「おっと……」
「ここは……」
「やっぱりテレポートしたな」
ここは香織班、先遣隊を追って道を進んでいると路地の中にあった建物の中に入って見失っていたが部屋の中にあったお札を発見して触れるとこの今現在の建物まで瞬間移動している状況だった。
「ここは……別の建物ですね。マルスさんの憶測はビンゴというわけですか」
「その通りだったな。あの札はワープするための中継地点というわけか」
マルスは脳内で今まで起きた状況を整理する。先遣隊を追うためにサーシャ達と分かれる。元の道に炎の壁が出来上がって戻れなくなる。それでも敵を追っていると建物の中に滑り込む。自分たちも乗り込んだが敵はいなかった。そうであったがお札を発見。現在はテレポートしてきた。
「マルス、このテレポートは逃げ道みたいなものかな?」
「そうだと仮定して……ここらの建物には札が貼られている可能性が高い」
「アリの巣みたいですね」
慎也がそういった例えをしているとヴォッという音と共に背後に気配がする。マルスは剣を引き抜いて斬りかかろうと振り返ると……、
「ウワッ! ビビるぜマジで」
「隼人?」
何と同じお札から隼人と蓮がヒョッコリと出てきたのだ。絶対にありえない。隼人班は悠人班と一緒に左側へと言ったはずだ。それは隼人班も同じ思いだった。
「隼人、どうしてここにいる?」
「えっとなぁ………」
隼人は今までの経緯をマルス達に説明する。何と隼人班も自分たちと酷似する展開を話していたのだ。それを知った瞬間、マルスは「これこそが敵のシナリオだったか?」と思考を再開しようとするが今度は本当の殺気を感じた。先ほどまでマルスが追いかけていた先遣隊2名と見たことのない2名が自分達に襲いかかってきたのだ。
「あ、見つけたぞ!」
隼人がもう2名に対して吠えているので恐らく隼人達が追っていた先遣隊は彼らであろう。これで嫌な予感が的中してしまった気がしたがマルスは剣を抜いて斬りかかった。
クナイ男はマルスの剣を受け止めてスラリと流し、マルスの体勢を崩す。しかし崩したところで剣先が敵の喉元を向いているのを確認したマルスは剣身を槍のように鋭く長く伸ばして串刺しにした。
パシャンとクナイ男は消えていく。マルスが振り返るとナイフ男が自分に斬りかかろうとしてきて急いで迎撃をしようと剣を構えたがゴキッとナイフ男の首がありえない方向に曲がって消えた。
「ありがとな、慎也」
「後ろは気をつけてくださいね」
指の間に針を器用に挟んでいる慎也が少々呆れ顔で答えた。残りの2人も蓮と隼人が倒して一旦平穏が訪れた。一旦、建物を出ようとマルスの言葉で出てみるとそこはなんと中央交差点に隣接する建物だった。
「ここは……通らないはずだったのに……」
香織は声を上げる。知らず知らずのうちに誘導されている可能性が浮上。マルスは敵の行動を見てこれが敵のシナリオだったと判断した。
「あの先遣隊は情報収集が目的じゃあない。ここへ数人をおびき寄せるオトリだったんだ」
「マルス、たしかに敵の行動は不自然だがお札はワープさせるものだろ? 偶然、交差点だったとか……」
「蓮、あいつらは通信機を使ってない」
蓮は一瞬考えた後にハッとした顔になった。たしかに通信機を使っていなかった。情報収集が目的なら常に通信機は起動させておくはずだ。しかし、あの先遣隊はただ逃げているだけだった。自分達の魔装を確認すると通信機をすぐに起動するだろうに……。
「できなかったじゃなくて始めからそうする気がなかった……。この札のワープも待ち伏せのためや逃げるためじゃなくて俺たちをここへおびき寄せるための……」
蓮が振り返って壁を見るが先ほどの戦闘に巻き込まれたのか、お札はもう破かれていた。すぐにマルスに向き直る。
「炎の壁は俺たちをルートから外さないようにする牢獄だったってことでもあるんじゃ……」
香織の言葉に全員が緊張感を隠せない様子でいると突然、交差点に大声が響き渡る。みると前方の三階建てショッピングモールの屋根の上に人がいた。
赤い髪をしており、黒のジャケット、ズボンそしてガスマスクのような被り物をしている。素顔は分からないが大袈裟に手を振って上から見下ろす様を見てマルスはあの開会式で余裕をぶっこいていた赤髪の男性だと判断がついた。
「ハーハッハー! かかったな、お前らぁ! 俺たちの罠にぃ!」
感に触る喋り方だな。マルスは屋根の上から自分達を見下ろす赤髪に対して舌打ちをする。赤髪は自分ペースでネタバラシを始めた。
「ここまでの道のり、ご苦労っさん! 俺の名はミスタァアア、フランメ!!! お前達を分断した炎は俺の魔装である火炎瓶の能力よ! 俺を殺したって構わず一時間は燃え続ける代物だぜぇ〜? そしてぇ! お前達はここでおしまいダァ!」
Mr.フランメたる人物が指パッチンをすると交差点の周りの建物からメリケンサックや鉄パイプのような魔装を持った敵がゾロゾロと出てくる。
