戦ノ神の新約戦記

これは神より堕ちた戦ノ神の新約戦記
天方セキト
天方セキト

制御棟

公開日時: 2020年12月16日(水) 22:07
文字数:2,926

 自分に向けて牙を向く弾丸の嵐を掻い潜って悠人は3人目の敵を斬り倒す。耳に響く音を立てながら凍っていく敵を見ながら悠人は一旦物陰に身を潜めた。ことの経緯を整理すると悠人が目覚めた場所は金属精錬所のプラント部分だった。目を覚ました瞬間に自分を囲むように位置しているパイプや鉄格子、サビかけの階段を見て悠人は中核の制御棟のようなものか……、と少ない知識を引っ張り出して状況を整理していた。


 その時に何人かのグループの戦闘員がアサルトライフルを構えて階段に姿を現し、すぐに戦闘体勢を取ったが自分よりも上の階からライフルを撃つ攻撃を躱しながら攻撃してきたというわけだ。回避は困難である。敵のライフルを確認するとリロードもなしで発射していることからあのライフルが敵の魔装だと悠人は予想する。比較的低い階に位置する3人の戦闘員を空気の防護壁で押し切って斬り倒して現在に至る。


 階段の隅のパイプの裏に隠れて悠人は呼吸を整える。まさか目を覚ました瞬間に襲われるとは思ってもいなかったので焦る気持ちを押し殺して周囲を観察した。ライフルを構えながら悠人の位置を探っている戦闘員。このプラント部分は入り組んだパイプと階段。そして枝分かれした通路がうまい具合に入り組んでおり、立体的に位置する戦闘員を一人で相手するのは正直言ってキツかった。


 近づくことができればすぐに切り捨てることができるが……、と思考を続けていると「見つけたぜ!」という声が聞こえ、悠人の背中に寒いものが走った。脇や背中に嫌な汗が噴き出して不快感が上乗せされる。連射されるライフルの弾を自分を囲むように展開した空気の防護壁で守ろうとしたが凍った空気では連射される弾丸を防ぐことはできずに音を響かせて割れてしまう。


 音を頼りに全ての戦闘員が悠人の居場所を特定し、一斉射撃を開始。悠人は姿勢を低くしてなるべく塀に隠れるようにして移動し、瞬時に作った氷の通路を滑って移動した。服が濡れているのは溶けた氷以外の水滴を浴びているからであろう。悠人の首から冷や汗が滴る。


「ヤベェ……、これがハイドネーム……」


 悠人は流れる冷や汗を拭うことをやめた。素直に現時点での感情を認める、怖がっていることに。一人になった瞬間にうまく動けなかった自分に嫌気が差してきた。作戦を立ててこの試合に挑んだのに決定的なところ、経験には負けるものかと悔しく思う。この短時間でこのような連携を取れるハイドネームに感心すると同時に経験の差を思い知らされて悠人は歯を食いしばった。アドバイスをくれる人が隣にいないから今は自分で考えないといけない。


 またもや隠れている悠人を見つけた戦闘員がライフルを発射し、急いで逃げ出したが肩を撃ち抜かれて地上へ墜落してしまう。格好の餌食になった悠人は遠距離で発射される弾を躱すことに精一杯だった。


「畜生、チョコマカと逃げやがって!」


 イライラして吠える戦闘員は悠人を狙って発砲する。しかし、悠人は肩を押さえながら階段とパイプの隙間に潜り込んで夜叉の冷凍で止血する。うまい具合に血が止まったことを確認して悠人は必死に考えた。このまま逃げるだけだといずれ自分は蜂の巣の運命だ。実際に通路をウロウロして自分を探す戦闘員の足音が聞こえてくる。


「考えろ俺……、考えろ……」


 しかし、悠人の頭は終始真っ白でいい案なんて思い浮かびそうにない。悠人はマルスだったらどうするかを考えてみる。マルスは恐らく相手の戦闘を分析する。ならば自分もと思い出してみた。このプラントの地形をうまく利用した高所からの一方的な遠距離射撃。戦闘員の魔装はリロードなしで発射するアサルトライフル。恐らく能力はこれだけ。特に癖のある能力でもない。


