戦ノ神の新約戦記

これは神より堕ちた戦ノ神の新約戦記
天方セキト
天方セキト

逃亡劇

公開日時: 2020年12月14日(月) 21:56
文字数:2,994

「うっわ!? ちょ……」


「いちいちコメントいらないから早く走れよ!」


 現在、蓮と隼人は工場地帯の住宅街とも言えるような建物が密集した地点を爆走している。必死に走る彼らめがけてロケットランチャーが発射されて周囲の建物を爆破されていくという最悪のシナリオだ。爆破の衝撃波でバランスを崩しそうになりながらも彼らは走り続けた。こうやって走って逃げる事は彼ら二人の学生時代のご法度だ。


「おいおいマジかよ……。開始早々命の危機とかありえねぇ……」


「それが戦闘員って割り切れよ。そろそろ」


「うっせぇ、俺は二回戦でミサイルを躱しながら移動してたらスライム女と戦う羽目になったんだぜ? 体をジワジワ溶かされる痛み知ってんのかよ!」


「俺だって物をバラバラにしてしまうパシリ野郎と戦ったわ!」


「知らねぇよ!」


 文句を垂れる蓮。事の発端はほんの数分遡る。蓮が目覚めた場所はこの中小工場が集まる団地の真ん中だった。敵が比較的潜んでそうな地点で目を覚ましたものだからどうしようかと思っているとこちらに手を振りながら走ってくる人物を見つけ、ナイフを投げるとビビった顔をした隼人がいたという事だった。


 偶然隼人と近い地点に転送されたことを知り、蓮はホッと一安心。その時に「ボシュ〜」っという気の抜けるような音が辺りに響き、空を見上げると自分たちめがけて飛んでくるロケット弾があったから逃げ出したという経緯だった。ロケット弾は工場丸ごとを爆破して蓮と隼人を巻き込もうとしてくるがそこは彼らが長年培った逃げ足の良さで振り切る。自慢したくはないが路地裏の自販機周辺に落ちている小銭を集めていた時にヤンキーに絡まれ、町中の路地裏を逃げまくったのは中学の頃の思い出だった。


 今回の相手はチンピラ風のヤンキーではなく集団戦法が得意な戦闘員なので彼らは必死に逃げる。狭い路地を使えばすぐに脱出できると考えたがそんなことをすれば周辺を爆破され、木っ端微塵になるので比較的大通りを通って走っていた。学生時代の一見苦い思い出のようなしょうもない特技を発揮することになった二人。カッコ悪い事は自覚している。しかし今は逃げるしかない。


 走りながら後方を確認して目を凝らした隼人はとうとう発見に成功。


「蓮、攻撃してるのはあいつだ! なんとかできないか?」


 隼人が指差す先にはロケットランチャーを構えた戦闘員が1人。軍服のような服をしておりスコープを覗きながら照準を合わせて発射する。


「……ッ!? マジかよ、隼人下がれ!」


 発射されたロケット弾は蓮と隼人を追い抜いてその地点にピンポイントで落下しようとするのを蓮は確認し、一旦、路地へと飛び込んで違う大通りへと向かおうとする。だがしかし、そのことは敵の作戦通りでありその路地に照準を合わせた。自然と路地に入り込んでしまった蓮は舌打ちをして魔装を起動させる。投げナイフを上空に投げて隼人の服を掴み、親ナイフを起動させる。


 ロケット弾が発射されたのと蓮と隼人が空中に飛び上がったのはほぼ同時だった。蓮と隼人が入った路地裏ごと周辺の工場は大爆発を起こす。冷や汗を垂らしながら蓮は大通りにナイフを投げて親ナイフを起動させて着地する。


「スマン」


「いいんだ、気にするな」


 煙の中から現れるランチャーの戦闘員を確認して逃走を再開した。さっきはああやって回避することができたがもう同じ手はできそうにになかった。上空目掛けて今度は撃ってくるであろう。そうなると悠人達と合流する前に直撃で爆破される。汚ねぇ花火になるのはごめんだった。垂れる冷や汗を拭いながら蓮は必死に考える。その時に隼人が話しかけてきた。


