戦ノ神の新約戦記

これは神より堕ちた戦ノ神の新約戦記
天方セキト
天方セキト

隻眼の怪鳥

公開日時: 2020年10月18日(日) 21:16
文字数:3,116

「来たか、天野原、宮村、パイセン」


 対空砲へ向かった彼らを出迎えたのはレイシェルだった。ここは戦闘員支部を囲む壁の一帯、この壁には非常用の対空砲が内蔵されている。レイシェルはこの対空砲を起動するのはかなり久しぶりのこと。


「レイシェルさん、貴方が動かすんですか?」


「あぁ、私と佐藤率いる研究班だ」


「あのぉ、一個だけもらってもいいですか?」


「ダメだ、パイセン」


 バットを掲げてニッコリ笑うパイセンにレイシェルは冷たい顔で言い放った。こんなもの、一個立てるのにいくらかかってると思う。レイシェルは呆れはてながら対空砲へと向かっていった。そしてその場にはグスタフが残る。


「皆さまの手伝いをすることになりました。グスタフです」


 蓮は丁寧に挨拶をされたが正直言って「こんな人いたっけ?」と少し反応に困ってしまう。ぎこちなく「ど、どうも」と挨拶だけをする。基本、グスタフは裏方の仕事にまわるので、戦闘員と顔を合わせる機会はない。今日は特別な日なのだ。


「いい夕焼けだ。今日は思う存分に体を動かせる」


 それだけ言って腕を背中で組んでいるグスタフ。その時である。鳥の鳴き声が聞こえて目の前に瞬間移動してきた。隼人が結界で包み込んで圧縮し、粉々にする。


「来たぞ、対空砲起動!」


 レイシェルの号令に合わせて壁が開いていき、立派な砲台が姿を現した。こんな兵器は蓮達はみたことがない。戦闘員にこんな兵器があったのか……。圧巻しているとグスタフが声を上げる。


「私たちは遊撃です。大砲には気をつけてくださいね」


「あぁ……、はい」


 蓮は返事をすると魔装を起動し、ナイフを投げる。空を切るナイフは鳥達の顔面に刺さっていき、吹き飛ぶ血飛沫が雨となる。引き寄せをうまい具合に使って空中にナイフを滞在し続け、鳥を切り刻んでいく。1匹、蓮のナイフを回避して急降下してきた鳥がいたが蓮のナイフが戻ってきて切り刻んだ。羽が切り落とされ、地面に墜落してもがく鳥を適当に処理しする。


「数が多いな……」


「言ってる場合かよ」


 肩に担ぐバットをロケットランチャーのようにして数々のロケット弾を打ち出すパイセンは返事をした。パイセンにとってはこの任務で頑張ったら臨時収入が貰えるかもしれないと思って必死だった。あの時、エリスの時に馬鹿なことを言った自分が憎い。どうして正攻法で戦闘員になったサーシャにあんな喧嘩をふっかけたんだ! 一ヶ月は給料が持つかはわからなかった。


 故に彼は血眼の目で攻撃をする。彼の頭の中は今、「金」の一文字に限る。もう彼の方が魔獣じゃないかと思わざるを得ないが蓮は「あっそう」だけ言ってナイフを投げた。


 その時、鳥の中から一際大きな個体が現れた。周りの鳥とは明らかに違う大きさで一回り大きい。そして右の目は縦傷が入っており、潰れていた。


「なんだ、あいつ……」


「隼人、リーダー格じゃない?」


「いや、毒怪鳥のリーダーなんて聞いたことないぞ」


 リーダーの隻眼は眼下の隼人達を観察する。対空砲の大砲に気をつけながらだと倒せる相手を見極めていた。その時にズカズカと歩いてくる一人の男性が目に入る。


「私が相手だ」


 グスタフだ。彼は余裕を持った表情で隻眼と対峙した。


「他の皆さんは邪魔な鳥を倒してください。あの隻眼は私が殺す」


 最後の殺すの声がかなり低くなっており、グスタフに眠る狂気が目を覚ましてきていた。彼は両耳にしている宝石がついた耳飾りをピンと指で跳ねさせてから魔装を起動させる。


気龍スピリッツドラゴン


 隻眼は雄叫びを上げて部下を引き連れて攻撃を開始する。その時である。グスタフの体から人型のモヤモヤした何かが姿を現した。その何かは人型の龍のような姿をしており、所々にトサカを持った美しいドラゴンだった。これがグスタフの魔装、「気龍スピリッツドラゴン」である。


