戦ノ神の新約戦記

これは神より堕ちた戦ノ神の新約戦記
天方セキト
天方セキト

対談の結果

公開日時: 2020年10月4日(日) 21:00
文字数:4,149

「人形とはどういうことだ?」


 マルスは唐突に言われた言葉に答えを見出せないでいた。自分が人形、それなら全く姿が一緒の目の前の自分は何者なのか? 急に規模が大きすぎる情報を言われて頭がパンクしそうなマルスにもう一人のマルスは淡々と話す。


『この剣に宿った石は本来の俺、目の前のお前は俺をコピーして作った人形なのだよ』


 自分が人形……。薬を飲まされてからの記憶は正直言って裁判の記憶しかない。そして理不尽にも追放されて今に至る。必死に思い出そうとしているマルスに剣のマルスは「思い出そうとしても無駄」と言った。


『お前、拷問の時に薬飲まされただろ?』


「あぁ……あのレモンと緑茶を足して割ったような……」


『味はいい。あれは回復薬だとお前は思っている。そうだろう?』


「それ以外何がある」


『あれは……回復薬じゃあない。いいか? 俺の話をよく聞け』


 そこから話された事は衝撃的なものだった。


 あの薬は回復薬ではない。ただの睡眠薬だったというのだ。どうして睡眠薬を飲まされたのか? それはエデンの仕事のためだった。その場で眠ったマルスと同じような個体をエデンは作り出し、睡眠中のマルスの精神を個体に移し替えたというのだ。そして元あったマルスの体は完全に消滅させられ、黒い石としてその場に残った。

 

 そこからは人形のマルスをずっと嬲り続けあの残った石は怪しまれることなくマルスの神殿へ配送されていたそう。そんなことを聞かされてマルスは体を震えさせながら返事をする。


「俺が……俺のコピー?」


『そうだな、そしてこの俺が生命核の本体。さっき猫から腕を焼かれたのにお前は平然としていられただろ? 体の作りがもう神でも人間でもないんだよ。強いて言うなら人形だ』


「待て、俺が人形だとして、どうしてあの爺さんは俺を人形にする必要があった? そして何故お前はそのことを知っている?」


 当然の疑問だ。体が人形だと言うことは何となく理解できるところがあった。周りの人間と何かが違う気がしたのだ。人間は人間側の神の模造品と言ってもいいほど作りが似ている。一応、人間側の神のような存在のマルスも例外ではない。なのに、あの猫の時は痛みは感じるが動きはできた。本来なら動けない重症だったのに。


『消される時に、偶然声だけ聞こえたんだ。都合の悪い存在は追放だってな。そして気がついたら俺そっくりのお前がいて、俺は石になってた。不幸中の幸いか、エデンは核の存在をよくわかってなかったな。まぁ、荷物に入れられてお前の元にいるわけ』


「あの石は魔獣でいうところの魔石、だから片手剣にお前が宿ったことで魔装を解放した。そういうことか?」


『そういう認識で間違ってない。そしてもう一つ、マルスという神にはある能力があるらしい』


「能力……、チェスをするとか?」


『違う、俺の役割に関係するもの。それが上の神は厄介だと思ったのか、人魔大戦の結果で都合が良かったから追い出した。そんなところだ。能力の記憶は消されているからわかんねぇ』


 整理すると、まずマルスには他の神が厄介だと思われる力を持つ。人魔大戦の時の報告で投獄されたのはそれの対策。睡眠薬で眠らされて、厄介さを抜かれた人形の体になる。そして追放される。本体は魔石として生き残っており、それが剣に宿って魔装となった。


「道理で適合生物が見つからないわけだ。人形の俺が適合できるのは本体の俺ってわけか?」


『その考えで間違いない。俺とお前は神から見たら厄介なものを持っていたというわけ。その力が何かはわからない、そこの記憶も抜かれているらしい』


「またその力を使う機会は来るのか?」


『それはわからないな。そもそも本当かすら怪しい程だ。まぁ、お前が人形だとしても仕事内容は変わらん。魔獣を討ってバランスを整える。それが今のお前の仕事。お前の力になるから頑張れ』


 自分にこんなこと言われるなんて……、ものすごく複雑な感情を抱いていた。これで追放の理由と自分の出生と魔装覚醒の謎がわかったわけだ。自分は人形であるが意識は神の自分。仕事の内容は変わらない。バランスを保つために魔獣を討つ。そう意識していると現実世界に戻ってきていた。


 ハッとして目を開けると慎也と隼人が心配そうに自分を見ている。隼人の隣には天野原と優吾がいるが涼しい顔でマルスを見ているだけ。


「疲れたのは分かりますけど、こんなところで寝たら風邪ひきますよ」


「あ……スマン。他の班員は?」


「魔装の手入れに行きました。あの方々の魔装は電撃で調子が悪くなったそうです。明日からリハビリ期間なので少しだけ余裕があります。今日は祝福の日ですよー!」


「マルス、ご飯奢るから飯行こう!」


 ウキウキの隼人と慎也に合わせて「子供だなぁ……」と呆れたような表情をしながらも「行くぞ、御飯時だから混む」とだけ言って案内する天野原。優吾は表情を変えなかった。

 

 マルスがついて行った先は大きな建物だった。居住区の中にある建物で大きな看板に「お食事処」と書かれている。ここは……食事の場所か? マルスは首を傾げた。


「日替わり定食だけどお金の心配はするな、ご飯はおかわり無料だぜ」


 何がそこまで楽しい気持ちをこみ上げさせるのか、隼人は舞い上がりそうなほどウキウキしてる。戸惑うマルスに天野原が近づいて一言、


「あいつの家は貧乏だったから、これくらいの食事でも嬉しいんだよ」


 その目は少し哀れみも入っていた。戦闘員になったという事はロクな人生を歩んでいないという事は想像できるが……マルスは一旦考えるのをやめた。建物の中はかなり広々と作られており、規則的に並んだテーブルと椅子が綺麗に置かれている。


