戦ノ神の新約戦記

これは神より堕ちた戦ノ神の新約戦記
天方セキト
天方セキト

今は迷う

公開日時: 2021年4月14日(水) 18:52
文字数:4,095

 せっかく凛奈と距離を縮めようと話しかけた隼人であったが凛奈に指でごつかれて冷ややかな視線を向けられてしまい、その流れで残ったフランメと食事を取ることに。話し合えるなら距離感関係なく話しかけたい隼人は相手の冷ややかな視線を受けるまで嫌がっていると言うことを知ることはできない。このせいで中学の頃から浮いた存在になってしまうと言う彼の残念ポイントだった。つい最近、決勝戦で恋塚から指摘をされたばかりなのに……と歯痒く思いながら味噌ラーメンを注文する隼人に隣のMr.フランメは話しかける。


「そういやぁ、お前……新人殺しの……宮村……」


 フランメは食事を受けとって近くの席に座った時に向かいに座る隼人を見て名前を思い出そうとしていた。凛奈が蓮の元へ行って連れていかれたので何故かはよくわからないが成り行きでフランメと共に食事を取ることになった隼人は返事をする。


「宮村隼人です。一回戦では……スナイパーに撃たれて死んだのであんまり記憶ないっすけど……」


 どうしてロリの女の子じゃあなくてこのガスマスクしてた火炎瓶の人と食事をすることになったんだろう……と隼人は考えているとフランメは「あぁ……アンドレアにか……」と一言。


「あいつは仕事熱心だからなぁ……。技術を上げる速度は早いぜ。ま、俺は安藤さんか姉さんの言うこと聞いて瓶投げるだけでいいから楽で仕方がないけどよ」


 フランメはヒュンヒュンと瓶を投げるかのように手を振る真似事をしながら笑った。どことなく野球のピッチングを彷彿とさせるスナップを見せるフランメを見て隼人は少しだけ気まずい思いになる。少し口角をピクピクしながら箸をパチンと割ってラーメンを啜る隼人を見てフランメは「どうした?」と水を飲みながら声をかけた。隼人はさっきまでとは違って珍しく弱気な声で「あぁ……いやぁ……」と話し始める。


「俺……中学の頃は部活出来なかったから、長い間なにかをやり続けるって経験があんまりないんですよね。それに飽き性なのも相まって中途半端になる時があるって言うか……」


 一回戦で見た時よりもかなり弱気に話す隼人を見てフランメは意外と繊細なんだな……と少し考えた後にパチンと割り箸を割って自分が頼んだカツ丼に箸をつける。


「……そういえば、新人殺しはみんな未成年だったな。かぁ〜……、俺はもう忘れちまったぜ。そうやって正しさを探してるっていうか……なんていうか……」


 フランメはフワフワな卵がかかったカツを口に頬張りながら箸を持っていない左手で赤い髪の頭を掻く。短く切りそろえられた彼の髪は掻き毟られたことによって少し跳ねている。


「いずれわかるっていうもんなのかなぁ……。答えがないんだよ、そういう悩みってのは。自分が飽き性って思うならそれに繋がるいいところを見つけてみろ」


「いいこと……すか? 飽き性……飽き性……」


 自分は物に飽きやすい。そこから派生して考えてみると幅が広いとも言えなくもない。自分は色んな物に目移りするほど好奇心はある。そう考えてみると少し楽になった気がした。自分がどうあるべきかという悩みは決勝戦から悩んできたことでもある。圧倒的強者の恋塚をなんとか倒すことはできたが戦略のカケラもないゴリ押しでのギリギリの戦いだった。


「けどよぉ……、あぁああああ! わっかんねぇええええ!!」


 隼人は盛大にため息をつきながら腕を勢いよく伸ばして声を上げた。その時に自分の拳が通路側を歩いている人に直撃する。隼人はすぐに「あ、すんません」と椅子から立って頭を立てた。


「……気にするな、宮村隼人」


 隼人は自分の名前が呼ばれたことに違和感を覚えながらゆっくりと顔を上げる。白いシャツに黒のズボンを吐いた赤髪の西洋系白人、ルイス・ラッセルだった。


「あー……、えぇっと……えー……ん……?」


「無理をするな……。覚えてないんだろう?」


「あー、はい」


「ルイス・ラッセル。二回戦でお前と戦った稲田班の班員だ」


 ここで隼人は思い出した。ミサイル砲から避けている時に蓮と逸れてしまい、なんとか元の道に歩いて行こうとするとレイピアを持ったこの人物が立ち塞がっていた気がする。あの時は西洋の御伽話に出てくる騎士のような煌びやかな服を着ていたので今とは全く空気が違っていた。


「あぁ、ルイス先輩。久しぶりっす。服、大丈夫すか?」


 隼人はルイスのトレーの上に乗ってある料理がオムライスだったことを知り、ソースが服についていないかが心配になった。幸いにもルイスは体幹がいい方だったので不意打ちの隼人の拳にも耐えることが出来たらしい。あまり理由になっていない気がするがこれ以上考えるのも野暮というものであろう。そういう空気を読むことは得意な隼人である。


「これもなにかの縁か……。ちょうどだし食事は一緒させてもらうぞ」


「どーぞー」


 隼人の隣にルイスが座ってフーッとため息をついた。隼人は戦った時と変わってないなぁ……と思いながら味噌ラーメンをすすり始める。これに一番困ったのはフランメである。序列2位の稲田班の前衛戦闘員と一緒に食事ができるとは思ってなかったのでかなり緊張していたのだ。それに勘づいていたのか、ルイスは少しだけ目を細めてフランメを見る。


