけ奢ってやる!」
「え! 本当ぉ!?」
「あぁ! 誓ってやるさ! おい、マルス! 攻撃はサーシャに任せていいぞ!」
木っ端微塵にツタを斬ったマルスは「あいつら、何言ってるんだ?」といった顔をするだけで交代をする気はない。パイセンは「あぁ……、空気読めよぉ……」とさらに不機嫌そう。この環境でそんなしょうもない賭け事をするな、マルスは心の中でパイセンに呆れ果てていた。
「パイセン、確認だけど。能力を使わないで実力で倒せば晩ご飯はただね?」
「あぁそうだよ、普段から能力に頼ってばかりのお前には……」
「マルス君、どいて!!」
いつもとは違って凛々しい声を張ってマルスが相手しているツタに向かっていくサーシャ。腰を低く構えて強化された身体能力だけで移動する。蛇行するかのように疾走したサーシャを見てマルスは「やばい!」とその場から離れた。サーシャは退いてくれたマルスに可愛らしいウインクをして飛び上がる。
空高く舞い上がったサーシャにツタは「格好の餌食だ!」と言わんばかりに襲い掛かる。サーシャは槍を右手で高速回転させ、ラウンドシールドで跳ね返すかのようにツタを木っ端微塵にしていく。回転するサーシャの槍は刃のように鋭い切れ味を誇るようで襲いかかったツタはなすすべなく木っ端微塵になった。
それでも襲い掛かるツタの攻撃を身を翻しながらサーシャは回避する。海を自由自在に泳ぐサーシャの適合生物、海龍そのものだった。温帯の海に生息する蛇のような姿をした龍。海流の流れを変えて渦巻きを引き起こし、獲物を集めて捕食する荒海の狩人が適合のサーシャ。空中で海の中を泳いでるかのように槍で貫くサーシャの強さは本物である。空中で踊るように襲い掛かるツタを槍を奮って貫き、捻り潰していた。
地面に着地してから雨のようにしたるツタの体液を槍で傘のように凌いでから最後に槍に残る体液をビュン! と振るって放射状に広がる体液を見せつける。「終わったよ」と言わんばかりにパイセンを見るサーシャ。
それに対してパイセンは「そういえばサーシャはスカウトで戦闘員になってたことわすれてたぁ……」と大事な情報を呟いた後、今後の財布事情と自分の給料を心配したのか、希望を失ったかすれた笑みをした後に真顔に戻り、
「本当にごめんなさい」
素直に謝った。
〜ーーーーーーー〜
壁の中では蓮、隼人、東島が本体とツタの相手をしていた。蓮が全方向に投げたナイフを巧みに操ってブーメランのように飛ばすことでツタを無力化する。しかも蓮のナイフには出血性の高い毒が仕込まれているので刺さったツタは体液を出し尽くし、枯れて消えていく。
「投げても投げてもキリがない……」
「諦めるな!」
東島は夜叉の低温で凍りつかせての無力化。夜叉を起動しているだけでも周囲には冷気が迸るのでツタの動きを少しだけ抑制できる。動きが鈍くなったツタを切り裂いて完全に凍らせることで増殖を防いでいた。もう一本ある紅い刀をいつ使おうか、彼はそれだけを考えていた。
隼人は背後からの攻撃を結界で防いだり、結界を腕に纏ってガントレットのようにしてツタを殴り無力化。結界を使ってツタを閉じ込めた後に急激に縮小することで削り取るようにして無差別に破壊するなど結界を利用した戦闘術を披露していた。防御こそが本当の攻撃であるを体現したかのような戦闘方法である。
「外は大丈夫か?」
「分からないが苦戦はしてないだろ? マルスがいる」
「蓮、もう新人を信用しきっているのか?」
「あいつは死なない奴だと思うけどなぁって」
「ッチ……、余計なお世話だ」
悠人は夜叉でツタを一刀両断する。顔にかかった体液を腕で拭った後にツタだけを攻撃しても意味がない……、と本体を凝視した。カーネーショントカゲの本体は茎を無数のツタで覆うようにして守る。そのツタをよく見てみると真ん中に緑色に光る何かがあることを知る。
「何か……あるのか?」
悠人のその呟きが聞こえたのか更に増えていくツタ……、あの何かを守っている……、そう確信した東島は蓮と隼人に号令をかける。
「蓮! 茎付近のツタを剥がしてくれ!」
「茎を覆っているやつか?」
「そうだ! 夜叉を発動させて動きは鈍らせる」
悠人は夜叉鮫牙の低温をさらにあげて辺りのツタを凍らせた。蓮と隼人にも凍えるような寒さが襲うが蓮は感覚が痺れる前にナイフを投げつける。蓮も高速移動で飛んでいって持っている親ナイフを凍ったツタに投げつけた。ツタの真ん中に親ナイフが刺さり、蓮は起動させる。
「弾けろぉ!」
蓮の号令と共に子ナイフが一斉に親ナイフめがけて突き刺さり、親ナイフを目指して食い込んでいった。親ナイフに見事到達したナイフのおかげでツタにヒビが割れて見事剥がすことに成功する。
「できたぞ!」
剥がれた先には緑色に光り輝く魔石があった。これがあいつの核である。今まで見たことのないような大きさだった。ちょうど130センチはあるかも知れない。
「よくやった、蓮。緋爪斬虫」
夜叉を鞘に入れて、もう一つの刀に手を置いて起動させる。凍った地面は一瞬で溶けていき、水分を蒸発させた。悠人が刀を抜くと紅く染め上がった刀が姿を表す。悠人のもう一つの適合生物、緋爪斬虫。燃え盛るような高温を操るカマキリの魔獣。まだ完全には使いこなせていない悠人の最後の切り札。せいぜいもって使用時間は10秒。それを超えると自分の腕が大火傷を負う。
悠人はすぐさま飛び上がって刀を横に構えた。
「じゃあな」
それだけ呟いて横ナギに高温の刀を振るう。切れることはなかったがピキン! と音を立てて魔石にヒビが入り、本体は断末魔を挙げて頭から枯れていった。悠人が着地して刀を鞘に入れてしまう時には自分たちを覆う壁も、ツタもなくなっており、その場にはヒビの入った巨大な魔石が残される。
「終わった……な」
悠人はその場に倒れ込んだ。全員が心配して悠人の周りに近づく。近寄ってみると彼の顔は笑っていた。
「なんだ、みんな。疲れたのか?」
それを聞いてホッと息を吐き出す蓮と隼人。緋爪斬虫の副作用はなかったそうで安心である。そのまま、撤退しようという話になったところで香織は「ねぇ」と呼びかける。
「あの魔石だけでも持って帰ろうよ」
「そうだな、香織。持てるか?」
「今日は力が有り余ってるよぉ……、え? ちょっと待って……」
香織は魔石に近づいて持ち上げようとした。しかし近づいてから彼女はこれはただの魔石ではないことを知る。体から冷や汗が吹き出して「あのぉ……」と振り返った。
「どうした、香織?」
悠人は起き上がって香織に聞くと香織は戸惑いながら返事をしたのだった。
「中に女の子が……」
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