 ここは作戦通りの展開だった。そして悠人はこっちも地形を利用して戦うしかないという考えに至る。自分の手札は2枚、夜叉と獄火爪だ。2枚目の手札は10秒しか使うことができない。


 鞘に仕舞えばまた10秒使えるがそのタイミングで撃たれると太刀打ちができない。ならば隙を作らない夜叉で立ち向かうしかないのだ。感覚が限界まで研ぎ澄まされた悠人はあることに気づく。相手の足場を支える軸となる柱が死角にあることを発見した。それが悠人が隠れている所から近かったのでゆっくりとバレない程度に近づく。確認するとその柱は鋼鉄製だ。


 そしてその柱を中心に張り巡らされているパイプ、そこから耳をすまさないと聞こえない程度の音が聞こえる。よぉく耳をすませて音の正体を知った悠人は鋼鉄製の柱と自分の刀を見て戦略を固めていった。使ってみる価値はあるな……と判断した悠人は覚悟を決めて鞘から夜叉を引き抜く。


 その頃、中々悠人を見つけることができない戦闘員の一人が舌打ちをしていた。


「全く、あいつどこ行った?」


「ここから抜け出したとは考えられないぞ。どこかに隠れているはずだ」


 ライフルにつけられた2倍スコープで確認しながらターゲットを探す戦闘員。その時にパリパリといった音が足元から響いてくるのを聞いた。異変を感じる周りの戦闘員。どこか足元が肌寒くも感じる。


「おい……なんの音だ?」


 次の瞬間、彼らを支える足場が一斉に崩れ落ちていくではないか! ガタン! という音を響かせて彼らは崩壊した足場に潰されないように着地していく。足場が崩れたことにより絡みとるように設置されたパイプが破壊されてそこに流れていた冷却水が辺りに降り注いだ。


銀刃鮫シルバーメガロ!」


 戦闘員は声の方向を見ると自分たちの足場となっていた柱を凍らせて劣化させた悠人を発見した。鋼鉄製の柱は悠人の夜叉で劣化させられ、特に物音を立てることなく崩壊させることに成功。そのことを知った戦闘員はアサルトライフルを構えて悠人を撃ち殺そうとしたが急に自分たちの足元に影が出来上がっていることに疑問に思う。上を確認するとそこにはツララとして固まった冷却水があった。


「な!? 貴様ぁ!」


 悠人は作戦が成功したことに一旦ホッと息をつく。敵の戦闘員の足場の軸を夜叉の極低温にてさらすことで無駄な騒音を響かせずに破壊。そして柱と足場に絡みついていた冷却水のパイプをついでに破壊して辺りに散らばった水を夜叉で凍らせることによりツララを発生させたのだ。焦った戦闘員はツララをライフルで破壊するがそれは悠人に対して接近を許しているということと同義。気がつけば自分の目と鼻の先に悠人が位置していた。


「じゃあな」


 それだけ言って悠人に斬り捨てられる戦闘員、夜叉で斬られ辺りにビーズ状に固まった血液が噴き出されていった。その場には凍ってビーズ状に散らばった血と戦闘が終わってホッとする悠人が残される。落ち着いたところで作戦を決行するために蓮に連絡。応答した蓮は現在、倉庫街へ向かっているとの報告がくる。ここで悠人は自分の作戦を思い返した。



 あの作戦会議で決まったこと、まず序盤は集合を目的に行動することだ。そして敵班長レグノスは全班の中でもかなりのやり手と有名なので下手に動かれると作戦の進行に支障が出ると判断した。そこで悠人と蓮と隼人の3人で足止めするというシナリオである。


 ここまで思い出したところで悠人は出口を発見し、蓮達と合流するために移動を開始したのだった。

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