目の前で音を立てて燃え盛る炎を見てマルス達は荒い呼吸を整える。自然の炎ではなく、薬品のような匂いの混じった炎。その場の空気を熱で包み込んでマルス達の呼吸を蝕んでいった。徐々に息苦しくなるのはゴメンである。大きく息をする。火薬の匂いでむせた。
退路は完全に炎によって阻まれており、脱出は困難。炎の中に飛び込めば脱出はできるかもしれないが……そんな危険な賭けに出るほどマルスは馬鹿ではない。それに自分と背中を合わせて周囲を確認する仲間達もそうだ。マルスの他に、香織、隼人、蓮、慎也がその場に居合わせた。悠人がわけた小チームで歩いていると広々とした交差点へと抜けて目の前を炎で覆われたのだ。
「囲まれた……な」
蓮の呟きに全員が頷く。炎は退路だけを塞いでおり、交差点に面する建物ごと燃やし尽くしている。明らかに相手は自分たちを逃すつもりはないようだ。それもそう、でなきゃこんな囲い込み戦法を展開するはずがない。
マルスはゆっくりと剣を抜いて構える。それに呼応するかのように全員が魔装を構えた。
そのときである、交差点の炎の中にある建物からゾロゾロと敵が現れるではないか。マルス達はハッとして敵を凝視する。武器を構えて余裕面をかまして自分達に襲い掛かろうとしている敵達を見てマルスは完全にハメられたと自分の行いを後悔することになる。
あの時にもっと用心をしておけば……、しかし後悔しても、もう遅い。今は必死に考える。どうすればこの炎の牢獄から抜け出すことができるか。どうすれば自分達は生き延びることができるか……、助けはどう呼ぼうか……。
亜人との戦闘とはまた違った緊迫感での思考を開始する。炎の熱は辺りの温度を上昇させていきマルスの体から汗が滴る。緊迫感が生む冷や汗と高温によって生み出される汗が混じって嫌な気分になるがそんなことを考えている場合でもない。
敵の武器を確認するとパイプのような鉄製の棒、メリケンサックなど近接武器。今この場にいるメンバーで距離を保って戦えばなんとか勝てる。今はこの目の前の敵達を倒すことを考えよう、マルスはそう決心した。
「いいか、全員距離を保て、相手は近接武器だから中距離を保てば勝てる相手だ」
全員が頷いてマルスは魔装を起動しようとすると、突如として赤い閃光が香織の眉間を貫いた。ハッとして全員が香織の方へ向き直ると、どこからか現れた一筋の赤い閃光が香織の急所を撃ち抜いた後だった。
「香織!!」
香織は返事をしなかった。
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