マルス達は討伐対象の魔獣と戦闘していたわけだがその時にレイシェルからの連絡が来て研究所への亜人襲来を知った。攻撃を回避しながらの通信は戦闘演習で培われたフットワークでなんとかできるようにはなっている。幸い、戦闘している所は事務局と距離が遠くない森林地帯だったので福井班が到着。先程入れ替わったばかりだ。
「どういうことだ、悠人。どうして研究所に亜人が襲撃してくる?」
「レイシェルさん曰く、何か重要な情報があるらしい。電波が途切れてよく聞き取れなかった。まずは研究所へ急ごう。研究員だけだと亜人には歯が立たない」
必死に森林地帯を走り抜けながら悠人は隣を走るマルスに話す。マルスもコクリとうなづいた。悠人も冷静に考えるようになって安心だ。それにしてもどこか妙だった。人間を叩くという亜人の目的上、研究所という組織を叩くよりも厄介者である自分達を叩いてもいい気がする。奴らがそんなに回りくどい方法を取るだろうか……。
「研究所……前から怪しいとは思っていたが何かあるんだろう。ッチ……亜人は知っていたということか」
マルスは入隊時から研究所の所長。小谷松のデロリとした笑顔を見ている。どこか不気味で後味の悪い笑顔、マルスは何か企んでいると察した。証拠も何もない、ただの第一印象な訳だが今回の件で本当に何かあるに違いないと悟る。その情報をなんらかの手口で知った亜人はそれを破壊しに来たに違いない。
「悠人君、亜人は何人?」
「二人だ。現在は研究所ロビーに一体、中央部に一体いるらしい。新手がくる様子はないが戦闘不能者は多数……急ぐぞ!!」
悠人の話に深刻な顔つきをするサーシャ。槍を掴む手がギュギュっと音を立てる。その後ろを走るパイセンは何か声をかけようかと思ったが首を振るようにして取りやめ。なるべくサーシャから離れないようにしようと決心した。
そんな調子で疾走して森を抜けたマルス達は民間人を刺激しないように気をつけてつけながら移動する。連絡を受けた警備班が街中にサイレンを鳴らし、民間人の避難を開始した。急に鳴り響いたサイレンに対して驚きつつも高層ビルの間を蹴りながら移動する戦闘員を見て移動を開始する。
「おい、野次馬! 写真撮るんじゃねぇ!!」
「うっせぇよ、隼人。そんなこと民間人に言っても無駄だ」
「あぁったよ」
舌打ちをしながら移動する隼人。民間人からしたらこの光景は珍しくて仕方がないのだろう。任務が終わってからSNSを開くのが怖くなった隼人である。そんな隼人を横目に来るべき亜人の戦いに覚悟を決める蓮。それぞれが覚悟を決める。悲劇が起きたのはもう数ヶ月ほど前の話でもあるがアレだけの強さがあることは今にでも蘇る。
「そういえば……配下みたいな魔獣は見当たりませんね。警備班は一応避難させてますが……」
「そうだな。奴らは二人で研究所を襲撃。多人数で行くような用事ではないということか?」
「そうだとしたら何でしょう……。研究所に大事なものがあるとしたらまさか奪還?」
「その可能性もある。どのみち戦闘は避け切れないぞ、慎也」
「は、はい……!」
優吾と慎也の会話。これが合っていると亜人は研究所にある重要な物を奪いに来たということになる。奪還が目的なら少数で十分だ。何を盗もうとしているのか、それを盗んで何があるのかはマルスも判断ができなかった。考察を進めながら移動し、研究所へ到着。
「いいか、やむを得ないが二つのグループに分ける。俺、マルス、香織、慎也、優吾はロビーだ。残りは中央部を頼む」
「分かったわ。悠人君、気をつけてね」
「お前もな」
サーシャ達はうなづいて破壊されてる研究所の壁から中央部に侵入していった。マルス達もロビーへ急ごうとするとその時だった。凄まじい衝撃音が鳴ったかと思うとロビーへつながる入り口の自動ドアがガラスごと弾け飛び、一人の研究員が吹き飛ばされてきたのだ。
「大丈夫ですか!?」
悠人はすぐに近づいて研究員を見る。その研究員は悠人達を見ると安心したのか、フフッと笑う。悠人は研究員の腹部から出血していることを確認し、夜叉の冷凍を行い止血を試みた。
「何があったんです? これは……」
「あ、亜人だ……。私の部下は全員戦闘不能……でも生きている」
「分かりました。ここで待っててください。すぐに助けに行きます」
悠人は男をあまり目立たない所に隠してマルス達を呼び、研究所の中に侵入していった。一人、取り残された男。荒張は嘘のように止まった出血を見るのと同時、都合よく東島班がこの状況で到着したことに嬉しく思いもう一度笑う。こっそりと小谷松に連絡を取った。
「所長……現在東島班は……ッグ……フッ……到着です……」
「そうかい。随分君もやられたようだ。それにしても今とはねぇ……。都合がいいよ」
「それでは……?」
「あぁ……私の魔装の出番がやってきたぞ。これは面白いことになる……!」
小谷松は通信機越しで笑っていた。荒張もニタっと笑顔を取った。研究員の勝利宣言である。どのみち東島班は死ぬ。亜人の餌食になるか、改造兵器の餌食になるか。あるいはその両方か。
「強制機能停止因子の発動さ……!」
スイッチを押す音が通信機に響き渡り、小谷松の笑い声だけが不気味に響いていた。過去に小谷松が自分に反発をされないようにとほとんどの戦闘員の魔装に入れ込んだ代物だ。今日ほど使うべき日はない。幸運は小谷松に微笑んだのだ。
悪夢は始まろうとしている……。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!