宿主の免疫系の遺伝子を組み込んだ組換えウイルス。
その言葉が意味するところを、あらためて具体的に考えてみると……。
確かに、ウイルスという病原体に対して、素晴らしいワクチンになりそうです。
免疫系の遺伝子ということは、免疫システムが働く時に関与する遺伝子なのでしょう。ワクチンの中にそれが含まれているのですから……。
ワクチンによって、普通に引き起こされる免疫システム。
人工的に加えられた遺伝子によって、システムそのものが増幅される免疫システム。
それらの相乗効果がありそうです。
急いで走っている時に、魔法の風で背中から押してもらって、さらに加速する……。そんなイメージが頭に浮かびました。
「凄いですね!」
「わっ! 突然、どうした? そんな大声……」
思わず私は叫び声を上げて、マドック先生を驚かせてしまいました。
でも、仕方ないでしょう。
ここで私は、思い出したのです。
「マドック先生、先ほど『俺の特殊技能は魔法で組換えウイルスを作る能力』と言いましたよね?」
「ああ、言ったぞ」
「ならば……。この世界でも、免疫系遺伝子を組み込んだウイルス、作れるのですね!」
そうです。
マドック先生が「俺がやっていたのは……」と、あちらの世界の経験を語り出した時。
最初は「凄い!」と思いつつも、どこか遠くに感じていました。「しょせんあちらの世界の話」と思ってしまったのです。
でも、この世界でも作れるならば、話は違ってきます!
「ああ、そうだな。作ろうと思えば作れるだろうが……」
興奮する私とは対照的に、マドック先生は穏やかな口ぶりです。ちょっと私の期待した態度とは違いますね。
「……元の世界と同じもの作っても、面白くないだろう?」
面白くない、ですって! 何てことを言うのでしょう! 優れたワクチンがあれば、それで助かる人もいるでしょうに!
「いやいやマドック先生、そういう問題ではなくて……」
「それで、俺がこの世界で作ってるのが『冒険者のステータスに関わる遺伝子を組み込んだウイルス』ってわけだ」
……私の話を流さないでください!
そう叫びたかったのですが、マドック先生は、こちらが口を挟む暇を与えてくれません。
いよいよ話が本題に入ったと言わんばかりに、熱い口調で彼は語り続けます。
「パワーとか、スピードとか、体力とか、魔力とか、精神力とか、運とか……。ステータスに直接関与する、促進遺伝子あるいは抑制遺伝子。そういうもんを取り入れた組換えウイルスを作るなんて、元の世界では無理な話だった。思いつきもしない、夢物語だった。だが、ここでは……」
改めてマドック先生は、私に満面の笑みを向けてきました。
「……特殊技能のおかげで、それが可能になった。ならば、作ってみたくなるだろう?」
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