「さて、やりますか」


 グスタフの合図に従って気龍はグスタフの体と自身の体をつなぐ。するとグスタフの体から気流のようなオーラが溢れてくる。


「とばしますよ」


 そういうとグスタフは跳躍して鳥の大群の中に突っ込んでいく。しかし、気龍が腕を長くして旋回することで鳥は切り裂かれ、落下していった。そして空中で静止する。


「来なさい」


 指で合図をして隻眼と一騎討ちを始めた。グスタフは空の上を自由自在に飛行しながら隻眼の針と爪を回避する。これは気龍の能力である。グスタフの魔装は他の魔装とは一風変わったもので魔獣を宿しているというところ。


 あの耳飾りで体に宿る魔獣を制御しているのだ。グスタフの適合である気龍は実態を持たない精神エネルギーのような魔獣。物に取り付くことで初めて実態を持つのだ。つまり、物に取り付くことでその物の潜在能力を大幅に引き出すことができる。これが能力である。


 故にグスタフの体は潜在能力が引き出された状態であり、それはもはや魔獣も同然。物に取り付くことでその物を魔獣にする。それがグスタフの魔装の能力である。


 隻眼は急激にパワーアップしたグスタフを警戒し始めた。仲間の鳥は必死に対空砲へと攻撃に向かっているが全く歯が立たない。自分以外全滅することはもう目に見えている。その前に、この人間とケリをつけよう。決心して雄叫びを上げた。


 針を高速で飛ばすがそれは全て回避される。グスタフは限界まで引き延ばされた時間の中で針を回避しながら近づいてき、殴りつける。隻眼の頬に鋭い痛みが走って断末魔をあげた。


 グスタフはかかと落としを決めて隻眼の体をフラフラにさせる。空中で体勢を整えた隻眼は負けるわけにはいかない! と針を発射しながら突進してくる。その針は流石のグスタフも回避できずに腕に刺さる……と思ったところで妙なことが起きた。


 時間が止まったかのように針の動きはキュッと止まったのだ。グスタフはその間に回避する。そんな能力は自分にない。そう思っていると対空砲を動かす佐藤が目に入った。少し焦った顔をしながら対空砲を動かして鳥を撃ち落とす。


(彼に魔装は配布していないはずだが……)


 グスタフは少しの間考えたがすぐにやめて隻眼の突進を受け止めた。


「今ですよ」


 グスタフの合図に反応して蓮とパイセンが起動させた。グスタフの考えを読み取った彼らはここぞ! という時にテキパキと行動する。パイセンが発射させた弾が隻眼に着弾すると音を立ててワイヤーが発射され、回転し動きを拘束する。


「これはワイヤーと銃弾の組み合わせ。着弾すればワイヤーに拘束されるぜ〜」


 自慢げに解説するパイセンを横目に、蓮はナイフを投げつけた。それも親ナイフである。


「隼人、包んでくれ」


「言われなくてもやるよ」


隼人が結界を起動させて親ナイフを結界で包み込む。隻眼が焦って針を発射するが結界で弾かれて軌道を変えることはできなかった。親ナイフはズプッと隻眼の体に刺さる。隻眼は思ったほどダメージがないな……と思っているとグスタフは「危ない……」と呟いて自分の元から離れていった。

 

 ワイヤーの中でもがいていると沢山のナイフが自分めがけて飛んできているのが見えた。子ナイフである。刺さった親ナイフめがけて小ナイフが飛んでいき、体の至る所に一斉に刺さっていった。それだけでは終わらない。体の至る所に刺さった子ナイフは親ナイフめがけて食い込んでいくのだ。想像を超える痛みが隻眼を襲い、狂い悶えていた。


「切り刻まれろ」


 蓮の決め台詞と共に隻眼の体は完全に貫かれて四肢を引き裂かれ、バラバラと崩れていった。蓮は「決まった!」とニヤリと笑う。


「お見事でしたよ。天野原さん」


 周りの鳥も撃墜し終わり、対空砲付近の戦闘は終わった。安堵の表情を思い浮かべる蓮達。亜人を相手しているマルス達が気になって急いで3人は彼らの元へ向かう。そこには鋭い爪で腹部を貫かれた悠人が……。

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