戦ノ神の新約戦記

これは神より堕ちた戦ノ神の新約戦記
天方セキト
天方セキト

エリー

公開日時: 2020年11月30日(月) 22:04
更新日時: 2020年12月10日(木) 09:26
文字数:3,090

 草木を切り分け切り分け、マルスは逃げるエリーを追った。彼女は逃げ足こそは速くないが逃げ方がうまく、森であることを生かして様々な障害物を利用した逃げ方をするのでマルスも苦労する。急に方向を変えたり、盾を構えて茂みに飛び込んだりと逃げる中でふとマルスは過去の思い出が脳裏を横切る。草木の中を走っている自分がいた。今のような緊迫したものではなく、楽しそうに走る自分がいる。


 なんのために走っているのかは覚えてないが草木をかき分けて走った後に自分の目の前に振り返った人物がいて……。という時にエリーはようやく止まった。そしてスッとマルスの方へと振り返る。


「ここなら2人きりで話せるわね」


「話せる? そんな暇があるのか?」


 エリーはジッとマルスを見つめていた。マルスもエリーをみる。透き通るような白い髪の毛、緑色の目、白人特有の白い肌。鼻が高いことを見るに北欧系の女性と見て取れた。北欧系……どこか似ているところがあることをマルスは察する。口を動かさないマルスにエリーの方が口を開いた。


「貴方……名前は?」


「マルスだ」


 そのことを口にすると一瞬だけであるがエリーはブルリと震えた後に「本当に?」と聞き返す。マルスは「嘘をつく時じゃないだろ」と言い返すとエリーは盾に目をやって「そう」とだけ呟いた。今までマルスの目を覗くように合わせていたのにサッと逸らした後、俯いて自分の盾を見つめながらまた喋り出した。


「貴方がどうして戦闘員になったのか。私にはわからないけど……おんなじような理由でしょうね」


 マルスはマルスでこいつ……、何を言ってるんだ? と気持ち悪いようなイメージをエリーに感じた。さっきの話を聞くにエリーは稲田班の新人枠。戦闘員歴は自分と同じように浅いように見える。さっさと終わらせて仲間と合流した方がいいと判断したマルスは剣の肢に手をかけた。


「とにかく、終わらせるぞ。無駄口を叩く暇はない」


 マルスが剣を構えるとエリーも盾を構える。そして普段は絶対に使わないが腰にかけた一般装備の片手剣をゆっくりと抜いた。


聖衣貝マリアパール


黒戦剣ソウルキャリバー!」


 マルスは剣を抜いてエリーに斬りかかった。勿論だがエリーは盾で受け止めてから剣を使って攻撃してくる。それをマルスは受け止めて空を飛び、上からエリーを串刺しにしようと剣身を勢いよく伸ばした。その時にエリーの能力が起動。青白い膜のようなものが盾を覆い、マルスの一撃をかき消した。キュワァアア! と音を立てて無効化させたエリーは動揺するマルスめがけて剣を振るう。


 マルスは身を翻して一旦距離を取った。


「それがお前の能力か。無効化か……通りで大渕のタンクになれるわけだな」


「貴方も珍しい能力ね。そんな能力を持った魔獣はこの世に存在していない。どこで魔石を覚醒させたのかしら? そもそも、そんな魔石をどこで手に入れたの?」


 何かがおかしいとマルスは違和感を感じる。佐藤達研究員やレイシェル達のような反応ではないことに違和感がました。どうしてそんなにも悟るように話すことができるのか、と。


「そういえば……お前、名前は?」


「エリーよ」


「お前は何者なんだ? さっきから聞くに新入り戦闘員の割に俺の魔装のルーツを見破ったよな? それに対する違和感が拭えない」


「わからないの?」


 エリーは呆れるような顔でマルスを見るがこんな女性に出会った記憶はマルスにはなかった。ただ、彼女を見ると神の頃の残された少ない記憶が頭の中で踊るように繰り広げられる。それだけへの違和感しかない。本気で分からない表情をするマルスにエリーは眉にシワを寄せて尋ねる。