「……、顔に何かついているのか?」


 軽い気持ちでの問いかけだったのだがルイスの目は細めるとそれなりの威圧感が漂う仕組みになっている。それに震えてフランメは「あー! いや、違うっす」と急に小並感を丸出しにしながら自己紹介を始めた。


「初めまして、安藤班所属のミスター……いや、日村俊明ひむらとしあきです。恥ずかしながら序列は11位ですが何卒よろしくです」


「ルイス・ラッセルだ。序列の云々は気にしなくてもいい」


 ルイスはかなりピリピリした威圧感を全身から放っており、隣に座っている隼人にもそれは伝わってくる。表情をあまり変えずに静かに料理を味わっているあたり真面目であることがひしひしと伝わってきた。そんなルイスもアイスブレイクをしたくなったのか、スプーンの動きを遅めながら隣の隼人にチラリと視線を送る。


「そういえばだったな。まさかお前が恋塚紅音を倒すとは驚いたぞ。4年前はなす術もなく俺がやられた相手だったから何よりだ」


「いやいやそんなことないっすよ。メンタルで言えば俺は恋塚さんに負けてました」


 隼人はチャーシューを口に頬張りながらしんみりとした顔で噛み締めてゆっくり飲み込む。恋塚紅音の言葉が自分の心の中に反響して少し気まずい気持ちとなった。


「精神面か……。それは仕方がない。お前……いくつだ?」


「え……、俺すか? 17っす」


 隼人からそのことを聞かれたルイスはまだこれだけ若いのに……と改めてこの戦闘員の強さを実感する。自分が相手した時には脳味噌まで筋肉でできた一方通行な奴だと思っていたが実際は自分の正義を信じて困難に立ち向かう勇敢な戦士だった。それを踏まえつつルイスは達者な日本語で話し始めた。


「今は十分に迷うがいい。何が正しいのか、何がいけないのか。沢山失敗するといい。その痛みがお前を強くする。そう思うだろう? 日村」


「え!? あ、はい……」


 フランメは急に話を振られたことにビックリしたがなんとか答えることができる。フランメもこのルイスを見て感慨深くなった。序列が2位の班と言われてどんな戦闘員なのかと思えば実際は後輩のことをしっかりと考えてアドバイスを与える戦闘員であったということを知った。


「宮村、あの決勝戦でお前がどれだけ傷付いたかは俺達には測り知ることができない。痛みやその先になにがあるかはお前が一番知っている。ただ、これだけは覚えておけ。俺たちは弱き者の盾となる戦闘員だ。越えられる壁から越えていけ」


 それだけ言い終わってからルイスはオムライスをゆっくりと味わいながら食べていく。隼人はそんなルイスを見ながら少しの間考えた。あの時は悠人と楓さんの思いを胸に恋塚紅音を撃破した。その意思を継ぐにはどうすればいいのかを必死に考えた上でのあの攻め方だった。そうならば自分は壁を越えるだけの力があると言うことになる。そんな隼人にフランメはサムズアップをしながら


「ま、なんかあれば先輩の俺たちを頼れ! 大人はそういう時のためにいるもんだ。遠慮はしなくていいぜ?」


 それを言われた瞬間、隼人は自分は陰から色んな人たちに守ってもらえてることを知って涙腺が緩んできた。たしかに何が正解で何が間違いかは今の自分にはわからないことが多い。そうであっても隼人には乗り越えられる力はあるのだ。


 そんなところまで考えて味噌ラーメンを食べ切った隼人。そのタイミングで「おーい」と声をかける人物が一人、凛奈と巨乳美女を連れた蓮だった。知らないところでもう一人をゲットしている蓮を見て隼人は「はぁ!?」と言いながら席を立ち上がる。


「てめ、何凛奈ちゃん以外にも女連れてやがる! これ以上俺を裏切んなよ! へ、いいさ。お前は泣き虫だからな、女どもに泣きついて甘えればいいさ……いいさ!」


「お前が一番泣いてるだろ……」


 大泣きをしながら蓮を攻め立てる隼人。凛奈はそんな隼人に相変わらずの冷ややかな視線を送りながらフランメにキャンディの袋を見せつけた。フランメはよかったなと凛奈の頭を優しく撫でる。気持ちよさそうに目を細める凛奈を見て隼人は「あー!!」と大発狂。


「どうして俺の周りにはリア充しかいねぇんだよ!! パイセンにマルスに蓮まで……!! いつかいい女をお前達に紹介するからな! 俺の腕の中に5人くらいの美女連れてやってきてやるよ! ほら、謝るなら今のうちだぜ蓮!」


「ゴメ……いや、ゴーフ◯◯クユアセルフ」


 平然とした顔でそう言い放った蓮に対して隼人は「知るかぁああ!」と言いながらその場を後にした。全員、今のなんだ? と頭の上にはてなマークを浮かべてその場に佇む。


「あ、うちの隼人がすみません。じゃあな、凛奈ちゃん。福井さんもありがとうございました、また機会があれば」


 蓮はそう言って凛奈に手を振ってから一礼してその場を去っていった。平然とした顔で自動ドアを潜る蓮を見て「天野原……いいやつじゃん」と蓮への好感度を上げていくのだった。

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