「喧嘩はそこまでよ。新人殺しのお二人様」
両手にチャクラムを構えた銀髪の女性はマルスと悠人に向き直って話しかける。銀色のショートヘアー、青色の目に灰色のフードを着用。下半身はショートパンツであり身長は150ほどの小さな体型だった。東島は彼女をみた瞬間に舌打ちをして刀に手をかけた。女性の正体を知っている悠人は面倒な相手だなと顔を歪めている。対するマルスは全くの初対面だったのでキョトンとした顔を取った。
「よりによってお前……」
「おい、あれ誰だ?」
マルスは銀髪の女性を指差して東島に尋ねる。指を指されたことがよほど気に食わなかったのか。少し不機嫌そうな顔をして女性は自己紹介を始めた。
「稲田班副班長、月輪円。貴方が噂の新人ね? 礼儀がなってないわよ?」
「戦闘員は礼儀の前に戦闘だと思うが?」
「ッチ……。シメるぞテメェ……」
今まで女性的な柔らかさを持った声だったのに急にドスの聞いた低い声になった事に対し、マルスは一瞬だけ震え上がった。多重人格……いや、違う。何かが憑依したのか? マルスは訳の分からない何かに怯えながら剣を抜く。その隣にはいかにも不機嫌そうな東島が夜叉を抜いていた。
「いいか、俺の指示を聞いて動け」
「この状況で聞くか、バカ」
「なんだと、貴様!」
「うるさい、早く夜叉を抜け」
「言われなくてもわかってる……!?」
二つのチャクラムが喧嘩中のマルスと東島に襲いかかりマルスはギリギリ避けることに成功する。悠人は夜叉の低温で防護壁を張って軌道を逸らした。防護壁を貼っていたにも関わらず、キワキワな角度で攻め込んだ刃に切られて悠人のジャケットは使い物にならない。脱ぎ捨てた悠人は一瞬だけボヤいた。
「お気に入りの服なのに……」
「俺はその服嫌いだ」
「いちいちうるさいぞ」
喧嘩に必死になってる東島とマルス。その時、大地が大きく揺れる音がして縦線のような衝撃波が襲い掛かった。マルスと東島は互いに離れることで回避する。土ボコリの中から出てきたのは山賊顔の髭を生やしたよくいえばダンディなおじさんだった。
「避けられちゃったかぁ、若いのはいいねぇ」
白髪と黒髪がうまい具合の比率で混ざっており、どこか灰色にも見える髪型、髭がチョコチョコ目立つ山賊顔にガッシリとした体格の男性だ。今のところ敵は2人、武器はチャクラムと大剣。能力は未だにわからないがそれなりに危険な能力だと判断する。
「東島、相手の魔装はわかるか?」
「知らん、この班は外部との関わりはないんだから」
「なるほど、これがインキャラか」
「うっせぇ!」
そんな2人に茶々を入れるように髭面が大剣を振り下ろした。髭面の一撃は1発1発が重く迎撃は恐らく不可、このパワーだと押し切らせて頭から真っ二つの運命だ。髭面の攻撃を回避したマルスに彼は興味深そうに笑って自己紹介をする。
「ついでに自己紹介。大渕だ」
「知るかよ」
マルスは大渕に斬りかかりにいくが大渕は剣を盾のように構えて迎撃した。巨大なまな板のようにも見える大剣は盾としても使えるようだ。
「おじさん、これでもやるんだよ」
そして大渕はマルスと悠人から離れて剣を振りかざして構えをとって固まる。マルスはチャンスだと思って大渕の元へと向かった。それに気がついた月輪が中距離からチャクラムを投げるが蛇腹剣で絡み取って無効にする。そして構えをとる大渕の腹を切り裂こうと思うと目の前に新たな敵が現れた。
「ッ!?」
白い、本当に白い体をしている。白人特有の白い体、碧色の目、そして透き通るような白髪の女性だった。体格は女性らしい柔らかい丸みとくびれを持った素晴らしい体つきで表情は無だ。その人物はマルスの斬撃を手に持つ大盾で防いで彼を弾き飛ばす。
「ワッ!?」
「いくよー」
大渕はタメにタメた一撃をマルスめがけて振り下ろした。マルスは剣を伸ばして地面に突き刺し、体をうまい具合に捻って回避。どうやら大渕の大剣はタメ攻撃が可能のようで一定の時間ためると衝撃波のような斬撃を放つことがここで判明した。しかし、マルスの視線は自分の攻撃を防いだ白人の女性に集中する。なんだか目の雰囲気が自分に似ている気がした。奥底に煌く感情の色が似ている気がしたのだ。
「ありがとう、エリー」
大渕は女性の肩をポンポンと叩く。エリーと呼ばれた女性は「これが仕事ですから」と微笑んだ。マルスは何らかの違和感を感じるがどうしてもその先へと行けないようで歯痒い思いになる。
「よそ見するなよ!」
飛んできたチャクラムを悠人がはじき返してマルスは救われる。ハッとしたマルスに悠人は「どうした?」と珍しく声をかけてくれた。
「何ともない」
「ッタク、だからいうことを聞けと言ったんだ」
マルスは少しの間考える。敵はチャクラム、大剣、大盾。大剣のタメ攻撃を盾で防いで放つ、チャクラムで牽制。敵の戦闘は読めた。マルスは剣をグッと握って問う島を見た。
「さっきの話、覚えてるか?」
「は?」
「仲間は捨て駒じゃないって話」