「私と貴方は同じはずよ?」


「は?」


「それだけ言っておくわ。あとは自分で考えてね」


 さっきから意味深な発言だけを行うエリーに嫌気がさしてマルスは斬りかかりに行った。今度は蛇腹剣にしてリーチの読みづらい攻撃を行う。これならどのタイミングで盾を構えればいいかなどはわかりづらい。マルスはそう勘繰って蛇腹剣による攻撃をエリーに繰り出した。


「蛇腹剣、古代中国により考案された鞭と剣を融合させた武器……」


 エリーの呟きにマルスはまた神の世界の光景が脳裏を横切った。自分は神殿のいつものところでチェスをして戦争を進めていた。たしかその時は中国の戦争である。その時に自分に「この武器は何?」と尋ねてくる者がいた。面倒であるがいちいち説明している自分の姿が一瞬目に映る。

 

その時にマルスはエリーに盾で顔面を殴られて吹っ飛ばされた。鼻血をブッと吹き出して全身の関節がミシミシと音をたてる。単純に盾で殴られただけなのだがかなりのダメージを与えられることに舌打ち。やはり魔装を使った対人戦では油断ができない。


「マルス、もう一度聞くけど……わからないの?」


「何がだ?」


「私のこと」


「これで最後だ。お前とは会ったこともないし名前すらも知らなかった。いいな?」


 それを聞くとエリーは空を見上げて舌打ちをした後にマルスにとっては聞き捨てならんことを呟いた。かなり小さな声だったので一部しか聞き取れなかったが「あぁ……そう」、これだけしか聞き取ることができなかった。マルスにとっては違和感以上のものを感じるぼやきだった。まるで過去の自分を見ているようだ。エデンや他の神の愚痴をこぼす自分の姿に。


 チャンスと見てマルスは立ち上がってエリーに斬りかかるがそんなことわかっていたかのように盾を構えて一撃を無効化する。そしてマルスは盾との間めがけて剣身を飛ばして起爆させた。音を立てて爆発する剣身を見てマルスは勝ったと確信する。剣はエリーと盾の間に位置する地面に刺さった瞬間爆発したのでエリーの盾を通過して攻撃は当たるはずだとマルスは考えていた。


 しかし、エリーは傷一つなく燃え盛る炎の中を歩いて現れた。マルスは信じられないと体を震わせる。爆発はエリーを飲み込んだはずなのに……火傷もかすり傷もなかった。服に焦げ目すらついていない。無傷のエリスがそこにいる。


「残念ね。でも……剣が折れちゃった」


「な……お前……」


 マルスは動揺しながらもエリーに突撃した。感情に任せて斬りかかるがエリーの盾は音を立てるだけでなんの影響をきたさない。エリーはエリーで「かわいそうに」という意思を込めて盾で殴り飛ばした。マルスは頭から血を流して吹っ飛ぶ。


「グフォア……」


 全身がクラクラする気持ち悪さに耐えながらマルスは立ち上がった。ポタポタと血が頭から流れてマルスの意識を遠のかせていくが彼はグッと堪えた。


「まだ……動けるぞ」


 マルスはそれだけ言ってエリーに斬りかかりにいった。ここで自分の意思を見せつけたかった。やっと悠人が自分のことを認めてくれたんだ。ここで負けて終わるのは彼に申しわけがなかった。その時にマルス自身も驚くギミックが発動する。剣に赤黒い線が出来上がりモヤモヤとした赤黒いオーラのようなものが出来上がった。剣を振っている時に突発的に生み出されたそれはエリーの盾を真っ二つに切り落とす。


「何ですって!?」


 驚きを隠せないエリーにマルスは「こっちのセリフだ」と思いながらもエリーの腹部に剣を突き刺した。盾を失ったエリーは剣に貫かれて血を垂らす。そしてマルスの方へと向き直り、


「……次は……」


 とだけ言ったが時間切れなのか、パシャアと光となって消えていった。


 剣を振り払って血を落としてからマルスは黒戦剣をジッと見る。さっきのような赤黒い線は知らないうちに消えていた。


「一体、どういうことだ? この剣は……」


 と考えているとパイセンからの通信が届いた。そしてミサイル砲の位置が分かったと言われてマルスは急いでその位置へと向かっていったのだった。

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