「……これも記録するんですか?」
明るい電灯が白く輝く部屋の中でタブレット端末を動かす一人の人物が声を上げた。ピッピと音を立てて起動していく音を聞きながらもう一人の人物は「あぁ、頼む」とだけ口にする。もう一人はかなり慣れたような口調かつ作業を黙々と行っていた。キーボードのついたコンピューターにプログラムのようなものを書き込んで画面いっぱいを緑色の文字で染めていく。
その視線の先には全身を鎖でつながれた獅子のような姿をとる魔獣が台の上でもがいている。魔獣は自分を絡める鎖を噛み切ろうとするがその鎖は全く切れないどころか自分の体力を吸い取るように奪っていくので徐々に弱っていく体に焦り、呼吸を荒くし始めた。
「その鎖は絶対に外れない。諦めて横になるんだな。目覚めたお前が悪いんだぞ」
プログラムにうたれた通りに遠隔で作動するロボットアーム。何本かのアームは音を立てて魔獣の腹を覗き込むように動き回り、カシュンと音を立てて取り出したレーザーメスで腹を一気に切り開いた。
「ルァアアアアアアン!?」
レーザーの熱で出血は極限まで抑えられているが鉄臭い臭いと魔獣の叫び声が部屋を駆け巡る。魔獣の周りにはガラスケースのような囲いがあるのだがそれを通過するような苦悶の叫びを聞いて記録を取っていた人物は顔を少し歪めた。
「あんまり……見てても楽しいものじゃあないですね」
「ちゃんとビデオは撮ってるだろうな? これは俺たちの進歩のためなんだ。進歩には犠牲を伴う。それをこいつらが行ってくれるだけ」
「まぁ……はい」
メスによって体の内臓がグチュリと音を立てて取り出される。体から溢れた腸がビックリ箱の仕掛けのように飛び出したと思うと魔獣の叫びは徐々に無くなっていき、目から大粒の涙のようなものを垂らして死んでいった。そして次のプログラムである内臓の解析を行う。緑色の光でスキャンされた内臓の遺伝子データをコンピュータに図示していったが一人の舌打ちだけが響く。
「あ〜、こいつは遺伝子がダメだ。独特すぎて応用が効かないな」
「凶暴であることは我々にとって都合が良かったのに……、残念です。シンプルな魔獣の方がいいってことですよね?」
「そうだな。凶暴といえば……あのイリュージョンフォックス、亜人の仕業だったらしい」
「聞きました。レグノス班は全滅、稲田班は半壊した出来事ですよね」
彼らの話をよそにロボットアームは死体から魔石を取り出して倉庫に送るベルトコンベアーに乗せてから飛び散った内臓の後始末や掃除を行い始めた。モップでワシャワシャと洗っていくのを見ながら彼らはため息をつく。
「また、あの新人殺しが撃退したそうだ。あの若いやつらは一体、何でできているんだろうな。驚異的だ」
「ですね。あ、データ作成できました」
タブレット端末をコードで機械につないでそのデータをメモリーカードに移行させる。音を立てて移行されたメモリーカードを大事にケースに入れてからフゥ〜と息をつき、二人は座椅子に座った。今日の実験が終わって思考も体も限界なので身体中がビキビキと音を立てる。
「疲れた……。とにかく、新人殺しが驚異になる前にこの実験を終えないといけないな。まだまだ魔獣は沢山いる」
「もうかなりの種類を試しましたがね。これだと出来上がっても種類が望めないですよ」
記録した人物の話を聞きながら次の魔獣にピックアップを行おうとしたが本当に思考は限界らしく、思ったところで意識がフリーズしたので今日の仕事はこれまでとする。椅子から立ち上がってすっかり綺麗になった台を眺めながら帰る支度をした。
「そういえば、こいつらを使って何がしたいとかあるんですか?」
急に聞かれたこの質問に驚きつつも記録人物に「あぁ」と答える。
「あの人からの命令には逆らわないほうがいいだろ? それに成功すれば俺たちの権力も金ももらえる。それだけだ」
そういいながら「戸締りは任せた」と言って部屋を出て行った。一人、任された人物はドアの前に立ってふと台へと視線を向ける。そこには綺麗にはなったが数多の魔獣の血を吸って薄汚れてしまった台があった。「ふん」と息をして灯りを消し、部屋を出る。そこには実験の失敗で貼り付けにされた魔獣の毛皮だけが気味悪くい続ける不気味な部屋だけが残っていたのだった。
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