「それがどうした?」
その時にチャクラムが飛んできて不意に2人は離れ離れにマルスは舌打ちをしながら自分は月輪を相手するしかないと決める。東島に話したいことはまだあるってのに……マルスは歯痒い気持ちで月輪に斬りかかる。
悠人は悠人で大渕の一撃を夜叉で受け止めながらさっきの言葉を思い返していた。「お前にはそんな人間になって欲しくない」、そんなとは仲間を捨て駒のようにすること。大渕の一撃は迷いがなく、一撃一撃にかなりの力を込めて放ってくる。どうしてこんなにも必死になっているのか? 悠人は少し考えることになった。
そんな悠人に暇潰しかのように大渕が話しかけた。
「それにしても……あの子すごいねぇ」
「あの子?」
「君の新人さん。ウチの班はエリーが新人だけどそれとは違った熱意を感じる」
現在、マルスは月輪のチャクラムをなんとか対処しながら斬りかかりにいくがエリーの盾に阻まれてうまく攻撃ができていない。しかし、魔装の能力を駆使してなんとか壁を越えようとしていた。マルスは「新人殺し」の新人として入隊した。そしてほぼ自分の力でここまで生き残って現在も戦っている。それに対して自分は一回、人の死を見ただけで責任を問われるのが嫌になってずっと逃げてきた。新人にも意味のわからないアタリをチラシて何人も殺してきた。
ただ怖い、そんな理由で新人の扱いを雑にして魔獣にやられても「俺は関係ないんです」と言って逃げていた自分が情けなくて仕方ない。そしてそのことを忠告した新人のことを思い出す。彼がどんな境遇で生まれて育ち、この戦闘員に着いたのかは知らない。だが、彼の思考や戦いへの姿勢は楓が生きていた頃の自分にそっくりだった。
大渕は少し剣筋の緩くなった悠人めがけてタメ攻撃を振り下ろす。悠人はそれを夜叉で受け止めるがズシン…ズシン…と地面に足が食い込んでいき、身体中に圧力がかかりはちきれそうな痛みが走る。悠人は全身から汗を垂らしながら考える。
自分の仕事はなんなんだ? 新人に強くあたることか? 違う。言い訳で責任を逃れることか? 違う。班員の象徴になるのが自分の役目だった。「東島班」の象徴こそが自分自身だったことを思い知らされる。これでしつこくマルスが自分に言い聞かせていた言葉の意味を悠人は知った。新人が生きていても新人を殺すような考えの悠人自身が変わらないとこのレッテルは一生剥がれない。
もう限界を迎えたその先で死ぬわけなんて行かなかった。こんな班にでもついてきてくれて鍛錬を重ねた新人にいうことが沢山ある。班長として、1人の男として。そのことを実行するには……と悠人は剣道で鍛えた丹田に力を込めて腹の底からの叫びを上げた。
「マァアルゥスゥウウウ!!」
その声を聞いたマルスはハッとして大渕に蹴りを入れて悠人を助けることに成功。大渕は大きく体勢を崩すことになった。そして倒れている悠人に手を差し伸べる。マルスはこの時を待っていたのだ。
「助けて欲しいならサッサと呼べよ」
そう言ってマルスはフフっと悠人に微笑みかけた。それに対して悠人もヘッと笑って手を取り起き上がる。背中を合わせて3人の敵と対峙するマルスと悠人。
大渕の一撃をマルスと悠人の2人は流れるようにタイミングを合わせて受け止めた。その時にチャクラムが飛んでくるが悠人が防護壁を貼り、その凍った空気を月輪に纏わせることで一時的な拘束を実現させる。
「いづっ!?」
「そのまま凍ってろ」
そしてマルスは剣身をミサイルにように飛ばして爆破し、その衝撃で大渕を吹き飛ばした。そしてエリーがマルスの前に立ち塞がるがマルスは悠人と共にあえて角度を調整しながら盾に攻撃をする。相手の能力は攻撃を防いでその衝撃を返す能力。そのことを見破っていたマルスはエリーの盾の衝撃を利用して彼女のバランスを崩す。そして悠人が一時的な拘束を足に施して動きを封じた。
まずはパワーアタッカーの大渕を押し切る作戦である。そして大渕は最後のタメ攻撃を完成させていた。
「リャアアア!」
雄叫びを上げて斬りかかる大渕に悠人はルージュマンティスも同時に引き抜いてここに、炎と氷の二刀流が完成する。唸るような低温と高温の刀を悠人は振るい気圧の変動を発生させて大渕を上空に吹き飛ばした。そしてルージュマンティスを鞘に収めてマルスに向き直る。
「やれ、マルス」
マルスはうなづいて剣を構えて魔装を起動。高速で回転する剣身が勢い良く大渕の元へと発射された。盾にして防ごうとしたがそれを難なく貫いたマルスの剣は大渕の腹部に大穴を開けて光のカケラとなって消えていった。
「大渕さん!」
拘束が解けた月輪が叫ぶが時すでに遅し。チャクラムでエリーの拘束を解いてから「逃げなさい!」とエリーを逃す。
「背は任せた」
悠人はうなづきながらマルスを見る。それに対してマルスは首を縦に振って逃げたエリーを追っていったのだった。
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