戦ノ神の新約戦記

これは神より堕ちた戦ノ神の新約戦記
天方セキト
天方セキト

真面目な話

公開日時: 2020年12月21日(月) 21:55
文字数:2,827

「香織、慎也と優吾と合流だ」


「ここから近いの?」


「あぁ、いくぞ」


 マルスと香織はコンテナ地帯から抜け出そうと疾走を開始する。道は入り組んでいるがルートがしっかりと表示されているので特に迷わない。もう敵はいないと判断したがいつどこで遭遇してしまうかは分からないので彼らはなるべく速く移動をしていた。走っていると香織が話しかけてくる。


「悠人の報告通りのことになったね」


「あぁ……そうだな。それがいいとはいえないが……」


 マルスはあの作戦会議の様子を思い出していた。



「おとり? それを少数で行うのは危なくないか?」


 会議はマルスのその言葉から始まった。それを聞いた悠人は「確かにそうだ」と言いながらモニターに情報を付け加える。それは東島班の魔装一覧だ。マルスは既に閲覧済みの班員の魔装。そこに自分の魔装も記載されてることにどこかホッとしつつもじっくりともう一度みる。魔装には能力以外にもそれぞれの適合魔獣の写真も添付されており、初見でその姿をみたマルスはかなり強そうな魔獣達と適合をしているのだなと理解する。それをうつしながら悠人は話始めた。


「今回の相手は数で攻め込むレグノス班。規模で言えば俺たちは完全に負けているが一つだけ、俺たちが優位に立てる点がある。それは魔装の性能だ。レグノス班の戦闘員としての質は全班の中でもかなり高い。だけど……班員のほとんどの適合が量産型に近い下級の魔獣であるという弱点がある」


 魔獣には多かれ少なかれ強さの区分がされており、それは大きくして魔獣の能力と群れかどうかで決まる。一つ目の魔獣の能力、これはその通りの基準で能力が強力かどうかで評価が決まる。そして二つ目の群れかどうかということ。これは簡潔に言えば群れをなしている魔獣の方が一体一体の力量は弱いということになる。だから群れをなしているんじゃないかという話になるが重要なのは群れをなす魔獣は一体ごとで見れば弱いということだった。


「適合生物による身体強化の恩恵もその強さに依存するんだ」


 その話に待ったをかけるのはもちろんマルスだった。


「そうなれば蓮はどういうことなんだ? 軍隊鳥レギオンビジョップは群れで生息するんだろう?」


 写真を指差して意見を発するマルス。たしかに軍隊鳥の写真は群れをなして空高く飛び上がり強烈な蹴りを炸裂させる写真が記載されているのだ。そんなマルスに蓮が返答。


「あぁ、俺はちょっと例外でな。簡単に言えばリーダー格と適合したって感じなのかな? 普通だったら投擲に補正がかかるだけの投げナイフなんだが俺のはこの親ナイフへの適合もできたわけだ」


 懐からコンバットナイフのような形状の親ナイフを出して蓮は説明してくれた。機能の違う二種類のナイフを使う理由がやっと分かった瞬間だった。群れのリーダーとの適合は例外。マルスは理解する。リーダー格と適合するとその群れとしての量産型能力にリーダー独自の能力が上乗せされるそうだ。


「この班には上位適合者が4人もいる。俺と蓮、そしてサーシャと香織だ」


 悠人の銀刃鮫シルバーメガロ緋爪斬虫ルージュマンティス。蓮の軍隊鳥レギオンビジョップ。サーシャの海龍ブルードラゴン。そして香織の巨獣アトラス。これらの魔獣は強力な存在であり、それ故に身体能力への恩恵も高かった。


「ようするに適合生物の強さによって魔装の性能、身体強化への恩恵が変わるということ。そしてレグノス班の適合生物は全体的に弱いということだ。だから量産型のような魔装になってる」


 悠人の結論に「なるほど」と相槌を打つ班員たち。それでもマルスは待ったをかける。


「それはそうだが……むしろそのせいで班員全員が強くなったとも考えられるぞ? そんな性能差があるにも関わらず実力主義のここで人数というアドバンテージだけで3位に位置づいているんだ。余計に少人数で挑むのは危ないぞ?」


 結論づけた悠人にマルスの鋭い意見が返ってくる。確かにその通りでもあった。悠人自身にもよくわかっている。1番痛いところを突かれてしまったが彼はわかってる」と答えた。マルスの鋭い目に負けないほどの目力で説明した。


「確かにその通りだ。レグノス班は弱小適合者の強者揃いだ。危険度は高いが俺たちが勝ち残るには多少の危険な賭けも必要だと思う。俺たちならできるさ」


「お前、まだそんなことを……」


 マルスは呆れたような視線で悠人を見ながら舌打ちをした。そんなマルスに悠人は負けじと視線を合わせて声を上げる。もう文句を言うことは捨てた。理解してもらうにはこっちから必死に説明するしかない。


「俺はお前達とならできると信じている」


 マルスは反論しようとしたがグッと自分を見てくる悠人の目と覚悟を決めた顔を見ると今反論するのは少しやめておこうと圧を掛けられたかのように押し黙る。今は話を聞こうと思い、マルスは「続けろよ」とだけ答えた。


「本当にこの班ならできると俺は信じている。可能性を引き出すためには多少の賭けは必要だ。その小さなパーセンテージを広げるためには本気でぶつからないといけないと俺は思う。マルス、班長のレグノスは俺が引き受ける。どうだ?」


 マルスはジッと悠人の目を見た。負けじと悠人もマルスを見る。初めてかもしれない。彼からの提案に真面目に考えようとするのは。彼の目は綺麗な色をしていた。それに言葉の重みが一回戦と二回戦の時とはまるで違う。何も考えてないから故の作戦ではない、しっかりと考えた上で今話していることをマルスは気がついた。これが人間、これがリーダー。多少の危険な賭けも必要……か、とマルスは少し考えた後で、


「悠人一人だと危ない。複数人で行くべきだ」


 その答えに悠人は一瞬だけ嬉しそうな顔をして「蓮、隼人、頼む」とだけ言って二人ともうなづく形で作戦は決行したのだった。


 今までの一通りのことをマルスが思い出しているうちにコンテナ地帯を抜け出すことに成功。「もう……抜けたのか」と香織に視線を合わせながら呟く。長いようで短いコンテナ地帯だ。緊張のせいか自らの意識が時間を引き延ばしていたのであろう。肩の荷が一気に軽くなったマルスである。


「マルス、何考えてたの?」


「あ、あぁ……作戦のことを思い出してた」


「ヘェ〜、結構心配性なのね」


「そんなわけでもない」


「私は上位適合者だから安心してね」


 香織は可愛らしくウインクを決めてマルスに向き直った。明らかに場違いな空気を出してくるがなぜか香織に対しては怒らせてはならないと無意識が警告する。ウインク様子をマルスはずっと見ていたのだがその良さが全くわからずただ一言、


「そんなことしなくてもいいから……」


 とだけ答えた。


 香織はその言葉に一瞬、「え?」と返事をしたがマルスは何も言わなかったのでかなり意味深な返事だと受け止め、香織も何も言わなかった。そしてマルスと香織は慎也と優吾と合流する。慎也の腕と脚の傷はかなり落ち着いている様子で本人も「もう、動けますよ!」と立ち上がって見せてくれた。だが心配は拭えない。


「とりあえず悠人に連絡だ」


 合流したことを班員全員に連絡するマルスなのであった。

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