「3人は席取っててくれ」


 隼人と慎也はお金を持って食事を受け取るカウンターへ走って行った。マルス達は6人がけの席を取り、人数分の水を入れる。慣れた手つきで作業する天野原にマルスは話しかける。


「自分でやらなくてもいいような気がするが……」


「いいんだ、これくらい。ほい、水」


 コンとテーブルにコップを置く天野原。マルスはその水をゴクッと飲む。かなり美味しい水だった。味なんかない事はわかっているのだが緊迫した激戦の後だったからか、渇いた喉を潤わせてくれた。


「マルス、だったよな?」


 不意に眼鏡の人物、優吾に話しかけられてマルスは頷いた。優吾は少しの間考えるような表情をしてからゆっくりと頭を下げる。マルスは少しだけ驚いた。


「さっきは失言すまなかった。俺は大原優吾おおはらゆうご、優吾でいい」


 そういえばまだ自己紹介してなかったな……。マルスは「あぁ」とだけ答えた。あの銃を連射した人物である事は承知済みだった。優吾は懐から一枚の紙を取り出した。


「班員の魔装一覧だ。把握しておいてくれ。俺はこれを見ないとうまく戦えないんだ。照準が合わせづらい」


そこに書かれている魔装を見てみる。


〜ーーーーーーー〜


東島 悠人…銀刃鮫シルバーメガロ緋爪斬虫ルージュマンティス

使用武器種…刀二刀流

夜叉鮫牙ヤシャコウガ…低温を操る

獄火爪ゴッカソウ…高温を操る


天野原 蓮…軍隊鳥レギオンビジョップ

使用武器種…12本の子ナイフ、一本の親ナイフ

饕餮刃アグニ…親ナイフと全てがつながっており、お互い引き付け合う性質を持つ。対象を自動追尾。突き刺さった相手は出血性の高い毒に侵される。


宮村 隼人…碧巨兵ガーディアン

使用武器種…ナノテクアーマー、結界

城砦結界ガーディアンスケイル…それぞれの関節部位にはめられたブレスレットからナノテクの鎧を装着する。また、結界を半径10メートルまでの範囲で張ることが可能。座標は問わない。


パイセン…合金獣メタルビースト

使用武器種…合金バット

多機能バット…本人はバットで通している。バットに多種多様の機械を同化させることが可能で、本人の意思でギミックを作動させる。改造は自由自在である。


サーシャ・エルフィー…海龍ブルードラゴン

使用武器種…三叉槍

三尾槍トライテイルズ…水を操る。空気中の水蒸気から激流を作り出す。水流の流れを変えて大波を起こす。水を纏って滑走する。と応用が高い。


関原 慎也…死針蠍デスストーカー

使用武器種…針(消耗品)

奇病針アストラルポインター…特定のツボを刺すことで様々な疾患を引き起こす。失明、脱臼、思考停止、etc……。


一瀬 香織…巨獣アトラス

使用武器種…大槌

星砕槌アースブレイカー…使用者の香織本人の機嫌で重さが変わり、香織の理性と引き換えに身体能力を向上させる。


大原 優吾…幻弾鷲バレットイーグル

使用武器種…二丁銃

双翼銃ツインハンター…知覚速度を上昇させ、目の色素が増え視力が上がる。銃弾を込める必要はなく精神エネルギーを弾にするので打ちすぎると極度の疲労。


〜ーーーーーーー〜


「天野原……蓮か……」

 

 実は知らなかった天野原の名前……思った以上に似合ってる気がしたのはマルスだけであろうか? 天野原改め、蓮はマルスの反応を横目にフッと笑う。

 

「呼びたければ好きに呼べよ」

 

 蓮は頭の後ろで腕を組みながら大きなあくびを放った。心の底からリラックスしているかのようなそのあくびは食堂によく響く。それから水をコクコク飲んで「あぁ……」と息をついている。


 そんな蓮を見ながら優吾は腰に下げた銃を見ながら話を続ける。


「見たらわかる事だが3発しか打てなかったのは俺の状況が悪かったからだな。銃弾は俺の疲労が溜まると打ち出せなくなる」


 香織が攻撃できなかったのも力に変換できる感情がなかったためである。クセの強い能力だが班の最終兵器と言った役割を担っているとか。紙をもう一度懐に直した優吾が口に出した。本当にアタッカー尽くしの班で生き残ったことにマルスは運が良かった……と安堵する。


 洞窟の時に石の自分を捨てなくてよかったと、あの時石を捨てていると自分は間違いなく猫に切り裂かれて死んでいた。それよりも東島の刀が二本のことをマルスは思い出していた。あの猫には一本、低温を操る夜叉鮫牙しか使わなかったから紅い刀の存在をすっかり忘れていた。


「優吾、東島の紅色の刀はどうしてあの時に使わなかった? 組み合わせれば強力だと思うんだが……」


「あぁ、まだ馴染んでないのに無理に使ってるんだよ。10秒もすれば悠人の腕は焼けてしまうんだ。詳しい事は本人に聞いてくれ、俺の口では言えないな」


 蓮もコクコク頷く。この班員は年齢が全体的に幼い。普通なら学校に行っているはずの人ばかりだ。どうしてこんなところで命をかけているのか……。マルスはそこまで考えたところで隼人達が近づいてるのを知り、切り替える。頭の中には先ほどの蓮の哀れみの視線が自分を追っていた。

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