かかったな……、マルスは舌打ちする。あのフランメの能力は起爆した地点に一時間は燃え続ける炎を出現させる能力といったところか。どうりで都合よく炎の壁が出来上がってルートを制限できていたものだ。マルスはここで理解した。完全に敵の手のひらの上で転がされていた。
「撤退だ」
「そうはいくかよ! 火炎蜥蜴!」
フランメは両手に握られた火炎瓶を起動させ、マルス達の周囲に起爆させて炎の牢獄で囲い込む。しまった!と思った時には退路を全てたたれていた。炎の壁の中にある建物から歩いてくる敵、もう絶望的であった。
「それではぁ! 一時間耐久チャレンジ、スタァトォ!! ハーッハッハー!」
全員がやられた……と絶望する中で急にフランメの声が聞こえなくなったことに違和感を感じた。フランメをみると全身に黒色の刃が串刺し状態になって絶命している。
蓮はまさか……と思い、マルスをみると周りに衛星状に浮遊する刃を操ってフランメを屠っていた。マルスは蓮の視線に気がついてどうってこともない顔で「何か?」とと言った顔をする。
「隙だらけだったからな、何か問題はあったか?」
「いや……よくやった」
北欧出身のマルスにはヒーローのお約束は通じないか……。蓮はマルスはこういうやつだし、と片付けておいた。パシャンとフランメが消えた瞬間。前方から声がする。
「まぁ、あいつはいつもあんな感じだからね。でも、どの道あんた達はおしまいだよ!」
慎也は相手の姿を見て「ゲェ……」と声を漏らした。縦巻きツインテールの髪型、露出の高いボンデージ、濃い化粧にどこかお嬢様をイメージさせる喋り方。右腕に持っている鞭。
女性は胸を張ってマルス達と対面する。揺れる胸を強調させるような露出のボンテージは特徴的だ。おそらく、若く見せようとしている。マルス達にはバレバレだった。
「フン、あたしは嬢ヶ崎寧々よ。お前ラァ、やっちまいな!」
鞭を地面にパシン! と叩きつけて臨戦態勢に入る。マルスは辺りを見渡した。ゴウゴウと燃える炎の牢獄、迫り寄ってくる敵、絶望的だ。
「囲まれた……な」
蓮の呟きに全員がうなづいた。色々な後悔が募るがマルスは声を上げる。
「いいか、全員距離を保て。相手は近接武器だから距離を保てば勝てる!」
そう声にあげた瞬間、赤い閃光が香織の眉間を貫いた。パシャンと消える香織、マルスが振り返った頃には香織の姿はもうなかった。
「香織!?」
「嘘……だろ?」
その時に悠人からの通信がマルス達の元に届き、隼人が声を上げた。
「大変だ、香織がやられた!」
『香織ちゃんが!?』
サーシャの驚く声が聞こえる。通信機は全員と繋がっているのでマルスは予想を立てながら現在の状況を説明した。隼人班と合流してしまい、中央交差点で炎の壁に囲まれて抜け出せないこと。香織が赤い閃光、おそらくスナイパーに狙撃されてやられたこと。スナイパーの所在は不明であること。
「悠長に通信してる場合かい! 伸縮植物」
寧々が鞭を波打たせて攻撃してくる。マルスの蛇腹剣と違って寧々の鞭はどこまでも伸びるというリーチを問わない鞭だった。慎也は背後に避けるがその背後にいたパイプ男の一撃を喰らう。
「っでぇ……!」
痛い、バーチャル空間であったが骨の髄から痛む攻撃に頭の中が真っ白になった。その時に赤い閃光はマルスに牙を向く。マルスめがけて飛んできた赤い閃光、彼は咄嗟に気がついて頰をカスル程度で抑えることができた。慎也はパイプ男には針を打って肩を脱臼させ、怯んだところへ首をへし折って脱出する。
「いい考えがあるぜ? みんな!」
突然、隼人が動きを止めた。
「何してんだ!」
蓮が声を上げると隼人は全方位の結界を張って飛んでくる閃光を跳ね返そうとした。これで攻撃を防ぐのか、蓮が一瞬ホッとすると赤い閃光は隼人の結界をまるでそもそも存在していないかのように貫通して隼人の急所を撃ち抜いてしまう。
「ハヤトォオオ!」
蓮がすぐに隼人の元へと近づく。頭ではないが急所を打ち込まれており、もう手遅れだった。しかし、隼人の口が動いており通信機をよく聞くと……、
「スナイ……パーは……中央交差点の……東側高……層ビルだ……。後は……任せたぜ」
隼人は消えていった。そして全てを理解した悠人の「わかった」という声を聞いて通信機は途絶える。蓮はここで理解した。そもそも、弾く気なんてなかった。自分を犠牲にスナイパーの所在を知らせようとしていたんだと。
蓮はグッと拳を握る。
「こんなところで……壁を全うするんじゃねぇよ……」
「蓮、こっちきて手伝え!」
マルスの声に従って蓮はナイフを掲げた。起動させる声はいつもと違ってなんらかの決意を込めた力強い声だった。
「軍隊鳥!」
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