「お前のナイフでなんとかできないのか?」


「残念だが……無理だ。敵の射程が長すぎる。俺のはただの投擲であって機械のギミックで発射される弾丸なんかと比べれば射程は短い。遠すぎても当たらないし、そもそも親ナイフで引き寄せることができない」


 これこそが蓮の弱点だった。ナイフが飛ぶのは蓮の投擲技術があるということと適合生物の恩恵である身体強化に頼ってるだけなので射程はそこまで遠くない。遠すぎるとそもそも届かないということに合わせてたとえ届いてもかすり傷にもならないという事態に陥る。それに親ナイフの引き寄せは自分の射程に依存するので射程圏外を超えると発動できないのだ。ナイフを捨ててまで投げるような馬鹿な真似はしない。


「ナイフの射程は?」


「せいぜい……殺傷効果を残すんだったら10メートル行くか行かないか。お前の結界が有れば近づけるんじゃないか?」


 隼人は答えようとしたがロケット弾が隼人の隣の建物を爆破して2人のバランスを崩していく。転びそうになりながらも体勢を整えて喋り始めた。


「俺も……難しい。あのロケット弾は広範囲を爆破することに適している。お前を守りながら戦うなんて不可能だ。体力の消耗も激しい」


「どっちも相性が悪いのか、とにかく逃げるぞ!」


「言われなくても逃げるって!」


 さっきよりも踏みつける足に力を入れて走り出した。逃げている途中でもロケット弾は自分たちの所をピンポイントで狙って落ちてきたのでその時は走り幅跳びの要領で前方にジャンプして距離を稼ぐ。蓮は頭の中で状況を整理する。今いる二人で協力してもあのロケットランチャーを撃破する事はできない。今のところいる敵はロケットランチャーの魔装を扱う敵ただ一人だ。魔装と判断した理由はそのホーミング性能である。


 自分達がどこへ向かうのかを的確に当ててくることに加え、広範囲を爆破する破壊力を持ち合わせたロケットランチャー。遠距離で一方的に攻めるにはあまりにも有利な性能だった。故に魔装であることを判断したわけだが蓮は舌打ちする。


「さすがは序列3位の経験が濃い班と言ったところか。シナリオが安藤班や稲田班よりも理にかなっている」


 隼人の呟きに蓮は「認めたくはないがな」と舌打ちをする。安藤班の炎を使った一方的な集団戦法や稲田班のレーダーとミサイルを使った分断作戦も凄かったがこのレグノス班はそれを超えるかのような機動性を誇る。行動に迷いがなく、一切の感情の起伏を見せないで戦うレグノス班。まだ演習は始まって少ししか立ってないのに自分のやるべきことを把握して合理的に攻撃する様子や動きに無駄がないところは蓮から見ても驚異だった。そんなことを思いながら走っていると比較的相手のロケット弾の軌道に癖がなくなってきていることに気がつく。空中で曲がりくねった飛行をして確実に自分達を狙うというよりかは一直線に飛ぶことが多くなったロケット弾を見てハッとした。


「どうやら射程が伸びすぎたらホーミングができなくなるそうだな」


「だな、蓮。それにしてもよく考えればシンプルな能力だぜ。悠人の目論見通りだったな」


 蓮が頷きながら周囲を見渡していると遠くに倉庫街を発見した。追尾の様子からあそこに潜り込めば時間を稼ぐことが出来ると蓮は判断し、隼人に話しかける。


「隼人、あそこの倉庫街まで一気に走るぞ。相手があそこに追いつくまで少し時間を稼げる」


「わかった。お前を信じるぞ?」


「勝手にしろよ」


 蓮は信用してくれる隼人に少しだけ嬉しい気持ちを隠しながら倉庫街を指差してニヤリと隼人に向けて微笑んだ。こんな時だからこそ笑顔を見せてくれる蓮を見て隼人も嬉しくなりラストスパートに入る。そうして蓮と隼人は倉庫街に逃げ込んだのであった。

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